逃げ残りも多いが、差し馬も台頭できる馬場
私たち日本人だけでなく、香港をはじめとした世界中の競馬関係者にとっても、アーモンドアイの遠征取りやめは非常に残念なニュースではあったが、それでも日本からGⅠ馬7頭を含む9頭が12月8日(日)香港・シャティン競馬場で行われる香港国際競走に出走する。
今回のコラムでは香港ヴァーズ(GⅠ・芝2400m)、香港スプリント(GⅠ・芝1200m)、香港マイル(GⅠ・芝1600m)、香港カップ(GⅠ・芝2000m)の4レースを馬場傾向の観点から分析、予想を行っていく。

まずは過去5年の香港国際競走で最も速かった優勝タイムを見ていくと、香港ヴァーズが2:26.22、香港スプリントが1:08.40、香港マイルが1:33.48、香港カップが2:00.60となっており、日本の競馬場と比較すると少し時計がかかる芝だと言える。しかし、過去5年でモーリス、エイシンヒカリ、サトノクラウンと3頭の日本馬が勝利しているように、比較的日本の馬場にも似ているとも言える。
脚質面では、対象となる20レースのうち9頭が4角先頭で通過して勝利しており、基本的には先行有利の傾向が強い。しかし、2着と3着には中団から差してくる馬も台頭していることからも、能力が発揮しやすいコース形態に分類されるだろう。
前哨戦は昨年同様に高速決着
続いて11月17日(日)に行われた前哨戦、ジョッキークラブスプリント(GⅡ・芝1200m)、ジョッキークラブマイル(GⅡ・芝1600m)、ジョッキークラブカップ(GⅡ・芝2000m)の結果から、今年のシャティン競馬場の馬場状態についても分析する。

ジョッキークラブスプリントは、地元の3歳馬エセロが逃げ切り勝ち。過去5年のタイムが1:08.08、1:08.31、1:08.26、1:09.33、1:08.59だったことを踏まえると、エセロがマークした1:07.58というタイムは破格の好時計だ。
ジョッキークラブマイルはビューティージェネレーションにカーインスターが競りかける展開となり、3番手を追走していたワイククが差し切り勝ちを果たした。前3頭での決着ながらタイムは1:32.89と過去5年では昨年の1:32.64に次ぐ速いタイムだった。
2000mで争われたジョッキークラブカップは、4番手追走から早めに先頭に立ったエグザルタントが1:59.77というタイムで勝利。こちらも過去5年では昨年に続き2番目に速いタイムだった。
単純にエセロが強すぎるだけという可能性もなくはないが、近年のシャティン競馬場は高速化していることは明らかだ。加えて、週末にかけて雨は降らない予報となっていることからも、今年の香港国際競走は昨年と同レベル、もしくはそれよりも高速馬場になるのではないかと考える。
軸として信頼できるエグザルタント
これらのデータを頭に入れたうえで、レースの予想に移っていきたい。まずは日本時間の14:40発走予定の香港ヴァーズ。日本からはディアドラ、ラッキーライラック、グローリーヴェイズの3頭が出走するが、その前に昨年の優勝馬エグザルタントが立ちはだかる。
前走のジョッキークラブカップの内容、高速馬場を得意としていること、先行力があることと死角は見当たらない。軸馬として信頼がおけるので、本命に推したい。
対抗はアンソニーヴァンダイク。前走のBCターフでは、直線に向いたところで前が塞がる不利がありながら3着に好走。サンタアニタの高速馬場にも対応できたことは、大きな収穫だと言えるだろう。
3番手はディアドラ。今年は海外を転戦し、8月にはイギリスでナッソーSを勝利。その後もヨーロッパの一線級相手にすばらしいレースを見せていることからも、力は上位だろう。しかしベストは2000mだと考えているので、その点を割り引いた。
以下、エリザベス女王杯を制して挑んでくるラッキーライラックまで押さえておく。同馬は高速馬場だった東京の府中牝馬Sでは切れ味勝負に屈したが、東京より時計のかかる京都2200mで変わり身をみせた。その内容からもシャティンの馬場は合っていそうだ。
▽香港ヴァーズ予想▽
◎エグザルタント
○アンソニーヴァンダイク
▲ディアドラ
△ラッキーライラック
香港競馬を背負って立つ存在へ
ダノンスマッシュが出走する香港スプリントだが、注目は地元香港の新星エセロ。ここまで6戦5勝という成績を挙げているが、敗れた一戦は無理に控えようとして折り合いを欠いたもの。スピードに任せる競馬をした時は圧倒的な強さをみせている。先述したが前走のジョッキークラブスプリントの内容がすばらしく、次世代の香港競馬を背負って立つ存在になる馬だ。
その一方、香港スプリント3連覇を狙うのはミスタースタニング。128ポンド(58.0kg)を背負っていたこともあるが、今季緒戦となったジョッキークラブスプリントでは8着に敗れており、今回どこまで状態が上向いているのかが気がかりだ。
そのほかではキャリア13戦で3着以下を外していない安定感抜群のビートザクロック、昨年のこの時期に上がり馬として注目されていたホットキングプローン、1000m戦ながら55秒台前半での好走実績があるウィッシュフルシンカー、フルオブビューティーあたりも怖い存在だ。
▽香港スプリント予想▽
◎エセロ
○ビートザクロック
▲ホットキングプローン
△ウィッシュフルシンカー
×フルオブビューティー
日本のマイル王がその力を見せつける
昨年から10連勝していた、絶対王者ビューティージェネレーションが今秋2連敗と、香港マイル3連覇に向けて黄色信号が点っている。ただし前走のジョッキークラブマイルでは、外から競りかけられて厳しい展開となったので、外から被されずに走れれば、大一番で再び強さを見せつける可能性はあるだろう。
そのビューティージェネレーションを負かすのであれば、インディチャンプだと考えている。安田記念、マイルCSと異なる馬場状態の中でも圧倒的なパフォーマンスを発揮した日本のマイル王者が、香港の地でも大仕事をやってのけることに期待したい。
そのほかの日本馬では、ヴィクトリアマイル、富士Sと連勝中で完全に本格化したといっていいノームコアもシャティンの馬場が合っていそう。また地元勢では、ジョッキークラブマイルを制したワイククも勢いがあるので要注意だ。
▽香港マイル予想▽
◎インディチャンプ
○ビューティージェネレーション
▲ノームコア
△ワイクク
香港ダービー馬の自力に期待
メインレースの香港カップはアーモンドアイの出走回避によって大混戦の様相。展開的には昨年の香港カップ、前哨戦のジョッキークラブカップと同じようにタイムワープとグロリアスフォーエバーがペースを刻んでいくことが予想される。もちろん逃げ残りも怖いが、本命にはフローレを推したい。
同馬は4歳クラシック戦線では、香港クラシックマイルと香港ダービーの2冠を獲得。その後のクイーンエリザベスⅡ世Sでは連戦の疲れもあってか、力を発揮できなかったが、前走のジョッキークラブカップではエグザルタントの2着に好走した。本格化するのは、来年以降のような気もするが、前走のように中団からレースができれば、好勝負になるだろう。
ペースが速くなればライズハイにもチャンスは出てくるだろう。4走前にはチャンピオンズ&チャターカップでエグザルタントの2着、2走前のシャティントロフィーでは119ポンド(53.9kg)と軽量でハンデ差はあったものの、ビューティージェネレーションを負かすなど、一線級相手に好走している。
もちろん春のクイーンエリザベスⅡ世Sを勝利しているウインブライトも軽視はできない。今秋の成績がいまひとつだが、1:58.81という持ち時計が示すように今のシャティンの馬場は合っているので、春の再現に期待したいところだ。
▽香港カップ予想▽
◎フローレ
○ライズハイ
▲ウインブライト
△グロリアスフォーエバー
×タイムワープ
