GⅢでは意外な好成績も、GⅠではやはり苦戦
今回のコラムのテーマは「海外帰り」。有馬記念に出走するフィエールマンやキセキを始め、海外遠征から帰国して緒戦となる馬は反動を心配されることがしばしばある。実際に海外遠征明けの馬がどのような成績を残しているのか検証する。(期間は2009年12月18日〜2019年12月17日)。

条件馬が海外遠征に帯同馬として同行した場合はやや趣旨が異なるので、今回の検証では重賞級の実績があって遠征した馬を想定し、ここでは帰国緒戦が重賞だった馬を対象にした。勝率11.2%という数字をどう解釈するかは判断が分かれるところだが、海外遠征を敢行するレベルの馬にしてはやや低調な印象もある。単回収率も48%とイマイチで、やはり帰国緒戦の馬は人気に応えるパフォーマンスができていない。ただし、複回収率は84%となかなかの数字で、「海外遠征明けだから消し」と判断するのもまた早計のようだ。
クラス別成績では、GⅢやGⅡでは連対率がそれぞれ28.6%、26.3%と好調だが、GⅠになると18.3%まで下がる。全体で84%あった複回収率はGⅢで156%、GⅠで48%と落差が大きい。海外でのレース後、余裕をもってGⅢから再始動、というケースでは反動の心配はしなくていい(むしろ人気以上に走る)が、海外で走ったあとに返す刀でGⅠ出走、というケースはイメージ通りにマイナス材料だという結論。有馬記念で帰国緒戦をGⅠで迎える3頭にとって心配なデータと言えるだろう。
海外遠征後でも走る血統は?
続いて性別や血統に注目していく。まずは牡牝別の成績。

牡馬に比べて精神面でデリケートとされる牝馬だが、データで見ても反動が出やすいのか、全体的に牡馬を下回っている。複勝率はどちらも30%台と大きな開きはないが、複回収率は牡馬93%、牝馬60%と差が大きい。ただし、GⅠに限れば
牡馬:【3-5-4-32】勝率6.8%/連対率18.2%/複勝率27.3%
牝馬:【2-1-2-11】勝率12.5%/連対率18.8%/複勝率31.3%
と逆転するので、牡牝の質が違うというより牡馬の方がGⅢやGⅡで手堅いレース選択をしているのかもしれない。
種牡馬に注目すると、遠征後でもまるでへっちゃらなのがキングカメハメハ産駒。遠征したのがドゥラメンテやロードカナロアなどスバ抜けた能力を持っていた馬ということもあるが、それにしても連対率50%は超優秀だ。対照的にダメージが出やすいのはディープインパクト産駒。勝率わずか6%と振るわないのみならず、海外遠征後に成績を崩したまま復調できない産駒もちらほらいる。先述したように帰国緒戦がGⅠだとさらに状況が厳しくなり、ディープインパクト産駒は【0-0-1-12】と大苦戦。馬券になったのは13年宝塚記念のジェンティルドンナ(1番人気3着)だけだ。ディープ産駒のフィエールマンはこのデータを覆せるだろうか。
ハーツクライ産駒は独特な傾向を示していて、先に述べたGⅠ不振のデータが当てはまらない特殊な種牡馬だ。ハーツクライ産駒の帰国緒戦がGⅠの場合は【2-1-1-3】で単回収率101%、複回収率124%と、反動を危ぶむ声を一蹴している。今回のリスグラシューは自身が2度帰国緒戦で好走しているし、ハーツクライ産駒で牝馬ならGⅠでむしろ強い。
キセキが該当するルーラーシップ産駒はこれまでキセキとダンビュライトが海外遠征を経験しているが、ともに帰国緒戦は馬券圏外。2例しかないので参考程度とはいえ、推奨はできない。
「故郷に錦」か「内弁慶」か
最後に遠征した海外レースの着順に注目してみたい。

海外レースで1着となった馬の帰国緒戦は勝率こそ平凡だが、複勝率は47.1%という高数値。複回収率も119%と、全て買っても黒字。2・3着、4~9着と海外での着順が落ちていくと順当に帰国緒戦の成績も落ちていく傾向にあるが、海外レースで10着以下だった馬がなんと複勝率43.8%という数字を記録している。当然このグループは海外での大敗後なので人気になりづらく、複回収率136%と妙味抜群だ。海外で惜敗した馬よりも、勝って帰国のいわば「故郷に錦」パターンか、海外では清々しいくらいに大敗したけれど、地元で巻き返しの「内弁慶」パターンか、どちらかハッキリしている馬が狙い目になりそうだ。
最後におまけとして、「ヨーロッパの極悪馬場を走った疲れ」というワードについても軽く調べてみた。前走でヨーロッパの芝レース、重・不良馬場に出走した馬の帰国緒戦は【2-2-2-2】とむしろ好成績だった。しかも10年ジャパンC8番人気3着のヴィクトワールピサ、18年金鯱賞8番人気2着のサトノノブレスがおり、複回収率も191%と非常に高い。個人的にもこのフレーズで凱旋門賞帰りの馬を嫌いがちなのだが、データ的には問題ないようだ。
《ライタープロフィール》
東大ホースメンクラブ
約30年にわたる伝統をもつ東京大学の競馬サークル。現役東大生が日夜さまざまな角度から競馬を研究している。現在「東大ホースメンクラブの愉快な仲間たちのブログ」でも予想を公開中。