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【桜花賞回顧】49年ぶりクイーンC勝ち馬が制覇 エンブロイダリーを勝利に導いた「3つのポイント」

2025 4/14 11:44勝木淳
2025年桜花賞、レース結果,ⒸSPAIA

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総合力勝負の第一冠

5年ぶりとなる雨の桜花賞は3番人気エンブロイダリーが勝ち、2着2番人気アルマヴェローチェ、3着4番人気リンクスティップで決まった。

最終的な1番人気はフェアリーSを制したエリカエクスプレス。2歳GⅠ馬アルマヴェローチェは暮れの舞台が阪神ではなかったことが思いのほか強調され、2番人気に甘んじた。

だが、桜花賞は過去10年1番人気【1-4-1-4】、2番人気【5-1-0-4】となぜか2番人気が強い。アルマヴェローチェに運が巡ってきた。そんな気がしていた。そもそも桜花賞でフェアリーS勝ち馬が1番人気に支持されるのは、名称が「フェアリーS」になった1994年以降では初だった(前身のテレビ東京賞3歳牝馬Sも含めると、メジロラモーヌがいる)。

なんだかんだとチューリップ賞組、穴ならフィリーズレビューというかつての常識は崩れ、さらにGⅠ直行ローテでもない。不思議な部分が多い桜花賞だった。

さらに展開予想も難しく、抽選突破のミストレスがハナに立つのではと目されたが、実際に先手を奪ったのは1番人気エリカエクスプレス。内枠、抜群のスタートダッシュと下げるに下げられない状況でもあった。戸崎圭太騎手、本音は好位のインだったのではないか。

1番人気の先導となると激流はまずない。序盤600m34.5、前半800m46.6は馬場を踏まえると少し速いようにもみえたが、後半800m46.5とほぼイーブン。中盤で緩み、残り600m11.7-11.4-11.4と決め手を問われ、現時点での勢力図が明白になった。前半である程度のスピードで流れに乗り、そこから後半に向けて加速しないと太刀打ちできない。

総合力勝負だったことはこの先のクラシック戦線に向け、大きなポイントになりそうだ。


異例のローテを決めた「陣営」の手腕

エンブロイダリーはクイーンCからの連勝を決めた。同じマイル戦ながら、過去10年で【1-0-1-18】とちょっと相性が悪いローテだったが、今回は3番人気。レースレコードだったクイーンCを好位から押し切った内容、単なるスローペースの瞬発力勝負ではなかったことが評価された。

かつての桜花賞なら人気を吸い上げてくれる「お客さん」と呼べるプロフィールだが、連勝でその力を証明した。クイーンC経由はスターズオンアースが3年前に決めたが、同馬は前走2着。クイーンC勝ち馬の桜花賞制覇となると、1976年テイタニヤ以来49年ぶりの記録だ。テイタニヤは中山芝1600mのクイーンCであり、東京マイルのクイーンCから桜花賞は初となる。時代がひとつ動いた。

この相性の悪いローテをつなげた森一誠調教師とノーザンファーム天栄の革新は目覚ましい。森一誠調教師はGⅠ初出走で初制覇であり、驚きしかない。堀宣行厩舎から続くラインはこの先も大仕事をしてくれそうな予感しかない。日本競馬を新たなステージに導く存在として期待したい。


冷静だった「騎手」と「母の父クロフネ」の底力

またJ.モレイラ騎手の手腕も語らないわけにはいかない。先行集団は大きな集団を形成し、その馬群の真っただ中にエンブロイダリーを導いた。

力量接近のクラシックではロスが命取り。外を回りすぎては届かない。かといって密集した馬群ではストレスを受ける。モレイラ騎手は厳しいポジションでもエンブロイダリーに負荷をかけない。馬群でじっとしていれば、最後は進路の奪い合いになる。勝負所で悠然と構え、最少手で進路をつくる胆力と冷静さは見事だった。

エリカエクスプレスとアルマヴェローチェの間を抜けてきたが、ここを通ったことでアルマヴェローチェに内から併せるという最高の形になった。脚を残す馬と併せることで、エンブロイダリーの闘志に火をつけた。

もちろん、エンブロイダリーの総合力の高さが最大の勝因だろう。操縦性が高く馬群でも平静に走れて瞬発力もあり、最後まで全力を振り絞れる。チャンピオンに必要な資質をすでに備えているといっていい。

母ロッテンマイヤーらビワハイジ牝系も強さの秘訣だが、それ以上に注目したいのが母の父クロフネだ。現役時代、芝ダートのGⅠを制し、どちらも同じような時計で走れる持続力の化け物だった。

現代競馬に欠かせないスピードと持続力の源としてクロフネは種牡馬でも活躍したが、それ以上に母の父に回ると、父系の瞬発力と結びつき、その性能をワンランク上に引き上げる。クロノジェネシス、レイパパレ、スタニングローズらGⅠを勝った牝馬だけでなく、ベテランのハヤヤッコやヴェラアズール、イロゴトシと多彩な活躍馬を送る。

クロフネほど持続力の下地をつくれる血はほかにいない。母の父クロフネは最強馬のヒントではないか。POGやクラブ馬主など馬探しの機会に活用しよう。

オークスで楽しみなリンクスティップ

2着アルマヴェローチェは馬体重12kg増。暮れ以来の実戦であり、成長分といえばそうだろう。だが、この阪神JF1着から桜花賞への直行ローテ【2-3-0-0】のうち、2着2頭アスコリピチェーノ、アルマヴェローチェは10kg以上増えて本番に出走。勝った2頭ソダシ、リバティアイランドは増えても4kg以内だった。

間隔があくからこそ、勝つには研ぎ澄ます作業も必要になる。最後の最後はエンブロイダリーに脚色で劣った。併せ馬でもうひと脚使いたかった。

3着リンクスティップはどん尻から直線だけで押し上げてきた。こちらもきさらぎ賞2着の異色ローテ―ション。稍重の平均ペースという流れで距離短縮がいきた形だ。マイル戦初出走であり、陣営が目指すのは中距離戦線だろう。

今回はマイル特有の流れに付き合わないという意図もあったか。きさらぎ賞は好位で競馬しており、距離延長の次走は積極的にくるのではないか。目指す中距離に舞台が移るオークスで楽しみだ。

2025年桜花賞、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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