ダートの歴史が変わるか? 豪華絢爛なダート種牡馬たち!
ダート三冠の創設、海外ダート競走での活躍など、歴史的な転換を迎えているダート界。そんなダート界の変化を受け、近年、グングンと需要が高まっているのがダート種牡馬である。輸入種牡馬のシニスターミニスター(産駒の日本デビューは2011年)が、導入当初の種付け料150万円から増額を続け、2024年には700万円になったことからも、その重要さは見てとれる。昨年の新種牡馬モーニンも地方を中心にブレイクし、早くもポジションを確立しつつある。
そうした追い風もあり、今年の新種牡馬には期待のダート種牡馬がズラリと並ぶ。中でも注目は、新種牡馬全体の中でトップの種付け数を誇るルヴァンスレーヴ。3歳シーズンにユニコーンS、JDD、マイルチャンピオンシップ南部杯、チャンピオンズCと4連勝したように、早い段階から活躍を見せた素質の高さに期待が集まる。
ルヴァンスレーヴは父シンボリクリスエス、母父ネオユニヴァースという血統で、サンデーサイレンスの4×3を狙った配合も目立った。米国の名馬アゼリとハーツクライの間に生まれたフレイムタワー、名繁殖フェアリードールの孫であり自身もクラスターCを制しているオウケンビリーヴといった良血繁殖牝馬との配合は、サンデーサイレンスの4×3を狙ったものだろう。初年度となる今年の2歳世代は223頭に種付けし、149頭が血統登録をしている。同馬は翌年にも196頭に種付けして140頭が血統登録しているように、産駒のデキも悪くなさそうだ。
そのルヴァンスレーヴと双璧となるのが、ゴールドドリームだ。ダートのGⅠ級競走を5勝という実績、デビュー3連勝という仕上がりの早さを持ちつつ7歳でチャンピオンズC2着というピークの持続性、そして牝系に流れる歴史的名牝Specialの血と、セールスポイントは枚挙にいとまがない。ゴールドアリュールの後継として期待が集まり、初年度は212頭に種付けして129頭が血統登録と、こちらも大台に乗せた。
こちらは父ゴールドアリュール(その父サンデーサイレンス)のためルヴァンスレーヴよりもサンデーサイレンスの血が濃い。ノーザンF生産馬でも、デイトユアドリームやターシャズスター、ジンジャーミストなど、ゴールドアリュールと配合したことのある繁殖への種付けが目立つ。特にジンジャーミストはきょうだいにポタジェ、ルージュバック、テンカハルらがいる良血馬で、大きな期待が見て取れる。ゴールドアリュールの後継種牡馬として認められれば更なる良血繁殖が集まるはずで、スタートダッシュを決めたいところだ。
他にも、JBCスプリント覇者ブルドッグボス(父ダイワメジャー、初年度血統登録19頭)や、デビューから3戦無敗のまま引退となったオーヴァルエース(父ヘニーヒューズ、初年度血統登録26頭)、2013、2015年のNAR年度代表馬ハッピースプリント(父アッミラーレ、初年度血統登録11頭)など、ダート路線で楽しみな存在は多い。どの馬も素質や可能性を秘めているだけに、少ない産駒からブレイクを目指したい。
芝路線はサンデーの血を持つ種牡馬の争いが激化
対する芝路線は、皐月賞馬サートゥルナーリアが圧倒的な人気を集めた。父ロードカナロア、母シーザリオという国内有数の良血馬。半兄エピファネイア(父シンボリクリスエス)はデアリングタクト、エフフォーリアらを輩出した大人気種牡馬で、半兄リオンディーズ(父キングカメハメハ)も4頭の重賞馬を送り出している。サートゥルナーリア自身も、現役時代にはデビュー4連勝でホープフルSと皐月賞を制覇した実力派。ダービーこそロジャーバローズの4着となったが、夏を越して神戸新聞杯1着、有馬記念2着などの実績も積んで最優秀3歳牡馬に選出されている。
サートゥルナーリアは初年度に205頭に種付けし、142頭が血統登録された。同産駒はノーザンF生産馬も多く、サンデーサイレンスの4×3となるディープインパクト牝馬との配合が多い。桜花賞馬ハープスター、桜花賞2着馬クルミナル、ラキシスの全妹フローレスマジック、ミッキークイーンの全姉インナーアージ、エアグルーヴの血が流れるサトノユリアなどが該当する。
サートゥルナーリアは母系にサンデーサイレンスが入っているが、今年はサンデーサイレンス直仔の種牡馬たちの後継も多数デビューする。こちらはサンデーの血が濃いことからやや配合が難しい面もあるが、それでも父系として血を残すための戦いが繰り広げられる。ディープインパクト産駒フィエールマンは、血統の良さや長距離GⅠを3勝したスタミナを買われて107頭に種付け。ノーザンF生産馬も多く、配合相手にはコロナシオン(母はブエナビスタ)、サンタフェチーフ(サリオスやサラキアの伯母)、ピースエンブレム(ブラックエンブレムの全妹)など良血馬が並ぶ。
ステイゴールド産駒のウインブライトは93頭に種付け。こちらは香港でGⅠを制したところも父を彷彿とさせ、大物を出してくれそうな雰囲気を感じているファンも多いだろう。初年度からコスモチェーロ(ウインマリリンの母)やコスモベル(オーシャンSで2着)など、コスモヴューFやビッグレッドFの有力繁殖を集めている。その他、マイル種牡馬ダイワメジャーの後継として期待が集まるのはアドマイヤマーズ。2、3歳で国内外のマイルGⅠを3勝した実力を武器に115頭に種付けした。レディスキッパー(祖母がウインドインハーヘア)やロッテンマイヤー(祖母がビワハイジ)、カリンバ(祖母がマンデラ)といったノーザンFの良血牝馬との配合も多い。
粒揃いの外国血統馬、ロマン溢れる新種牡馬も
輸入種牡馬は近年の中ではやや手薄だが、その中でもBlame産駒のナダルがトップとなる150頭に種付け。米国ダートGⅠアーカンソーダービーを含む4戦無敗の実力馬で、サンデーサイレンス系の繁殖牝馬を集めた。クィーンズバーン(12年阪神牝馬S勝ち)、サングレアル(14年フローラS勝ち)といった重賞馬とも配合されているため、チャンスは十分与えられている。
フォーウィールドライブ(初年度血統登録86頭)は米国三冠馬アメリカンファラオの後継種牡馬として輸入。日本のダートで実績を残している父の適性が受け継がれていることに期待したい。歴史的名馬フランケルの全弟ノーブルミッション(初年度血統登録85頭)も楽しみな存在。これまで輸入された産駒は中央ではダート未勝利戦の1勝(出走頭数5頭、32戦)に留まっているものの、昨年、米国の産駒がBCターフスプリントを制覇していて、挽回ムードが漂う。
日本国内で現役生活を送った外国血統馬にも注目したい。マル外の新種牡馬としては、モズアスコットとミスターメロディが有力。モズアスコットは安田記念、フェブラリーSと芝ダート両方のマイルGⅠを制し、二刀流馬として活躍した。大種牡馬Frankel産駒という点も魅力で、167頭を集め105頭が血統登録されている。現役時代のオーナーであるキャピタル・システムのバックアップも心強いポイントだ。高松宮記念勝ち馬ミスターメロディも勢いのあるScat Daddy産駒として174頭を集め81頭が血統登録された。受胎率はやや控えめだが翌年にも164頭を集めているあたり、産駒のデキは良さそうな印象を受ける。
また、マル外ではないが、ダーレーの持ち込み馬タワーオブロンドン(父Raven's Pass)も人気。2歳から重賞を制覇し4歳でスプリンターズSを制覇した経歴に加え、ディーマジェスティらを輩出している日本実績のある牝系である点も魅力と言える。初年度は134頭に種付けしていたが、2年目には157頭とさらに多くの繁殖を集めた。
さらに今年は、ロマン溢れる種牡馬たちも多い。クワイトファインは父トウカイテイオー、母父ミスターシービー、母母父シンザンという血統馬。父系として、トウカイテイオーの血、ひいてはバイアリータークの血を守っていくという目標に向けて邁進する。生産界の血の偏りをなくすという信念を叶えられるか、プロジェクトの成功に注目が集まる。川崎記念の勝ち馬オールブラッシュは、北海道ではなく青森で種牡馬となった1頭。貴重なウォーエンブレムの血を武器に、馬産地である青森を盛り上げていく。また、「最強の一勝馬」とも呼ばれたエタリオウも種牡馬に。こちらはステイゴールドの爆発力に期待したい。
種付け数トップ3のうち2頭がダート種牡馬
【表 種付け数上位馬の種付け料】
ルヴァンスレーヴ 150万円(受胎確認後) 223頭
ゴールドドリーム 100万円(受胎確認後) 212頭
サートゥルナーリア 600万円(受胎確認後) 205頭
ミスターメロディ 100万円(受胎確認後) 174頭
モズアスコット 200万円(受胎確認後) 167頭
ナダル 400万円(受胎確認後) 150頭
フォーウィールドライブ 100万円(受胎条件)、150万円(出生条件) 139頭
タワーオブロンドン 150万円(出生条件) 134頭
ノーブルミッション 150万円(後払受胎後支払) 128頭
アドマイヤマーズ 300万円(受胎確認後) 115頭
今年の新種牡馬で種付け頭数トップはルヴァンスレーヴの223頭。150万円という価格帯も後押ししたとは言え、現役時代に芝を一度も走っていない馬がこれだけの繁殖牝馬を集めたことは、時代の移り変わりを感じさせる。種付け数2位のゴールドドリームと切磋琢磨して、新時代を築き上げてほしい。
新種牡馬の種付け数3位はサートゥルナーリア。こちらは種付け料が600万円で、翌年には700万、翌々年には800万と増額中だ。ロードカナロアの後継種牡馬としての需要であることを考えれば、初年度から大物が求められる。初年度からアーモンドアイ、ダノンスマッシュを輩出した父に続けるか。
そしてミスターメロディ、モズアスコット、ナダル、フォーウィールドライブ、タワーオブロンドン、ノーブルミッションと続く外国血統馬たちは、どの馬も新しいトレンドとなり得る素質を感じさせる。冒頭で紹介したシニスターミニスターは初年度の種付け数が56頭。7年目で100頭の大台に乗っている。第二の、もしくは芝のシニスターミニスターとなるならば、スタート地点から2倍3倍のチャンスを得ていることになる。ここから抜け出して一気に人気種牡馬となる馬が出てきても、何ら不思議はない。
ライタープロフィール
緒方きしん
競馬ライター。1990年生まれ、札幌育ち。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、スペシャルウィーク、エアグルーヴ、ダイワスカーレット。
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