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【小倉牝馬S回顧】小回り、平坦、ハイペースへの対応力がポイントに フェアエールング、シンティレーションが同着優勝

2025 1/27 11:50勝木淳
2025年小倉牝馬ステークス、レース結果,ⒸSPAIA
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小回り芝1800mと2000mの違い浮き彫りに

第1回小倉牝馬Sは1着同着という形で決着し、初代王者が2頭。歴史に残るだろう印象的な結末となった。愛知杯の条件を引き継ぎながらも、小倉芝2000mらしいスピードと持久力を問われる展開になり、中京とはまるで違う小倉特有の流れだったことも印象に残った。

小回りでは見落とされがちだが、同じ中距離でも芝1800mと2000mはまるで違う。それが顕著に出た。小回りの競馬場で芝2000mは1800mよりゲートが4コーナー方向に動くだけだが、これが前半のペースに大きな影響を与える。

小倉芝1800mは1コーナーまで270mほどしかなく、前半で最速を記録される2ハロン目はコーナー区間にあたる。当然、コーナーでスピードは上がらないので、ハイペースになることは少ない。

対して、芝2000mは正面スタンド前の直線をフル活用し、1コーナーまでは470mほど。ダッシュがつく最速区間を直線で迎える。距離が延びればペースは落ちるのが自然だが、小回りの芝1800mと芝2000mは別物だ。

第1回小倉牝馬Sの序盤600mは12.4-10.5-11.0、33.9。正面直線で10秒台を叩き、勢い衰えずに1コーナーへ入っていった。この時点でオーバーペース。それだけ加速した逃げ馬が中盤にかけて急激にラップを落とし、ペース調整するのは難しい。

1986年以降の記録だが、小倉芝1800、2000mで序盤600m34.0以下だったのは計28回。1800m戦で5回、2000m戦で23回。圧倒的に2000mの方が多い。

だが、2000mの23回をみると、重賞で記録されたのは今回が4度目。条件戦だと暴走気味に突っ込んでしまうケースが多々あるが、重賞でのオーバーペースは少ない。4回中2回は夏の小倉記念で記録し、残りは昨年の愛知杯と今回。年明け開幕週は夏以来の開催であり、馬場は絶好。圧倒的先行優位という状況がときに狂わせる。


小回りハイペースへの対応力

今回も内枠ベリーヴィーナスが先手を主張し、8枠アリスヴェリテは引かざるを得ない形になってしまった。だが、毎回逃げることを身上としており、そうあっさりとは引かない。逃げ馬を追う形となり、それが1、2コーナーでのペースダウンを阻んだともいえる。

こうして記録された33.9は先行勢にとって大きな負担となった。5ハロン目からは12.0-12.1-12.3-12.0-12.1-12.2とほぼ加速なし。一方で落ち込みもなし。3、4コーナーで加速できないと前との差は詰まらない。前半1000m通過57.7であっても、極端に時計が落ちないのは開幕週の小倉ならでは。ようは小回りハイペースへの対応力が問われた。

同着の2頭フェアエールング、シンティレーションは前後に位置していた。フェアエールングは札幌、函館、福島、小倉【5-2-0-3】と典型的な平坦小回り巧者(札幌は小回りではないが、平坦)。1800m【1-0-0-4】、2000m【4-2-0-4】で速くなりやすい2000mに強く、適性、展開ともにドンピシャだ。同着だが、またとないチャンスで勝ちをつかんだのは大きい。

これほどハマる重賞はありそうでない。馬にとって滅多に訪れない最大のチャンスを逃さなかったことに価値がある。開幕週で5勝と固め打ちの丹内祐次騎手は頼りになる。


杉原誠人騎手とシルクレーシング

シンティレーションは札幌、函館、中山【3-2-2-2】と近況こそ広い競馬場中心だが、小回りも悪くない。昨年は同時期に中山で東雲賞を勝っていた。

小回り巧者フェアエールングが外を攻め、こちらは4コーナー出口まで内。勝負所で進路がなく、フェアエールングのように動けなかったが、そこで待たされたのがかえってよかった。残り200mでクイーンズウォークの外へ活路を求め、鋭く伸びた。杉原誠人騎手、冷静なプレーだった。

シルクレーシングの6歳牝馬。よくぞここでタイトルをつかんだ。2歳時にアルテミスSで5番人気に支持された好素材。3歳春から4歳はじめまで長期休養があり、条件戦から再出発し地道に勝ち星を重ね、昨夏にオープン入り。府中牝馬S2着、エリザベス女王杯10着と歩み、重賞に手が届いた。確かな素質を競走生活の最後できっちり証明した。

杉原騎手×シルクレーシング所属の関東馬×小倉の重賞はこれで【2-1-0-0】。シルクにとって小倉で杉原騎手起用は勝負手といっていい。忘れないようにしよう。

3着争いは0秒1以内に4頭がひしめく混戦。人気のオーロラエックス、クイーンズウォークらを制したのはコガネノソラだった。フェアエールングと同じゴールドシップ産駒だ。中山も悪くないが、本領を発揮するのは平坦小回り。さらに極端に速いラップを必要としない流れもゴールドシップ産駒に味方した。

コガネノソラにとってベストは1800mであり、今回も2000mは気持ち長い印象を抱かせた。それを意識したか、後方に控えてギリギリまで仕掛けを待ち、3着に入ることができた。これも鞍上の好判断だった。レース後、故障が判明。残念でならない。

2025年小倉牝馬S、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。

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