彼岸の競馬は堅い
秋の彼岸がやってくる。古より昼夜がほぼ同じ時間になる彼岸は陰と陽の均衡がとれるとされてきた。馬券の世界では彼岸は堅いという説がある。陰が強くなるお盆は荒れるが、彼岸は堅い。眉唾もののようだが、そうでもない。
3、9月の彼岸に行われる重賞といえば、阪神大賞典、スプリングSとオールカマー、神戸新聞杯。重賞のなかでも人気馬が非常に強い重賞ばかりだ。
2000年以降、この4重賞で10番人気以下はわずか1勝。2019年スプリングS10番人気エメラルファイトだけ。大穴狙いは禁物。それが彼岸の馬券術というものだ。
ちなみに、陰が強いお盆は北九州記念(今年はCBC賞)と札幌記念が開催される。北九州記念は荒れる重賞で有名だが、札幌記念は1番人気が13連敗中。中距離のタレントぞろいにもかかわらずこの数字で、イメージほど堅くない。
今週のこと重賞については、穴党は大人しくしたほうがよさそうだ。データは過去10年分(14年新潟)を使用する。
1番人気【2-3-0-5】勝率20.0%、複勝率50.0%。そんなに堅くないじゃないかと突っ込みを受けそうだが、これが近年のオールカマーだ。
真の実績馬が出走する機会が少なく、過去10年で前走GⅠ・3着以内は【1-0-0-6】でわずか7頭にとどまる。昨年は対象馬がゼロ。今年もいない。
ただ、勝ち馬はすべて5番人気以内。複勝圏もせいぜい7番人気以内とやはり彼岸の重賞らしく穴党の出番はなさそうだ。上位5頭は接近しており、人気馬拮抗のレース。これが最近のオールカマーの輪郭だろう。
4歳が【5-5-3-14】勝率18.5%、複勝率48.1%と一歩リードする。春の中距離は5歳【4-3-5-39】勝率7.8%、複勝率23.5%が中心だったが、秋になると4、5歳の成長曲線が交錯し、4歳が上になる。
中距離重賞全般にいえる傾向なので覚えておこう。4歳は単複回収値が145、123と高い。人気薄まではいかないが、4、5番人気あたりにおいしい4歳がいれば狙ってみたい。
牝馬サリエラに注目
GⅠ級というと、2歳ホープフルSを勝ったキラーアビリティがいるぐらい。今年も秋の中距離GⅡとしては少しばかり寂しい顔ぶれだ。
前走クラスではGⅠが【5-5-1-23】勝率14.7%、複勝率32.4%と抜けている。その内訳は宝塚記念【2-2-1-9】勝率14.3%、複勝率35.7%、天皇賞(春)【2-1-0-6】勝率22.2%、複勝率33.3%となっている。
間隔が2カ月半と少し詰まる宝塚記念は確率的に低いのは気になるが、前走9着以内なら【2-2-1-6】。そもそもレベル的に厳しかったという馬でなければ、秋緒戦で巻き返してくる。
宝塚記念9着ヤマニンサンパは重賞未勝利どころか馬券圏内もない。上半期のハイレベル戦、鳴尾記念4着は個人的に引っかかるものの、オールカマーでは強気になれない。
もう一頭気になるのが天皇賞(春)12着サリエラだ。最近のオールカマーは牝馬が強く、【5-4-1-14】。さらに前走春のGⅠで10着以下だと【1-1-0-1】。GⅠの壁に大きくはね返されたとしても、その経験は大きい。
サリエラはこのデータに合致する。目黒記念3着、ダイヤモンドS2着など東京の長めの距離で結果を残しているが、ここでも決してひけをとらない。
前走GⅢは2000m【4-1-1-38】。サマー2000シリーズがあるからか、ここが強い。その着順内訳は3着以内【4-1-0-14】、4着以下【0-0-1-23】。さすがにGⅡに挑むならGⅢ好走は最低条件だろう。
ただ、今年は函館記念4着サヴォーナが目立つぐらい。データにはまらない。
ここまでデータを軸に分析していくと、どうも強気に推せる馬がいない。人気でいえば、エプソムCを勝ち、昨年のセントライト記念を勝ったレーベンスティールだろう。
前走エプソムCは【0-0-0-2】だが、2頭とも10着以下に負けており、当てはめるのは無理筋だ。2000年以降にデータを広げると、前走エプソムC1着は【0-0-1-1】。2009年シンゲンの3着があるだけだ。
レーベンスティールは状況的に大敗はないが、連勝を決めるかどうかは不透明。今年のオールカマーは彼岸の重賞であっても、そうそう堅く収まらない予感がある。はたして陰陽の均衡は保たれるだろうか。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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