有馬記念ほど堅くない
京都の宝塚記念といえば、ダンツシアトルが勝ち、ライスシャワーが非業の死を遂げた1995年、ディープインパクトが凱旋門賞へ旅立つ直前に出走した2006年を思い出す。サマーグランプリは春の総決算であると同時に、秋への序曲ともいえる。
奇しくも今年はドウデュースがディープインパクトと同じく凱旋門賞挑戦を前に宝塚記念を走る。父はディープインパクトに国内で唯一、土をつけたハーツクライ。ディープインパクト産駒もジャスティンパレス、プラダリア、ヤマニンサンパがエントリーし、ハーツクライをダービーで負かしたキングカメハメハもシュトルーヴェ、ヒートオンビートを送る。
現代の競馬シーンに欠かすことができないビッグ3の産駒がこうしてGⅠで顔をそろえるのも、これまではいわば日常だったが、もう間もなく消えていく。時代は巡る。ビッグ3の孫の代に移ろいつつあるからこそ、今年の宝塚記念は目に焼きつけたい。データはレース全体の傾向をとらえる意味で、阪神施行の過去10年分を使用する。
同じグランプリでも有馬記念は1番人気【5-1-1-3】に対し、宝塚記念の1番人気は【3-2-0-5】勝率30.0%、複勝率50.0%と若干、取りこぼす印象もある。秋に比べると春は路線が多彩であり、サラブレッドにとってしんどい夏が間近に迫った時期であることから、実績と適性、体調が釣り合わない現象が起こる。
昨年のイクイノックスもドバイ帰りで出走し、2着スルーセブンシーズとタイム差なし。秋のパフォーマンスを思えば、決して万全とはいえなかった。ドウデュースはライバルから1年遅れでグランプリ連勝を飾れるだろうか。
6~8番人気1勝ずつ、10番人気以下【0-3-3-53】複勝率10.2%など阪神の宝塚記念は波乱の目もある。しかし京都芝2200mは阪神とは違い、外回りを使用する。下り坂も手伝い、阪神ほどスパートがタイトにならない。例年はスタミナ色が濃くなることで、適性で上回る伏兵が出現するレース。瞬発力重視の京都ならそう荒れないか。
年齢のトップは5歳【7-4-5-37】勝率13.2%、複勝率30.2%だが、これも軽さより体力勝負になりやすい阪神の宝塚記念ならでは。もちろん、京都もディープインパクトが勝った年のように道悪になるようなら別だが、そうでなければ必ずしも5歳優勢ともいえない。
4歳は【3-1-5-30】勝率7.7%、複勝率23.1%。4歳の3勝はクロノジェネシス、タイトルホルダー、イクイノックスですべてGⅠ馬。ソールオリエンス、ベラジオオペラも資格はある。
距離延長は問題ないドウデュースだが
前走ドバイは【2-1-1-11】。5月のGⅠでは例年より1週間遅かったドバイとのレース間隔が取り沙汰されたが、さすがに宝塚記念となればその影響は小さい。前走ドバイ経由はクロノジェネシス、イクイノックスとグランプリ連勝馬の名前が並び、ローテーションの相性は問題ないだろう。
ただし、ドバイシーマクラシックが【2-1-1-6】と好成績。ジャスティンパレスはデータ上問題ないが、ドウデュースのドバイターフは【0-0-0-2】。18年ヴィブロス3番人気4着、22年パンサラッサ6番人気8着と冴えない。ドバイ帰りというより、距離延長が好走を阻んでいるようだ。この点も「阪神ならではの現象で、京都なら問題なし」ともいえるが、ここは解釈が分かれるところ。
ドウデュースはダービー、有馬記念を勝っており、距離自体の問題はないが、距離変化の影響がどれほどあるかは気になる。ハーツクライ産駒は距離延長を苦にせず、ドウデュースも距離延長【2-1-0-1】(前走取消を除く)。データが当てはまるとは限らない。
国内組に目を向けると、前走GⅠが【5-5-8-58】勝率6.6%、複勝率23.7%と目立つ。そのレース内訳は天皇賞(春)【3-3-3-33】勝率7.1%、複勝率21.4%、大阪杯【2-2-1-16】勝率9.5%、複勝率23.8%。普段は同じ阪神内回りということで大阪杯に分があるが、今年は京都のため、この成績は単純には受け取れない。
前走天皇賞(春)組は1着【1-0-2-2】勝率20.0%、複勝率60.0%だが、2、3着【0-0-0-10】であり、ブローザホーン、ディープボンドには気になるデータだ。ブローザホーンは日経新春杯(京都芝2400m)勝ちがあり、京都芝2200mは悪くないはずだが、そこから2戦距離を延ばし続けた。一気に距離が1000mも短くなるのはどう出るか。後方から進めた前走が引っかかる。日経新春杯のように流れに乗ってほしい。
大阪杯組は逆で、1着【0-0-1-3】複勝率25.0%に対し、2着【1-1-0-1】勝率33.3%、複勝率66.7%。データではべラジオオペラよりローシャムパークをとりたい。また6~9着は【1-0-0-6】勝率、複勝率14.3%。2017年サトノクラウンが逆転劇を演じた。この年は大阪杯が1:58.9と速く、宝塚記念は稍重で2:11.4と少し時計を要した。
今年の大阪杯は1:58.2。もしも馬場が渋り、時計がかかるようなら、7着だったソールオリエンスはイメージに近い。重の皐月賞は2:00.6だった。その後、道悪は中山記念4着だけ。有馬記念以降、成績は冴えないが、適性が合わなかっただけかもしれない。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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