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トランポリンと綱渡りの融合スポーツ スラックラインの魅力とは

2019 3/31 11:00高須基一朗
岡田亜佑美,ⒸFREEFALL SLACKLINE MAGAZINE
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ⒸFREEFALL SLACKLINE MAGAZINE

5cmのベルト上で味わう恐怖心と浮遊感

最近は芸能人やトップアスリートによるSNSの投稿で話題になることが多いスラックライン。スキージャンプの葛西紀明選手がオフのトレーニングで取り入れていることが話題になったのは記憶に新しい。

スラックラインは幅5cmの収縮性のあるベルトライン上で飛んだり跳ねたりすることで浮遊感を楽しむ、トランポリンと綱渡りを融合した新スポーツだ。

実はスラックラインといっても、この飛んだり跳ねたりするアクロバティックな競技を厳密にはトリックラインと言う。そのほか、崖と崖を一本のラインでつなげてそのラインの上で恐怖感と戦いながら命綱をつけて歩くハイラインは、バンジージャンプに近い感覚のスリル感を楽しめる。

100m近くの長くてたわんで揺れるラインで落ちずに長さを競うロングライン。さらにハンモックのようにスラックラインを緩くアーチを描いて樹と樹をつなげ、横に揺らしてブランコのように楽しむロデオラインなど、多種多様な遊び方が存在する。

また水上で行うトリックラインをウォーターラインとも表現する。

現在、そのスラックラインのジャンルの中でも人の目を引く、頭が逆さまになる縦回転技の多い体操のようなトリックライン競技が日本で人気を博し、直近の3年間では日本人が次々に国際大会で世界チャンピオンに輝くなど、日本のお家芸の一つになりつつある。

日本のお家芸と呼ばれるスポーツの代表格といえば、柔道やレスリングなど体重や階級で区切られたスポーツ。階級で区切られない競技枠で考えると、卓球やバトミントンぐらいだろうか。階級が区切られないスポーツであるスラックラインで世界のトップ選手と渡り合える日本人ライダーが数多くいるのも魅力的なポイントでもある。

筆者は元日本ランキング13位

実は、筆者自身も日本にトリックライン競技がスタートした9年前の黎明期に、3年ほどライダーとして活動していた。

当時、日本スラックライン連盟が設立され、初めて発表された日本ランキングでは13位だった。日本の最高峰の戦いの舞台であった第2回GIBBON日本オープン浅草ROX大会ではベスト16に入った。

当時と比べると今の技術レベルは天と地ほど違うが、競技者として肌で感じていたことを振り返ると、非常に浮遊感を楽しめるエックススポーツの要素が強いと言い切れる。 スノーボードやスキーのジャンプ台で飛び出すような浮遊感を体験できると言えば伝わるだろうか。 ライン上から逆さまに転倒して地面にたたきつけられれば鈍痛を感じるが、若者が一度でもトリックラインの浮遊感を経験したらドハマりすることは間違いない。

では、ランキングはどのようにして決まるのか。日本では4月からシリーズ戦がスタートして10月までの約半年間で3~4回の地方大会が行われる。各大会の上位者にポイントが加算される。地方大会はB級トーナメントとして認定され、優勝すれば60ポイント、国内最後の日本オープンはA級トーナメントの位置付けとなり、優勝者には84ポイントが加算される。

地方大会と日本オープンで、より表彰台の高いところに上る回数が多くなると、年間チャンピオンの称号に近付く。同時に10月の段階でポイント数によってランキングが確定する。

世界で活躍する10代の日本人選手

試合形式は日本スラックライン連盟が推奨する競技時間制限の中で1対1で行い、3名のジャッジが優劣をつける勝ち残りのトーナメント形式と、ライバル団体であるスラックライン推進機構が推奨する点数加点方式の二つ存在する。 前者はボクシングの試合をイメージしてもらうと分かりやすく、後者はフィギュアスケートのように各技の難易度に応じて点数が違い、それをCOMBOでつなげることで加点していく。

同じトリックラインでも技術面で戦い方が大きく変わるので、国内の競技者はどちらのルールにも適応しなければならない。どちらのルールを基本にするのか、覇権争いが今なお繰り広げられている。

スラックライン,ⒸFREEFALL SLACKLINE MAGAZINE

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そして、日本のトップレベルには、この二つのルールに適応する万能な技術を持ち、世界で通用する選手がいる。男子、女子ともに全て10代の選手で、世界規模で活躍し続けている。

男子では、レッドブル・アスリートとして看板を背負っている19歳の木下晴稀(きのした・はるき)選手。さらに同じく19歳のアクションカメラ「GOPRO」のサポートライダーである細江樹(ほそえ・いつき)選手。そして世界中でスラックライン・ブランドの頂点に君臨するドイツ発祥のGIBBONSLACKLINESナショナルライダーの田中輝登(たなか・てると)選手。彼はまだ17歳の現役高校生である。

女子では、2019年の元旦にテレビ番組で紹介された女子世界ランキング1位の19歳、須藤美青選手。スラックライン上で競技をしながら地面に落ちずに狭い厨房でラーメンを作るという離れ業を成功させて話題になった。またトリックラインでは女子で2強として名を馳せている18歳の岡田亜佑美選手。元AKB48の前田敦子に似ている美女アスリートとしても人気がある。

以上5人は世界の格式あるスラックライン国際大会で表彰台の常連だ。そして、そのあとを追いかける次世代の日本人選手が少なくとも男女合わせて10人以上いる。

スポーツ庁と外務省が大会を後援

マイナースポーツとしての域を脱していない数年前はスポーツ新聞ですら、スポーツ面の片隅に数行のみ掲載したに過ぎなかったが、ようやく2019年に入り、本格的にスラックラインが日の目を浴びようとしている。

実は一般社団法人スラックライン推進機構が主催するスラックラインワールドカップ・ジャパン「FULL COMBO」をスポーツ庁と外務省が後援することになったのだ。大舞台で日本人が活躍する可能性が極めて高いことから、明るい未来に向けて全面的にサポートする運びとなった。

今年度のスラックライン・ワールドカップ予選として、アジア・オセアニア・ヨーロッパ・アフリカ・北アメリカ・南アメリカの6エリアで各3人を選出。計18人の予選通過者が世界中から集う。 世界全体を見ても、今や日本を中心にスラックライン情勢が動いており、日本スラックライン界が世界の舵取りをして、オリンピック競技として認可されるための準備段階でもある。

今後さらに勢いを増す日本スラックライン界。日本人ライダーたちの世界レベルの技に注目してほしい。

スラックライン表,ⒸSPAIA

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