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楽天グループのスピードと実現力が見えるスポーツビジネス戦略

2019 2/2 11:00藤本倫史
楽天
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Ⓒゲッティイメージズ

キャッシュレスなスタジアム

2020年からプロ野球、東北楽天ゴールデンイーグルス「楽天生命パーク宮城」とJリーグ、ヴィッセル神戸「ノエビアスタジアム神戸」の本拠地で、キャッシュレス化が進む。

このニュースを聞いて、私は楽天のスピードと実現力がすごいと純粋に驚いた。この球場のキャッシュレス化というアイディア自体は、私が大学生だった2000年代前半から存在した。また、私が大学の講義やゼミでグループワークやプレゼンテーションを行わせると必ずクレジットカードを使ったポイント制度や特典などのアイディアは必ず出てくる。そこで、私たちも批評や指導を行い、サービス提案を行うことなどがある。

そうやって普段から関わりがあるため、このニュースは素通りできず、じっくりと分析してみたいと思った。細かく見ていくと、私たちが大学時代に考えていたスポーツビジネスのアイディアが具現化されているのだ。

私はローカルなプロスポーツのマネジメントの研究を専門としているが、どんな新しいアイディアや情報を持っていても具現化されるのはごく一部であり、なかなか進まない。規模も小さく予算的な余裕の少ない地方自治体であれば、それは仕方ないのかもしれない。しかしスポーツ界でもビッククラブと言われるプロ野球やJリーグの球団は同様で、特に和を重んじる文化が根強いスポーツ界のビジネススピードは遅いと感じている人も多いのではないだろうか。

500億円を超す投資

楽天グループは良くも悪くもそのような現状を破壊するかのように、2016年からすさまじいスピードで戦略を進めている。

まず、2016年にFCバルセロナと64.5億円×5年契約でユニフォームスポンサー契約を締結。総額300億円を超えるビッグな契約である。それに留まることなく、自チームのヴィッセル神戸では、2017年に元ドイツ代表のポドルスキと2年半で約23億円、2018年には元スペイン代表のイニエスタと年俸32.5億円×3年契約、そして今シーズンから元スペイン代表ビジャと約3億円の2年契約を結んでいる。これらを合計するとサッカーだけで、約450億円に投資していることになる。

さらに、サッカーだけでなく、2017年にはNBAのゴールデンステート・ウォリアーズと約22億×3シーズンと約60億円を超すスポンサー契約もしており、アメリカの人気スポーツリーグにも影響力を持っている。

もちろん、プロ野球の東北楽天ゴールデンイーグルスも保持しており、投資している金額は500億円以上になる。この金額から、一企業の広告塔ではなく、楽天グループの重要な一事業として確立されていることがよくわかる。

同時期に参入したソフトバンクとは対照的である。ソフトバンクは2005年から福岡ソフトバンクホークスを保持したことで、同時期に拡大しようとした携帯電話事業が一般の人々に認知され成功した。

それ以降もプロ野球の中では、常勝球団かつスポーツビジネスとしても黒字化に成功している。ただ、グループ企業と連携し、多額な資金を使ったグローバルな動きは少なく楽天とは対照的だ。

本気の楽天はどこへ向かうのか?

皆さんの中には、儲かっている企業が余裕を持った投資をしていると思われるかもしれないが、この額はそれを通り越している。今、経済の動きとして、紙幣などの通貨制度からクレジットカード、ネットマネー、電子マネーのいわゆるキャッシュレスな世界へ移行しようとしている。

この流れの中で、楽天は主力事業である楽天市場を中心に、より国内でネットショッピングを加速させ、キャッシュレスな世界への先導役として、日本のトップランナーとして走っていくだろう。また、アマゾンやアリババグループのような世界有数の売上を誇る同業他社とも世界で戦っていくことになるだろう。

そうした中で楽天グループは、スポーツをグローバル戦略の重要な広報役として、投資を行っている。これはかつて、昭和に行われた新聞の販売促進や私鉄沿線の都市開発のシンボルとして、利用されたプロ野球球団とは違う形の姿である。

1月15日に上記のポドルスキと楽天株式会社は、グローバルアンバサダーとしてパートナーシップ契約を締結したことを発表している。私たちが想定していたプランやアイディアを具現化する三木谷社長率いる楽天は、成果を得ることができるのだろうか。これまでにないグローバルなスポーツビジネスの戦略として、注目していきたい。

《ライタープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。