藤沢和雄調教師から受け継がれたバトン
京王杯SCで重賞初制覇を遂げたレッドモンレーヴは昨年2月末まで藤沢和雄厩舎にいた。レッドモンレーヴは名伯楽の引退を記念して製作されたNHKのドキュメント番組でグランアレグリアとともに取り上げられた。そのときの紹介が「騎手を乗せられないほどの暴れ馬」といったニュアンスで、藤沢和雄調教師のもとで調教され、ようやく軌道に乗ってきたという感じだった。番組の中で師は「一生懸命走るのがあまり好きじゃない。適当に走りたいんだよ」とレッドモンレーヴについて語っていた。
かくしてレッドモンレーヴは師が引退する最後の開催で2勝目をあげた。番組の最後には厩舎最後の日に師が馬房を訪れ、労うように愛撫すると、頭を下げ、甘えるような仕草を見せる様子が流れた。本当にレッドモンレーヴが気性のキツい問題児だったのかと疑問に思うほどの姿がそこにあった。
その後、蛯名正義厩舎に転厩したレッドモンレーヴは8カ月の休養を経て、天皇賞(秋)当日に行われた藤沢和雄元調教師が2022年顕彰者に選ばれたことを記念したレジェンドトレーナーカップを勝利し、師への恩返しを飾る。3勝クラス2、1着を含め、東京芝1600m【2-1-0-0】。3戦の上がり33.3、33.4、33.1で東京の高速上がり勝負に強い。蛯名正義厩舎で着実にパワーアップした。前走のダービー卿CTこそ大きく出遅れ、決め手を活かしにくい中山もこたえ7着だったが、ここは東京替わり。かつスローペースで瞬発力を存分に発揮できた。蛯名正義厩舎の重賞初制覇も感慨深いものがあるが、それ以上に気性難を抱えたレッドモンレーヴが東京の直線を鮮やかに駆け抜け、重賞を勝ったことに競馬の奥深さを感じた。改めてホースマンたちの根気強さに敬意を表したい。
さて、レースは戦前の予想通り、1400m初出走のベレヌスが単騎で逃げられるほどのスロー。前半600mは34.9と先行馬にとっても負担は少なく、600~800m11.7で息も入り、こうなると、位置取りの競馬だ。一方で、切れ味勝負に強い瞬発力型も末脚を温存しやすい流れになった。レッドモンレーヴも上がり2位32.6を記録。裏を返せば、ある程度前の位置をとらなければ、瞬発力があっても逆転できない流れでもあった。
レッドモンレーヴといえば母はラストグルーヴなので、祖母エアグルーヴ、ダイナカールの牝系だ。この系統は祖母の父トニービンが入るので、長くいい脚を使える持続力タイプが多い。サンデーサイレンスの血を持たないエアグルーヴにはサンデーサイレンスやダンスインザダーク、そしてラストグルーヴの父ディープインパクトと、瞬発力に特化したサンデー系が交配され、代を経て瞬発力を備える産駒も出ており、レッドモンレーヴは父ロードカナロアの影響も受け、マイル前後の瞬発力型として成長した。安田記念挑戦なら、底力を問う流れでどこまで末脚を繰り出せるか、注目に値する。