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黒人選手はスポーツに有利?筋肉と骨格から見る体の違い

2018 10/6 13:15中野卓
世界陸上2017,男子100決勝,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

遺伝的に異なる体格・筋肉

スポーツの試合を見ていると、黒人選手が活躍しているシーンを目にすることが多いと感じないだろうか。特に陸上短距離やバスケットボール、サッカーといった競技では特に黒人選手が活躍しているように感じる。

世界の人類を大きく分けると3つに分類することができる。白人系、アジア系、そして黒人系の3つだ。実は、黒人系の人種は他の2つの人種とは遺伝的に体格や筋肉に特徴があることが分かってきている。

黒人系の人々は他の人種とは一体どのように違うのか、それはどのようにスポーツに影響してきているのだろうか。

そもそも骨格が違う

まずは見た目の違いについて紹介する。黒人のスポーツ選手を見ていると、明らかに体格が大きいと感じるだろう。日本とアフリカ諸国の身長を比べれば一目瞭然である。

今年はサッカーW杯が開催され、大変賑わったが、一体日本代表選手と海外選手ではどれだけ体格差があったのだろうか。

サッカー日本代表選手は、平均身長が178cmであった。それに対し、今年のW杯で優勝した、黒人選手が多いフランスの平均身長は180.5cmだ。また、黒人の多いセネガルやチュニジアの平均身長はそれぞれ183.7cm、184cmだ。これだけ身長差があると競技にも大きく影響してくる。

こうした差は遺伝的要因により生じる。世界の人種は大きく分けて白人系、アジア系、黒人系の3つに分けられると述べたが、黒人系はこれら3つの中で遺伝的に最も骨格が大きく、アジア系は遺伝的に最も骨格が小さいことが知られている。 骨格に差があるということは必然的に筋肉の量も黒人の方が多くなる。どの競技を行うにしても体格が大きければ有利となる。黒人は人種のグループで見れば遺伝的に大きなアドバンテージを持っていると言ってもよいだろう。

中枢の筋肉が発達している

次に筋肉の発達の仕方について述べる。結論から述べると、黒人系の選手は、スポーツに最適な筋肉のつき方をしている。

どのような筋肉のつき方かと言うと、お尻やハムストリング(もも裏)、背中、お腹といった、体幹に近い部分の筋肉が大きく発達しており、ふくらはぎや前腕といった、体の中心からは遠い抹消の部分の筋肉はスマートになっている。

ボールを投げたり蹴ったり、走ったり飛んだりする動作はスポーツでは基本となる動作だが、こうした動作を行うためにはまず体の中心にあるお腹や背中の筋肉を使い、肩や股関節を動かす。続いて肘や膝の関節が働き最後に手首や足首といった関節を動かすことで様々な動作を行っている。

腕やふくらはぎなど抹消の部分に過剰な筋肉が付いていると体を動かすのに無駄なパワーが必要となる。また、中枢の筋肉が発達していないと大きなパワーを発揮することができない。

黒人系の選手は中枢の筋肉が発達しており抹消の筋肉が必要最低限、理想的な量で付きやすいので、効率的にパワーを発揮できる筋肉の付き方になりやすいのだ。 陸上短距離で世界新記録を保持しているボルト選手を見てみると、非常に分かりやすい。

お尻やハムストリングが特に発達しており、太ももの筋肉も発達しているのが分かる。それに比べふくらはぎの筋肉はスマートな筋肉の付き方で、足首は細くなっている。体から遠い部分に重りがついていると余分な力が必要なので、その重りを極力なくした結果が反映されている。

また上半身は、肩の筋肉が特に発達しており、肘を曲げ伸ばしする上腕二頭筋、上腕三頭筋も発達している。それに比べ前腕の筋群はふくらはぎと同じくスマートにまとまっている。短距離では腕の振りも重要なので、腕を振るのに必要な、中心に近い肩の筋肉が大きく発達していることが分かる。

実際に白人と黒人の大腰筋(脊柱と大腿骨を結ぶ、股関節の屈曲に関わる筋肉)の大きさを比較した実験では、筋肉の横断面積が3倍以上違うという結果が報告されている。

また、黒人は体の前面よりも背中側の筋肉がよく発達しているということも挙げられる。ボールを投げたりバットを振ったりするという動作を行う際には体の前面よりも背中側の筋肉が重要となる。黒人はこうした動作を行う際に使う筋肉が発達しているのだ。



瞬発力を発揮しやすい筋肉が多い

筋肉には持続的に一定の力を発揮できる遅筋線維と、瞬発的に大きな力を発揮できる速筋線維という2つの筋繊維が入り混じって構成されている。黒人は他の人種と比べて筋繊維タイプにも特徴がある。

黒人と他の人種とを比較すると、黒人の方が、速筋線維が多く存在することが知られている。つまり黒人は瞬発的に大きな力を発揮するスポーツやプレーが得意と言える。

筋繊維タイプも遺伝的要因が大きい。トレーニングにより筋繊維タイプに変化は生じるものの、元々の構成が違うので一朝一夕でその差を埋めることは難しい。

ただ、筋繊維タイプについては、速筋線維が多いからどの競技においても有利であるとは限らない。速筋線維が多いということは、相対的に遅筋線維が少ないとも言える。遅筋線維は持久的な運動を行う際には重要となる。

そのため、試合時間が長いサッカーやラグビーといった競技では、後半からバテてしまい力が発揮できないことなどが考えられる。

マラソンでは黒人が強いという印象を受ける方が多いのでこの結果は意外に感じた方も多いだろう。黒人選手がマラソンに強いのは筋繊維以外の要因が関係している。

最も影響を与えているのが、その国の立地だ。マラソンが強いアフリカの国の一つとして、ケニアが挙げられる。ケニアはアフリカ大陸の東側、赤道のほぼ真下にある国で、標高は平均1500mと言われている。

標高が高いとそれだけ酸素の濃度が薄い。彼らは常に低酸素下で生活しているので、平地に住んでいる我々日本人よりも心肺能力が高い。そのために筋繊維タイプによるデメリットを克服し、マラソンでも活躍しているのだ。

逆に考えると、我々日本人も遺伝的にはデメリットを背負っているものの、あることに特化したり、マルチな能力を身につけたりすることで遺伝的なデメリットを克服することができるとも考えられる。

スポーツは体格だけではない

ここまで黒人の体型がいかにスポーツにおいて優れているのかを紹介していきた。黒人選手は体格が大きく、スポーツに適した筋肉の付き方をしている。

筋肉を構成している筋繊維タイプのレベルでも黒人は他の人種とは違うということも分かっている。これらは全て遺伝子レベルで異なっているので、黒人は多くのスポーツにおいてアドバンテージを持ちながら生まれてきていると言っても過言ではない。

とは言え、スポーツは筋肉と骨格だけで行うものではないし、一朝一夕では難しくとも、日々の練習の積み重ねで差を覆すことは可能だ。実際、スポーツの現場でも黒人選手以外の選手も同じように結果を出している。

現在はデータ分析を用いて試合の戦略を立てたり練習のフィードバックを行ったりということが行われている。スポーツ科学に基づいたトレーニング方法等も考案されつつある。

そこでは、各人種の体のつくりのメリットデメリットも考慮され、それぞれに適したトレーニング、戦術が日々考案されている。 それらを取り入れ、科学的根拠に基づいたトレーニングを行ったり、データを駆使してスポーツのパフォーマンスに対して有益な情報を提供したりすることで、多くの選手が同様に活躍できると筆者は考えている。