中盤で加速する急流に
この2年で牡馬三冠すべての勝ち馬を輩出した京成杯はその注目度が著しく上昇した。とはいえ舞台は皐月賞と同じだが、賞金を積んだ精鋭が集まる本番とは違い、キャリアの浅い1勝馬が中心。ここ2年もスローに近く、決着時計は2:02.2、2:00.5と速くない。体力がつききっていないこともあり、前半はゆったり、後半の末脚勝負が基本の形だ。センスと立ち回り、そして確かな末脚が春につながっていく。
だが、今年の決着時計は1:59.9と2分を切った。例年以上に馬場状態が良好であることを差し引けば、そう速い時計とはいえないが、これまで京成杯で2分を切ったのは2004年のたった一度だけ。珍しく前後半1000m58.0-61.2の超ハイペースで、後半600m37.1の我慢比べになった。京成杯の高速決着は前半が速くないと生まれない。冬の中山は向かい風の影響で適度に上がりがかかる。速い時計の条件は追い風の前半で流れることだ。
今年もスローペース想定に反し、前半1000m通過58.3と速かった。タイセイリコルドにガルダイアが絡み、好位に1番人気キングノジョーもいて、緩められなかった。前半のラップ構成は12.6-10.5-11.9-11.5-11.8。3ハロン目から4ハロン目にかけ、加速してしまい、先行勢は相当削られた。
当然、後半1000mは12.1-12.7-12.8-11.8-12.2と上昇できず、減速ラップに。これを早めに勝負に出たキングノジョーは残り400m区間で11.8を叩き出したので、能力そのものは感じるが、さすがに残れない。ハイペースを追い、早め先頭。明らかに強い競馬ではあった。だが、前半のハイペースと後半の早仕掛けによって、流れは完全に差し馬勢に傾いた。
千葉直人調教師、重賞初タイトル
勝ったニシノエージェントは速い流れに巻き込まれず、序盤はゆったり運び、勝負所の外の動き出しもやり過ごし、上がりたい馬が脚を使ったあとにスパートした。会心の騎乗だったと津村明秀騎手も自賛したが、まさにその通り。展開を見事に呼び込み、さらにノーブーレーキという鮮やかな競馬だった。中山では待ちすぎても勝てない。じわっと勝負圏内に入るあたりが憎らしい。末脚勝負を心がけつつ、動くべき時に動く。津村騎手の頭脳が集約した競馬である。
だが、それだけにこの競馬を次も再現できるか。最高の競馬のその上をいかないとGⅠには手が届かない。父イスラボニータが伝える軽さに母系に入るノヴェリスト、ダンスインザダーク、マルジュのバランスから、持続力勝負での強さを伝える。良馬場の皐月賞で好走するにはスピードが足りない印象もあるが、馬場と展開次第では浮上もあり得る。
管理する千葉直人調教師は重賞初勝利。2006年に騎手としてデビューし、障害にも騎乗し、2012年に引退した。通算24勝。苦労の多い騎手生活から調教助手を経て、調教師へ。騎手時代を知るものとしては感慨深い。重賞出走4走目でのタイトル獲得。幸先のいい再スタートを切った。このまま順調にキャリアを重ね、いつかGⅠに手が届く日を心待ちにしている。
ポイントはキャリア2戦目の見極め
2着ドラゴンブーストは先に動いたキングノジョーを目標に堂々たる立ち回りで、先頭へ。ニシノエージェントには屈したが、実績最上位となる重賞2着馬しての力を示した。ハイペースの我慢比べでは経験の差が出る。今回はそのアドバンテージも大きかった。本質は立ち回りの上手さをいかせる小回り向き。次走もコース次第で連続好走もある。
3着ミニトランザットはマイルの新馬逃げ切りから一転、最後方から追い込んできた。キャリア2戦目は難しく、舞台も距離も変わり、前走とは正反対の位置取りとなれば、凡走がチラつくもの。いくら流れが向いたとはいえ、きっちり後半に末脚を使えており、センスを感じる。崩れてもおかしくない状況で好走したことに価値がある。
その分、次走以降の適性や位置取りが読みにくい。父エピファネイア、母の父ゼンノロブロイだから、距離は2000m以上だろう。母のイチオクノホシは新馬から連勝し、阪神JF4着、年明けクイーンC2着と早期から活躍。古馬になっても阪神牝馬S2着の実績がある。差し脚の鋭さを身上としており、ミニトランザットも今回のような後半勝負がいい。つまり、今回と似た状況で狙いたい。
4着キングノジョーは冒頭で述べた通り、今回は負けて強し。ルメール騎手は、ちょっと強引だった。それだけ力差があると踏んだということか。やはりキャリア2戦目は難しい。初戦の感触と2戦目での変化、さらに相手が変わり、力関係が読みにくい。これは馬券を買う側も同じ。キャリア2戦目の取捨が上手になると、3歳重賞の的中率は一段と上昇する。
過去、ハイペースになった2004年京成杯といえば、キングカメハメハが生涯唯一の黒星を喫したレースでもある。京成杯でハイペースを経験したことがNHKマイルC、ダービーでの強さにつながった。今年の上位好走馬は展開利が大きく、次走嫌われそうだが、必ずや将来に結びつく。長い目でみて追いかけよう。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。
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