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「距離経験」は武器になるのか?東大ホースメンクラブが徹底分析

イメージ画像ⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)
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ⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

距離延長は不利なのか?

今回のコラムのテーマは「距離経験」。年末の2歳GⅠや3歳クラシックでは、はじめて当該距離を使う馬が距離不安をささやかれることがしばしばある。距離経験がある馬・ない馬で成績に大きな差があるか検証する。

取り扱う距離設定は1600m・2000m・2400mの3つ。距離経験の有無による成績の違いを分析してみた。 データ分析には2013年産〜2017年産馬が出走した全レースを使用した(期間は2015年6月6日〜2019年12月8日)。

マイル戦は距離経験がものをいう

 最初に1600m戦の成績。

2013-2017年産馬、距離経験別1600m成績

マイル戦においては経験している馬の方がかなり成績が良い。単勝回収率・複勝回収率は経験あり:73%・74%、経験なし:67%・65%とこちらも前者が上回った。

クラス別成績では出走頭数が拮抗している未勝利戦において、複勝率が経験あり:24.9%、経験なし:14.0%と10%以上の差がついており、距離経験が大きなアドバンテージになる。また経験あり馬の成績を経験なし馬が上回るクラスは一つもなかった。

ただし、距離経験のない馬をむしろ買いたい条件も存在する。3番人気以内に支持された馬の重賞成績を見ると、

経験あり:【61-41-29-134】勝率23.0%/連対率38.5%/複勝率49.4%
経験なし:【7-6-7-13】勝率21.2%/連対率39.4%/複勝率60.6%

と後者が上回る。経験なし馬は単複回収率ともに100%近辺の数字を残しており、人気を集めていれば買いの一手だ。ちなみに2歳限定GⅠにおける経験なし馬の成績は【3-3-4-55】複勝率15.4%と微妙で、さらに4番人気以下に限ると【1-2-1-53】と厳しい。穴党の方は距離経験がある馬から買うべきだろう。

2000m戦はむしろ経験のない馬が走る

続いて2000mの成績。

2013-2017年産馬、距離経験別2000m成績

やはり経験のある馬が優勢だが、先ほどのマイル戦のようにほとんどの条件で経験なし馬の評価を下げればよいかというと、必ずしもそうではない。

その一つが上級クラス。クラスが上がるにつれ、距離経験のない馬が少なくなるためサンプル数はわずかだが、3勝クラスの複勝率は経験あり:35.5%、経験なし:33.3%とほとんど差がなかった。

重賞に限定すると、経験あり:22.1%、経験なし:24.4%とついに逆転する。複勝率はGⅠ・GⅡ・GⅢ全てにおいて経験なし馬の方が高かった。2000mの重賞においては距離経験をことさらに重視する必要はない。

ハンデ戦も経験あり:【50-57-56-402】勝率8.8%
ハンデ戦の経験なし:【10-4-3-44】勝率16.4%

と倍近い差がついている。単系馬券で勝負すると、距離経験のなさが嫌われて高配当を手にしやすいおすすめの条件だ。

2歳限定GⅠのうち唯一2000mで施行されるホープフルS。GⅠ昇格後からまだ2年しか経っていないためGⅡ時代も含めると、

経験あり:【3-2-2-28】複勝率20.0%
経験なし:【1-2-2-16】複勝率23.8%

とこちらも後者に分がある。ただし経験なし馬で馬券になったのは全て4番人気以内と、人気薄の激走はなかった。

2400m戦は経験があってもGⅠは×

次に2400m戦だ。

2013-2017年産馬、距離経験別2400m成績

これまでに取り上げた3つの距離区分のうち、最も複勝率に差があった。ただし2勝クラス〜オープン特別に限ると、複勝率は経験あり:35.0%、経験なし:35.3%と逆転し、経験なし馬は単複回収率ともに100%の大台を超える。重賞では再び距離経験のある馬が引き離すため、これらのクラスのみ距離経験のない馬から買うべきだ。

3歳限定戦の成績を見ると、

経験あり:【29-34-28-214】勝率9.5%/連対率20.7%/複勝率29.8%
経験なし:【73-68-76-832】勝率7.0%/連対率13.4%/複勝率20.7%

となった。注目したいのがGⅠ成績で、経験あり馬はなんと【0-0-1-16】。2017年の日本ダービー3着アドミラブルしか馬券になっていない。前哨戦となる2400m戦で強い勝ち方をした馬が本番で人気することもままあるが、2018年オークスサトノワルキューレ(3番人気6着)や2018年日本ダービー、ブラストワンピース(2番人気5着)など人気を裏切る凡走が多い。該当馬が過剰に人気するようなら嫌うべきだ。

ちなみに手元で集計できた1960年以降の日本ダービーにおいて、距離経験のある勝ち馬は1頭もいなかった。

最後におまけとして、菊花賞の「距離経験」別成績を調べた。といっても菊花賞までに3歳馬が出走できる3000m戦は存在せず、最長は2600mだ。以下は菊花賞までに経験した最長距離別の成績だ。

1800m:【1-0-0-1】勝率50.0%/連対率50.0%/複勝率50.0%
2000m:【0-0-0-4】勝率0.0%/連対率0.0%/複勝率0.0%
2200m:【0-0-1-12】勝率0.0%/連対率0.0%/複勝率7.7%
2400m:【4-5-4-46】勝率6.8%/連対率15.3%/複勝率22.0%
2500m:【0-0-0-2】勝率0.0%/連対率0.0%/複勝率0.0%
2600m:【0-0-0-10】勝率0.0%/連対率0.0%/複勝率0.0%

ほとんどの出走馬が春のクラシックや菊花賞トライアルで2400m戦を経験しており、出走頭数にはばらつきがあるが、注目すべきは2500m以上を経験していた馬が1頭も馬券に絡んでいないこと。

15年スティーグリッツ、16年カフジプリンス、19年ヒシゲッコウと毎年のように人気こそするが、いずれも掲示板外の大敗を喫している。2500m組が最後に菊花賞を勝ったのは2004年のデルタブルース、2600m戦組は2001年のマンハッタンカフェまでさかのぼる。経験よりも能力が重視されるのが菊花賞ということだ。

《ライタープロフィール》
東大ホースメンクラブ
約30年にわたる伝統をもつ東京大学の競馬サークル。現役東大生が日夜さまざまな角度から競馬を研究している。現在「東大ホースメンクラブの愉快な仲間たちのブログ」でも予想を公開中。