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あなたの夢はどの馬か? 今年最後のビッグレース有馬記念

2018 12/18 15:00SPAIA編集部
キタサンブラック,ⒸJRA
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ⒸJRA

ドラマが起こるレース

言わずと知れた年末の大一番。ファン投票で出走馬が決められ、コアな競馬ファンならずとも、日本国中の注目を集めるビッグレース。これが有馬記念である。

ディープインパクト、トウカイテイオー、オグリキャップなど、優勝馬には希代のスターホースたちが名を連ね、これまで観客を魅了する数多くのドラマが生まれてきた。

ただし、人気馬を絶対的に信頼していいかと問われると、イエスとは即答できない。あのディープインパクトが国内で唯一、敗戦を喫したのが3歳時の有馬記念である。

歴史をひもとけば怪物メジロマックイーンを、ブービー人気のダイユウサクが負かして世間を驚かせたこともある。往年の力は消失したとみられていたオグリキャップ、トウカイテイオーの復活劇など、とかく予測のつかない結末を迎えることが、人心を魅了し続けるのかもしれない。

中山2500mは難解なコース

ではなぜ有馬記念が予測の難しい結果となりがちなのか。中山競馬場と言えば、トリッキーなコースであることで有名。なかでも芝2500mは小回りコースをぐるぐると1周半走る上に、起伏が激しいので仕掛けのタイミングが難しく、無理に内へ入れると進路をなくす危険性をはらんでいる。

かといって、終始外を回っては折り合いが付けづらく、体力を消耗し、コーナーごとのロスも大きくなる。いうなれば攻略が難しく、力通りの決着を見ないコース形態といえる。

さらに開催が進んで馬場が荒れているし、芝の根付きが悪い厳寒期ということもあり、トラックバイアス(通った所の有利不利)が大きくなり、器用な脚を使えないタイプは外枠を引いた時点で相当な不利を強いられる覚悟が必要となる。

あとは、絶対的に内枠が有利であるのは、枠順抽選会が公開で行なわれることになった近年明らかになった。枠順の選択権を得た順に、もれなく内の偶数枠から埋まっていくからである。その有利不利はもはや周知の事実である。狙うべきはいい位置を取るのに小足を使える競馬が上手なタイプであり、力を要する馬場状態でもパフォーマンスを落とさず走れるならなおいい。

ただし、その狙い馬が外枠を引くと……、いずれにせよ攻略の厄介なコースである。

陣営の意識が低い有馬記念

次に取り上げたいのは、一般的な注目度の高さとレースへ出走させる陣営のモチベーションに乖離がみられることである。目一杯に仕上げたところで、展開、枠順の差で取りこぼしてしまう可能性の高いレースを、シーズンの最大目標には設定しづらい。憧れであり、勝ちたいレースではあるが、勝ちにいくべきレースではないというのが、出走馬サイドの共通する意識であろう。

さらに、ジャパンカップが日本馬でも勝てるレースとなった90年代後半から、秋の目標をそこに定める陣営が多くなった。紛れの少ない広い東京コースで行なわれる上に、一流馬がデビュー時から目指してきたクラシックディスタンス(芝2400m)ということもあり、こちらの方が賞金が高いのであれば、この流れは至極当然と思われた。

秋の目標3走は前哨戦をひと叩きして天皇賞・秋からジャパンカップ、ついでに余力があれば有馬記念へ向かうかどうか。そう公言する陣営は増え続け、ジャパンカップまでが王道路線と呼ばれることとなる。

スターホースが名を連ねるものの、その全てが万全な態勢とは言えない。レースでは機動力と運を問われるし、ローテーション的には持久力と底力を求められるのが有馬記念。データで割り切れない結末が起こり得る年末の大一番である。

トリッキーなコースだけに騎手は重要

攻略の難しいレースではあるが、一応注目すべき近年の傾向を挙げるなら、1着賞金がジャパンカップと同額に引き上げられてからのここ2年は1番人気馬が勝利している。

昨年、世論の後押しも味方に付け、逃げ切りで花道を飾ったキタサンブラックは、タフなキャラクターで別格の存在かもしれないが、秋の消耗度を少なくして、有馬記念を目標とする馬が現れ始めたことも確か。そのローテーションには注意を払うべきかもしれない。

続いて、小回りをさばくのに必須である騎手の技量と経験値。関西馬優勢の時代となっても、中山を主戦場とする関東所属騎手はコースの特徴を熟知しており、ファインプレーが目立っている。

ただ、外国人騎手が席巻する今の競馬界において、各国で様々なスタイルの競馬を経験してきた彼らが有力馬に騎乗するとなれば、これに逆らう理由は見当たらない。

人生を変えるドラマがある

昔こんな人がいた。競馬マスコミに中途採用された彼の年令は40歳を少し過ぎた頃と思われた。なぜ推測かというと彼がひどく無口な人だったから。遅れてきた新人であった。

とにかく誰とも話さない。挨拶されれば笑顔で会釈はするが、やはり自分からは誰にも話しかけない。だから厩舎取材もままならなかった。

年少者には気を遣われ、年長者からは訝られる。かといって困った風でもなく、熱心に馬を見るわけでもない。競馬の仕事に興味あるの?周囲が彼の存在さえ話題にしなくなった頃、彼は一頭の馬の単勝馬券を握り締めて号泣する。

1993年の有馬記念、トウカイテイオーの復活劇。単勝1000円、9.4倍。その涙を最後に彼は業界から姿を消した。トウカイテイオーのラストランは彼の心に何を訴えかけ、何を刻みこんだのか。どの馬に人生を重ね合わせてもいい。それが有馬記念だから。