藤岡康太騎手とナミュールの勝利から1年
今週はマイルCSが開催される。秋のマイル王を決める一戦で、過去にはタイキシャトルやダイワメジャー、モーリスなど種牡馬としても活躍するような名馬が勝利してきた。また、ここ5年はグランアレグリア(2勝)、ナミュールと、牝馬の活躍が目立っている。今回は、そんなマイルCSの記録を振り返る。なお、データは1986年以降のものを参考にする。
勝ち馬の上がりタイムをランキングにすると、1位が2021年グランアレグリアの32.7、2位タイが22年セリフォス、23年ナミュールの33.0、4位が15年モーリスの33.1、5位が20年グランアレグリアの33.2となる。レースの展開やペース、馬場状態などに左右されるものの、トップ5のうち4つが近4年という点に顕著な傾向が見られる(なお、20~22年は阪神開催)。
唯一、2010年代からランクインしたのは15年のモーリス。その年は、1月の2勝クラス(当時は1000万下)から4連勝で安田記念を制していた。
同年の秋初戦で挑んだのがマイルCS。休み明けだったこともあり、4番人気とやや人気を落としていたが、R.ムーア騎手とのコンビで2着に1.1/4馬身差をつける快勝を見せた。この日は直線で伸びた馬が多く、3着イスラボニータは33.0の末脚で追い込んでおり、モーリスの33.1は上がり2位タイだった。モーリスは次走の香港マイルでも勝利。15年の年度代表馬に選出されている。
前記の上がりランキング・トップ5の鞍上に注目してみると、グランアレグリアはC.ルメール騎手、セリフォスはD.レーン騎手、モーリスはR.ムーア騎手と外国人ジョッキーが並ぶ。そのなかで唯一、ナミュールの鞍上・藤岡康太騎手が日本人騎手として名を連ねている。
元々ナミュールはR.ムーア騎手が騎乗予定だったが、当日午前中のレースで落馬負傷があったため、藤岡康太騎手が代打騎乗。レースは後方2番手付近で脚を溜め、末脚にかける姿勢をとる。直線ではレッドモンレーヴを弾き飛ばして進路を確保すると、一気に加速して屈強な牡馬たちをかわし、上がり最速で勝ち切った。
当日での乗り替わりでGⅠ制覇という記録は、これが史上初。ナミュールの秘めたる力を引き出す好騎乗だった。今年の3月30日に通算800勝を達成した藤岡康太騎手は、落馬事故により4月10日にこの世を去ってしまう。35歳という若さで亡くなってしまった名手のことはこれからも語り継ぎたい。
マイルCSで2度の勝利をあげ、いずれも勝ち馬の上がりトップ5に食い込んでいるのがグランアレグリア。20年に安田記念、スプリンターズSと上がり最速で勝利し、マイルCSに挑んだ。ただ、この年の同馬は前目で競馬をしていたこともあり、上がりは2位タイ。上がり最速は5着のサリオスで、33.1の末脚を繰り出していた。
グランアレグリアは翌年、大阪杯や天皇賞(秋)など中距離戦にも参戦し、注目を浴びる。ラストランとなったマイルCSではスタートで遅れをとったこともあり、昨年とはうってかわり道中12番手からの競馬。それでも上がり最速の32.7となる異次元の末脚で、単勝1.7倍という圧倒的な信頼に応え、牝馬初の当レース連覇を果たした。
人気薄でマイルCSを制した、個性豊かな名馬たち
グランアレグリアが単勝1.7倍で勝利したように、当レースは1番人気の馬が期間内で14勝。5番人気以内は31勝で、6番人気以下は7勝と圧倒的に5番人気以内の馬が強い。
一方、単勝オッズが高かった勝ち馬をランキングにすると、3位が2002年トウカイポイントの23.8倍、2位が10年エーシンフォワードの52.4倍、1位が00年アグネスデジタルの55.7倍。高配当決着も稀にみられる。
3位のトウカイポイントは、01年夏にセン馬となってから才能を発揮するようになった名馬である。02年は年明けの中山金杯から始まり、白富士S、中山記念、メトロポリタンS、宝塚記念と、上半期で5戦を走り切り、中山記念では8番人気1着と穴を開けた。
夏には札幌記念で10番人気2着、秋初戦の富士Sで6番人気5着と実力を示してはいたが、マイルでの勝利は条件戦での1勝だけで、GⅠ実績も宝塚記念10着しかなかったため当日は11番人気と低評価だった。
レースは速いペースで流れ、トウカイポイントは馬群のなか、中団辺りにつけていた。3~4角で仕掛けはじめ、直線で進路を確保すると馬場の真ん中から見事な末脚を見せて、エイシンプレストンらの追撃をしのいで勝利した。トウカイポイントの父はトウカイテイオーであり、同年の最優秀父内国産馬に選出されていることも含めて、種牡馬になれなかったのが惜しい一頭だ。
最も単勝オッズが高かった00年勝ち馬のアグネスデジタルは芝ダートの二刀流でも有名。前年に全日本3歳優駿で勝利し、年明けにダートのヒヤシンスSで3着好走と、もともとはダートが中心だった。
ヒヤシンスSの次走からは芝で3戦続けて連敗したが、夏は再びダートに矛先を変えると、交流重賞の名古屋優駿で勝利。続くジャパンダートダービーは14着と敗れるも、秋の始動戦・9月のユニコーンSを勝つと、翌月の武蔵野S2着とダート路線で活躍をみせた。2000年はここまでで8戦。過密ローテのなか、次走に選ばれたのが芝のマイルCSだった。
武蔵野Sが10月28日でマイルCSは11月19日と、中2週の強行日程。ローテはもちろん、勝ち鞍がダートしかないこともあり単勝オッズは55.7倍だった。レース道中は18頭中15番手付近と後方からになり、直線まで我慢する競馬に。直線半ばでも最後方で脚をためていたが、ラスト200m辺りから急加速し、最後は1番人気ダイタクリーヴァを半馬身差で差し切ってゴールした。
翌年以降も、アグネスデジタルはファンを驚かせるローテーションと走りを見せ続ける。マイルチャンピオンシップ南部杯、天皇賞(秋)、香港C、フェブラリーSと、マイルから中距離で芝ダート問わずGⅠを4連勝したことは、記憶にも記録にも刻まれる勝利だったと言える。
今年は海外からチャリンが参戦する。牝馬のブレイディヴェーグや昨年の優勝馬ナミュールらが迎え撃つ構図だが、果たしてどんな結末が待っているのか。
ライタープロフィール
緒方きしん
競馬ライター。1990年生まれ、札幌育ち。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、スペシャルウィーク、エアグルーヴ、ダイワスカーレット。
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