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【東京新聞杯・きさらぎ賞】両重賞ともに勝ち馬は1番枠!結果を左右した展開とは

2020 2/10 11:09勝木淳
東京新聞杯のインフォグラフィック
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ⒸSPAIA

東京マイルらしい道中ラップ

直近2年でリスグラシュー、インディチャンプが勝ち、出世レースの印象が強くなった東京新聞杯だが、それ以前にもキングヘイロー、アドマイヤコジーン、ハットトリック、スズカフェニックス、ローレイルゲレイロなどのちのGⅠウイナーがズラリ。厳冬期であっても東京マイルの重賞は力がなくては勝てない舞台。瞬発力だけ長けても通用せず、スピード型が押し切れるほど甘くはない舞台。また、スタミナだけでも乗り切れない。それらの中間にあるスピード+持続力+スタミナ、これらをバランスよく配置した総合力が問われる舞台なのである。

勝ったプリモシーンは昨年のヴィクトリアマイル2着馬で東京マイルの適性があった。昨年のマイルチャンピオンシップは大敗だったが、東京マイルで見事に巻き返してみせた。確かにプリモシーンは昨年の中京記念では最後は3歳2頭に捕まった。しかし、中盤に11秒4-11秒3-11秒4という厳しいラップを踏んだ展開を自ら外を動いて勝ちに行っていた戦歴がある。若い頃のためて末を生かす競馬から、経験を重ねるごとに勝ちに行ける競馬を身につけてきた、その成果が出たレースだった。

レース内容は、スタートでは先行勢にダッシュ力で見劣ったが、そこで出たなりの競馬ではなく、ミルコ・デムーロ騎手が馬を促して劣勢を挽回、好位を取りいったのは結果的に大きかった。折り合いを欠く不安より勝てる位置に行く方を選択する、デムーロ騎手の勝利への姿勢も賞賛したい。道中はモルフェオルフェが途中から後続を離しにいく逃げで、レースラップは一切落ち込みがなく、11秒台後半が続いた。ためたくても脚がたまらない、東京マイル戦らしく言い訳無用のレースだった。プリモシーンは1番枠を利して好位のインを追走、直線に向くと前に進路をカットされまいと外を意識する。多頭数、前が止まらないレースにおいて理想的な形で抜け出した。

道中ラップ 12秒4-10秒9-11秒4-11秒6-11秒8-11秒5-11秒6-11秒8

結果的に差してきたのは2着のシャドウディーヴァのみで、3着クリノガウディー、4着サトノアーサー、5着クルーガーと掲示板はすべてプリモシーンより前に位置した馬たちで、やはり多少厳しい流れでもDコース施行の東京マイル重賞となれば先行勢は簡単には止まらない。上位馬はスピードでマイルに対応できなかったシャドウディーヴァ、スタミナを欠いたクリノガウディー、スピードを欠き、スタミナを奪われたサトノアーサー、スタミナはあっても道中でスピードに脚を削られたクルーガー、いずれも条件次第で好走できる力は今回示せたが、東京マイルを乗り切るにはどれかを欠いていた。

逆を言えば、いずれかの長所を生かせる舞台に出走すれば狙いは立つ。東京マイルは能力を如実に表す舞台でもある。その意味ではプリモシーンはスピード+持続力+スタミナと三拍子そろっていた。まして1番枠という絶好枠、ツキまで味方していては敵うはずがなかった。順調にヴィクトリアマイルを迎えたい。

1600mを全て11秒台後半で走り切らなければ勝てない。東京新聞杯が出世レースになる根拠はこのあたりにある。

東京新聞杯のインフォグラフィック

クラシックを見据えた陣営の思惑とは

例年クラシック候補生が出走するきさらぎ賞だが、近年は人気馬同士で決着しない難しいレース。今年もネームバリューでは見劣る8頭立て7番人気のコルテジアが勝利。きさらぎ賞の歯がゆさは今後も続くのだろうか。

4角3番手のコルテジアが2番手にいたストーンリッジを競り落とすという単調なレースではあったが、京都1800m戦は得てしてそんなレースになることが多い舞台でもある。先々を見据える組にとって大切なのは競馬を教えるということ。ゲートを出て、折り合いをつけて脚をためて最後に爆発させる、日本近代競馬における理想形はここに仔を3頭出走させたディープインパクトの競馬。理想を追うことと勝たなければいけないという現実、そのどちらも達成するのは容易ではなく、そこが超A級になれるか否かの分かれ目でもある。3着アルジャンナはその意味では競馬は理想的でも勝つことができなかった。賞金を積まねば先に進めぬクラシック、さらに厳しい道を進むだろう。

その意味でいえばコルテジアはしっかり実を取りに行ったからこそ勝利できた。こちらはこの日が6戦目。前走シンザン記念で位置取りが下がった反省をしっかり生かした。レース数を重ねれば消耗が進んでしまう。クラシックを前に消耗は避けなければならない。だからこそ積極的なレース運びができた。また血統的には父シンボリクリスエス、母父ジャングルポケットで、ためて末を伸ばすタイプではないという割り切りもあっただろう。ディープインパクト産駒が思うような末脚を繰り出せない京都の重めの馬場もロベルト+母系に流れるトニービンの血が味方した。

その意味ではキャリア1戦のディープインパクト産駒ストーンリッジの2着は大健闘。2番手で積極的に流れに乗る競馬は勝利が近いことを意味している。母はクロウキャニオン、兄はボレアス、ベルキャニオン、カミノタサハラ。母父フレンチデピュティの切れないがバテないという特性を生かす競馬でもあった。

クラシックは勝たなければ先に進めない。理想を追うのか割り切って現実を優先させるのか。きさらぎ賞が難しいのは出走馬それぞれのその選択が読みにくいからだろう。今回はコルテジアとストーンリッジが現実を選び、アルジャンナは理想を追ったということだ。クラシックにつながるトライアルレースでは展開を読みつつ、人間の思惑を読むことも重要だと教えてくれたレースだった。

予想陣では京大競馬研が〇◎▲で買い目も馬連73.5倍、3連複29.4倍がズバリ的中した。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて「 築地と競馬と」でグランプリ受賞。中山競馬場のパドックに出没。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌「優駿」にて記事を執筆。