名スプリンターは名種牡馬に
今週はスプリンターズSが開催される。古くはタケシバオーやブロケード、ダイナアクトレスやダイイチルビーといった伝説の名馬が勝利を挙げたレース。近年もグランアレグリアやタワーオブロンドンといったスピード自慢の実力派が勝利している。
ここをステップとして香港に挑む馬も多く、海外遠征の観点でも見逃せない一戦だ。今回は1986年以降に行われたスプリンターズSを記録で振り返る。
波乱と平穏決着、どちらも見られるスプリンターズS。過去、最も人気を集めて勝利した馬はロードカナロアである。
1997年の勝ち馬タイキシャトルが単勝1.9倍、1994年の勝ち馬サクラバクシンオーが単勝1.6倍。ロードカナロアは2013年に単勝1.3倍で勝利を挙げ、レジェンドスプリンターたちの記録を抜いた。ちなみに、単勝1倍台でスプリンターズSを制した馬はこの3頭のみ。この3頭は種牡馬としても活躍を収めたことでも知られている。
タイキシャトルはダート短距離王者のメイショウボーラーやNHKマイルC勝ち馬ウインクリューガーを出し、サクラバクシンオーはグランプリボスやビッグアーサー、ショウナンカンプといったGⅠ馬を輩出した。母父としても、タイキシャトルはダービー馬ワンアンドオンリーを、サクラバクシンオーは年度代表馬キタサンブラックを輩出しており、その活躍はスプリント界に留まらない。
ロードカナロアはデビュー4戦目から5連勝したものの、GⅠ初挑戦となった高松宮記念では同厩舎のカレンチャンに敗北。そこから惜敗が3戦続いたが、秋のスプリンターズSで復活の勝利をあげ、晴れてGⅠ馬の仲間入りを果たした。
ロードカナロアのGⅠ初勝利時の単勝オッズは4.4倍だったが、その後は香港スプリントでの歴史的勝利をはじめ、翌年の高松宮記念でのリベンジ達成やマイル挑戦となった安田記念を制するなど実績をあげ続けたことで、連覇がかかる2013年スプリンターズSでは単勝1.3倍というファンからの圧倒的な信頼を得ていた。
引退後は種牡馬として大活躍中。歴史的名牝アーモンドアイをはじめ、ダノンスマッシュやダノンスコーピオン、ファストフォースやブレイディヴェーグらを輩出し、さらに今年の春には、大阪杯でベラジオオペラがGⅠ馬の仲間入りを果たした。まさに歴史的な名馬として、これからもその名を残し続けることだろう。
ちなみに、勝ち負けを度外視すると、1986年以降のスプリンターズSで最も人気を集めたのは1998年のタイキシャトル(1.1倍)。前年王者として臨んだ引退レースだったが、3着に敗れている。それでも、1着はマイネルラヴで2着もシーキングザパール。この2頭も引退後には父や母として活躍を収めた。特に母父マイネルラヴのドリームバレンチノは2012年の函館スプリントSでロードカナロアを撃破している。
最低人気で勝利したダイタクヤマト
そのマイネルラヴがタイキシャトルを撃破した時の単勝オッズは37.6倍だった。
当時のスプリンターズSは12月の開催で、同年にセントウルSを制していたものの、前走のスワンSで7着に敗れていたこともあり、7番人気の評価に留まった。なお、単勝オッズ37.6倍での勝利は、スプリンターズS勝ち馬としては1986年以降で3番目に高い数字となる。
スプリンターズSの勝ち馬として、単勝オッズが最も高かったのは、2000年の勝ち馬ダイタクヤマトの257.5倍。それに続くのが2014年スノードラゴン(46.5倍)、上述の1998年マイネルラヴ(37.6倍)となる。
スノードラゴンはデビューからダートを主戦場としてきた馬で、それまでにあげた7勝は全てダート。芝での初勝利がGⅠスプリンターズSという、記録的な名馬だ。この年はオーシャンSで2着、高松宮記念でも2着、北海道スプリントCで2着と芝ダートの両方で馬券圏内にきていたが、それでもスプリンターズSでは13番人気の低評価だった。
また、スノードラゴンはアドマイヤコジーン産駒で、父は2002年のスプリンターズS2着馬。ビリーヴの2着に泣いた12年前のリベンジを果たしたとも言える。
同様に、父ダイタクヘリオスが5、4着と2度敗北を喫したスプリンターズSでリベンジを果たしたのがダイタクヤマトである。同馬は父ダイタクヘリオス(1987年生)、母父テスコボーイ(1963年生)、母母父クリノハナ(1949年生)という血統。5代血統表にはダイオライトやトウルヌソルの名前も見られる古の血統だ。
ダイタクヤマトが活躍した2000年といえば、種牡馬リーディングでサンデーサイレンスやトニービン、ブライアンズタイムが火花を散らしていた時代。加えて短距離路線ではマル外が猛威を振るっており、実際、ダイタクヤマトが勝利した2000年のスプリンターズSでは2着アグネスワールド、3着ブラックホーク、4着ブロードアピール、5着マイネルラヴと2〜5着をマル外の馬が占めた。
同年春の高松宮記念が7歳(現6歳)にしてGⅠ初挑戦となったダイタクヤマトだったが、結果は13番人気11着。その次走でオープン競走を勝利し、夏には函館スプリントSでブロードアピールらに先着する2着と好走していたものの、スプリンターズSでは16頭中16番人気に甘んじた。
その評価に反発するかのように先手を取ると、稍重の馬場に苦戦するライバルたちを尻目に力強い走りを披露。マル外の名馬たちの追撃を振り切って栄冠を手にした。その次走もスワンSを8番人気で勝利。その実力をファンに認めさせたのだった。
彼の戦績を振り返ると、江田照男騎手や中舘英二騎手、武豊騎手といった逃げの名手とのコンビで逃げ切り勝ちを収めている。人との縁にも恵まれた名馬だったと言えるだろう。今年のスプリンターズSも、人馬の絆を感じる走りに期待したい。
ライタープロフィール
緒方きしん
競馬ライター。1990年生まれ、札幌育ち。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、スペシャルウィーク、エアグルーヴ、ダイワスカーレット。
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