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テニスのデビスカップががらりと変わる? ピケと三木谷氏が動かす“コスモス社”とは

2019 5/7 15:00橘ナオヤ
デビス杯2018で13年ぶりに優勝したクロアチア代表ⒸBAKOUNINE/Shutterstock.com
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スポーツ界の風雲児コスモス社

テニスの国別対抗戦「デビスカップ」が、2019年から新フォーマットとなった。このニュースが報じられた時、そこには一人のプロサッカー選手の名前があった。それは、世界最高と称されるクラブ、FCバルセロナのCBジェラール・ピケだ。

2017年、ピケは楽天の三木谷浩史会長らとともに、スポーツ投資会社Kosmos Global Holding(コスモス社)を創設した。

コスモス社とは、スポーツとメディア、そしてエンターテインメントを統合し、新たな価値を創造すると標榜する投資会社である。

CEOは現役サッカー選手のピケだ。首脳陣にはスポーツ界で一線に立つ実業家たちが名を連ね、そこにはピケの友人である三木谷氏が共同設立者の一人として紹介されている。

三木谷氏は楽天のCEOとしてプロ野球パ・リーグの楽天ゴールデンイーグルス、Jリーグのヴィッセル神戸のオーナーを務める。また楽天は2017年からピケが所属するバルサのスポンサーになるなど、多種目に渡るスポーツビジネスを展開している。

ほかにも、経営陣には電気自動車によるフォーミュラレース「フォーミュラE」に参戦するDSテチーターのプレジデント、エドムンド・チュー氏の名前もある。チュー氏は中国国内でスポーツマネージメント会社のマネージングディレクターも務めている。

他にも米国や欧州のスポーツ界やエンターテインメント業界で活躍する経営者が集まり、多角的なスポーツビジネスを展開していくとみられる。

デビスカップをテニスのW杯化

コスモス社の動きが最初に世に知れ渡ったのは、2018年2月のこと。BNPパリバが主催するデビスカップが翌年から改革すると報じられた際に、その改革案の考案者としてコスモス社の名前があった。国際テニス連盟(ITF)とコスモス社は25年のスポンサー契約を結んだが、その投資金額は30億ドル(約3200億円)にのぼるという。

それまでのデビスカップは1回戦から決勝までがシーズンを通して世界中で試合が行われ、選手の過密スケジュールの一因になっていたほか、ATPランキングポイントが付与されないなど、課題が山積していた。そこでコスモス社は、解決策としてサッカーのワールドカップのようなフォーマットを提案したのだ。

予選を2月に行い、本大会出場国を決定。本大会はシーズン最終盤に一か所で開催することで、過密スケジュールによる選手の負担を減らす。また、単一会場で行うことで集客面などの向上、大会自体の盛り上がりを高める狙いもある。さらには、ATPランキングも付与し、賞金もグランドスラム級にするという話だ。

スポーツエンターテインメントを手掛け、サッカーとの関わりが強いコスモス社らしい提案の下、2019年のデビスカップは大規模な改革がなされた。この新たな形式には賛否両論あり、ノヴァク・ジョコヴィッチやアンディ・マレーらがATPランク付与や賞金増額などの改革を歓迎する一方、単一会場で行うことで旧フォーマットのように出場国のホームで戦う醍醐味が失われるとの批判もあるのだ。いずれにせよ、新フォーマットによる本大会は11月に行われる予定で、その結果を見てから改革の成否を判断することになるだろう。

その他の動きとして、コスモス社はテニス事業「コスモス・テニス」を進めるにあたり、ラリー・エリソン氏を投資家に迎え入れている。エリソン氏はソフトウェア企業オラクル社の共同設立者だが、カリフォルニア州にあるインディアンウェルズ・テニスガーデンの所有者であり、また同地で行われるテニスの大会、BNPパリバ・オープン(ATPマスターズ1000、WTAプレミア・マンダトリー)のオーナーも務めている。

さらに経営陣の一人、三木谷氏の楽天は楽天ジャパンオープン(ATP250)を主催している。テニス界への関与を深めるコスモス社は、今後ATPの大会への出資と改革に乗り出すのだろうか。

バルサの同僚も巻き込むサッカービジネス

現役選手によるビジネスは珍しいことではない。元日本代表MF本田圭佑がHONDA ESTILOを通じてサッカーチームを保有していることをご存知の方も多いだろう。本田同様にピケもサッカークラブの経営に乗り出している。

2018年12月、コスモス社はスペインの隣にある小国アンドラ公国に拠点をおくFCアンドラの買収を発表した。FCアンドラはスペインの下部リーグに所属するチームだが、この買収で監督や選手補強が一気に“ピケ仕様“となった。

監督には現役時代バルセロナでプレーし、バルセロナB(ユースチーム)の監督も務めたガブリ・ガルシア氏が就任。さらにバルサの監督を務めた故ティト・ビラノバ氏の息子、DFアドリア・ビラノバを獲得した。また面白いことに、ピケの親友であるバルサのFWリオネル・メッシやバルサユース出身のMFセスク・ファブレガスもFCアンドラの株式を所有しているといわれる。将来はバルサ会長とも言われているピケが、アンドラでどのようなチームを作っていくのか注目だ。

またバルセロナにコスモス・スタジオをかまえ、トッププレーヤーたちのコンテンツ展開も進めるなど、投資以外でもスポーツとメディアによる新たなエンターテインメント創出を進めている。

日本にとっても、三木谷氏が参画するコスモス社の動向は見逃せない。あくまで憶測だが、今後楽天が保有するクラブや、楽天ジャパンオープンなどとの共同プロジェクトが行われる可能性もある。現役トップ選手が仕掛けるスポーツ界の改革には要注目だ。