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【東京新聞杯回顧】馬場傾向を覆したウォーターリヒトの末脚 ボンドガールは5度目の2着もマイルで前進

2025 2/10 10:56勝木淳
2025年東京新聞杯、レース結果,ⒸSPAIA

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「1着河内、2着ユタカ」の既視感

2025年2月9日に東京競馬場で開催された東京新聞杯は、年明けの京都金杯2着から臨んだウォーターリヒトが重賞初制覇を飾った。

河内洋調教師が6年8カ月ぶりにJRA重賞を勝った。前回がサンライズソアの平安Sなので、芝の重賞となるとプラチナムバレットの2017年京都新聞杯が最後。7年9カ月前のことだ。

筆者にとって、騎手・河内洋のイメージといえば芝中距離。“マーク屋・河内”の異名が懐かしい。その真骨頂が2000年の日本ダービーである。

自身が桜花賞を勝ったアグネスフローラの仔アグネスフライトでエアシャカールと武豊騎手の背後をとり、外から競りかけ、ハナだけ前に出た。“河内の夢”と謳われるダービーだが、河内の執念が強烈に記憶に残る。

来月で定年のため引退する河内洋調教師が、距離は違えど東京競馬場で重賞を制した。2着ボンドガールに騎乗したのは武豊騎手。2000年のダービーの淡い記憶がよみがえる。なんだ、簡単だったじゃないかと自虐の笑み。こんな後づけを言いだしてもはじまらない。

この日はきさらぎ賞にウォーターガーベラ、東京新聞杯はウォーターリヒトと河内厩舎を支えるきょうだいがそろって出走。妹が2番手から積極的に攻め、10着に敗れた直後、兄が魅せた。

昨年は妹と同じくシンザン記念3着からきさらぎ賞に挑戦し、2着と好走。その後は皐月賞、NHKマイルCと河内洋調教師をGⅠに連れていった。

そのきさらぎ賞2着があったから、仕切り直しの秋は3勝クラスからスタートできた。東京芝1600mのキングカメハメハメモリアルを勝ち、オープン入りを決めると、キャピタルSでオープン初勝利を飾った。

末脚自慢で、東京の直線なら最後まで自分の力をぶつけられる。京都金杯2着で重賞通用を確信させ、東京新聞杯は満を持しての挑戦だった。

河内洋厩舎の管理馬として重賞を勝つならここしかない。その想いを背負ったのが菅原明良騎手。NHKマイルC8着以来の騎乗で決めた。

昨年は中野栄治元調教師の引退目前にブローザホーンで日経新春杯を勝っており、ここ一番での気持ちの強さがある。宝塚記念でGⅠ初制覇を果たし、さらに勝負強さと戦略が冴え、頼れる男に成長した。

若手有望株にベテラン調教師、日高の老舗牧場。昭和平成に競馬を覚えたファンにとってなんともいえない組み合わせだ。たまに競馬はこんな顔もみせてくれるから、心憎い。


イン先行優位を覆す

Dコースの芝は、2週目になっても傾向は変わらない。先行勢が止まらず、前日は逃げ先行型が10Rと11Rで穴を開けるなど、堅い決着が目立つ東京としては難しい競馬が続いた。

東京新聞杯も目立って逃げる存在がなく、スロー濃厚。どうしたって逃げ先行に目がいく。事実、先手をとったメイショウチタンが外からきたセオを制し、マイペースを決めると、前後半800m46.1-46.5の平均ラップを演出し、16番人気3着と大穴を提供した。

簡単に前が止まらない馬場で平均ペース程度では、差し切るのは容易ではない。ウォーターリヒトは中団後方寄りの外で流れに乗り、勝負所も外から進む。馬場傾向としてはアウトの競馬だったが、鞍上には自信があったようだ。

進路を切り返すぐらいなら、外で思い切り走らせる。この馬場では自信がないとできない。ウォーターリヒトが繰り出した末脚は上がり600m33.2。切れるというより、止まらない迫力はいかにもドレフォン産駒らしい。

平均ペースで極端に速いラップが刻まれない流れも、ウォーターリヒトに味方した。平均ペースを勝てるのは総合力の証でもある。東京マイルのハイレベルな戦いに挑むなら欠かせない要素だ。時計ひとつ速くても、力を発揮できればGⅠがみえてくる。

母系の3代父はサクラバクシンオーなので、テスコボーイの血を汲む。日本伝統のスピード血統がネオユニヴァース、ヴィクトワールピサによってサンデーサイレンスを経由し、米国伝統のストームキャットと交差したウォーターリヒトなら、さらに持続力を磨けるだろう。「東京のサクラユタカオー」は昭和平成の血統馬券の教科書に書いてある。


勝ちパターンだったボンドガール

2着ボンドガールは今開催における芝の勝ちパターン。内枠から出たなりでインを進み、4コーナーまで好位で我慢、直線で前の馬を交わすという申し分ない競馬だった。これで負けたらしょうがない。

前半で馬群に入り、3頭雁行の真ん中で揉まれた際に馬が嫌がったため、そこでわずかながら消耗したようだ。久々の競馬だった影響なら心配はいらない。

3歳時は距離の限界を意識して控える競馬が目立っていたが、マイルなら今回のように流れにのれる。牡馬相手にこれだけの競馬ができれば、重賞初制覇は近い。できれば広いコースがいいだろう。

3着メイショウチタンは8歳という年齢もあってか、まったく人気がなかった。昨年は4月にオープン勝ち、6月東京では1400mで2着と衰え知らず。逃げても控えても絡まれずにマイペースでいければというタイプであり、これを頭に入れた吉田豊騎手の策が好走を呼んだ。

なかでも3、4コーナーの11.5-11.6が絶妙。マイペースのままひと呼吸置けたことで、しぶとさを引き出した。攻めすぎず、抑えすぎず。吉田豊騎手の逃げには味がある。

1番人気ブレイディヴェーグは4着。残り200mの末脚比べで一歩足りなかった。やはり1600mだと終いの反応が若干鈍るようだ。1800mの府中牝馬Sで記録した上がり600m32.8がベストパフォーマンスであり、中距離なら結果は違う。


2025年東京新聞杯、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。

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