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安田記念は容易に勝てるGⅠではない アーモンドアイは大丈夫か

2019 5/29 11:00SPAIA編集部
東京競馬場を駆け抜ける馬群ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

安田記念は荒れる?

上半期のマイル王決定戦と位置づけられる安田記念。スピードだけで押し切ることは難しいとされ、能力の絶対値が問われる大箱の東京コース、1600mという条件設定である。

過去の優勝馬を振り返っても種牡馬、繁殖牝馬として血脈をつないでいくことで、引退後も日本競馬に貢献するビッグネームが多く見られるなど、重要な価値と意義を担うGⅠレースである。

しかし、一方では〝荒れるGⅠ〟として世間に認知されている側面もある。実際、近3年は9番人気モズアスコット、7番人気サトノアラジン、8番人気ロゴタイプと伏兵扱いされた馬の優勝が続き、現役最強馬アーモンドアイの参戦がある今年でさえも、一筋縄では収まらないのでは?という空気感を拭い切れない。

その波乱の傾向をもう少し掘り下げて考察してみることで、その可能性を探ってみたい。

狙うはマイル路線に使われてきた馬か

近年、マイルの絶対的王者不在が、安田記念の荒れる一因という意見も多い。2015年にマイルGⅠ春秋制覇を果たしたモーリスの引退以降、その王位は不在のままというのが、世間の大勢を占めるイメージであろうか。

それ以前にさかのぼると、2013年に勝ったロードカナロアの絶対的な強さはいまだに鮮烈な印象を残す。しかし、スプリント王が能力の絶対値で適性の枠を超えて、2階級制覇を成し遂げたといった当時の臨戦過程からも、ロードカナロアをマイル王と呼ぶには躊躇してしまうところがある。

これは2008年、2009年連覇のウオッカも同じ。 日本ダービー制覇を果たした名牝に対して、単にマイル王としてしまうことはふさわしくない。というように、マイルに特化した馬でなくても、その資質で制してしまうことが可能というのが安田記念の近年の傾向と思われる。

さらにいえば2、3歳時にマイルを中心に使われてきた馬と、クラシックディスタンスを戦い抜いた馬たちとでは、レースレベルの明らかな違いや、当初から持たれた期待値の高さなどから、底力へとつながる経験値に差が生じてくると推察される。

実際、クラシックホースが古馬となってから、真に距離適性のある舞台で活躍する例は数多い。ただし、それらの馬が過剰に人気を集め、その期待にそぐわぬ走りを見せた時には…。安田記念で初めてのGⅠ制覇を果たす馬が現れることも傾向としては多く見られ、馬券的にも大きな波乱とされる結末を迎えることとなるのであろう。

距離の長短、気温の上昇する季節の移り変わりを問わずに活躍を求められるのが一流馬。GⅠが乱立し、淘汰の早まる時代を迎えても、稼げる時期に稼いで海外遠征を遂行し、早めに繁殖に上がることがいいとされる流れであろうか。

馬場の高速化や、瞬発力を要求されるレースが多くなりつつある傾向とは裏腹に、適性を見越しての住み分けが進まないのであれば、マイル戦に適性をいち早く見いだした馬たちが、実績馬の間隙を突くことだって起こり得る。それが安田記念の現況の立ち位置ではないだろうか。

安田記念は容易く勝てるGⅠではない

例え人気馬の凡走があろうと、安田記念は容易く勝てるGⅠという訳ではない。

2010年のショウワモダンは馬場の内外でどちらが伸びるかを見極めたジョッキーの深い洞察力が呼び込んだ勝利である。2011年に優勝した3歳馬、リアルインパクトは斤量差に優位性を見いだして出走を決めた陣営の英断によるところが大きい。

怪物モーリスを破った2016年のロゴタイプは、差し馬優勢とされる傾向のレースで、絶妙の逃げを打ったジョッキーの好判断が光った。翌年、そのロゴタイプを差し切ったサトノアラジンも、切れ味を最大限に引き出す鞍上の勝負勘が光った。

記憶に新しいのが昨年のモズアスコット。これは勝利への執着で他を上回ったように感じられた。2週前の登録馬発表時点での出走馬決定賞金順は補欠。そこで陣営は前週の安土城Sを勝って賞金加算をもくろむが、結果は出遅れが響いての2着敗退と万事休すと思われた。

しかし、ここで鍵を握っていたのは4頭の登録を行なっていた藤沢和厩舎。競馬の当週、投票ギリギリの水曜日となってようやく3頭は回避し、サトノアレスのみの出走であることを発表。そのおかげで、モズアスコットは出走がかなうこととなる。

そして連闘でのGⅠ初制覇という、全ての傾向、データを覆す、前例のない勝利を果たすのだが、もっと早くに回避の情報が発信されていれば、厳しいローテーションを強いられる必要もなかったのではなかろうか。

矢作厩舎も当レースにはリアルスティール、リスグラシューを登録し、実績的にモズアスコットは3番手の存在。すでにデータ的には注目される存在ではなかったが、補欠の立場でも鞍上にルメールを押さえていた同馬の存在を警戒していたのは、他ならぬ藤沢和調教師であったと思われる。格下の身とは思えない並々ならぬ安田記念への出走や勝利への執着心に触れた時、ライバルに有利な立ち回りを許すはずがない。

モズアスコットが安土城Sに敗れた翌日でさえ、顔を合わせた矢作調教師に3頭が回避することは一言も話さないという徹底ぶりだったと伝え聞かれる。その姿勢を「さすがプロだと思った」と称した矢作調教師は、「これまで連闘で結果を出してきたノウハウを全てこのレースで生かしたい」と取り組んだうえで悲願を成し遂げる。

今年はアーモンドアイ一強で仕方がない。少なくともそういう空気感が現場サイドにあれば、今年の安田記念でも新たな驚きが起こり得るのかもしれない。