春に強いラストタイクーン
レース名に入るディープインパクトがここを勝ち、三冠ロードを歩んだのは2005年のこと。18年前になる。ディープインパクト以降、弥生賞と皐月賞を連勝したのは10年ヴィクトワールピサのみ。これ以降、弥生賞を勝った皐月賞馬は出ていない。元々、弥生賞は日本ダービーと相性がいいレースと言われていたが、近年は菊花賞馬も出し、先々へつながるレースになった。今年の勝ち馬タスティエーラの父サトノクラウンは15年弥生賞勝ち馬で、わずか8年で父子制覇を達成。キタサンブラックとイクイノックスもいて、最近は活躍する血統サイクルが目まぐるしい。
サトノクラウンは血統表にサンデーサイレンスがいない。サトノクラウンが最終世代だった父マルジュは1991年8ハロンのセントジェイムズパレスSの勝ち馬。その父は懐かしのラストタイクーンだ。日本でラストタイクーン産駒といえば、02年桜花賞馬アローキャリー、99年神戸新聞杯を勝ったオースミブライトがいる。オースミブライトはテイエムオペラオーが勝った皐月賞2着馬で京成杯も勝った。ほかには武幸四郎調教師が騎手時代にデビュー週重賞Vを飾ったオースミタイクーンも同じラストタイクーン産駒。当時、マイラーズCは3月1週目だった。
マルジュの向こうにいるラストタイクーンはクラシックで意外性を発揮し、春に強い。花粉症持ちにはいささか羨ましい。サトノクラウンも皐月賞は6着だったが、日本ダービーは3着だった。やはり弥生賞馬は日本ダービーまで追いかけたい。共同通信杯から権利をとりに間隔を詰めてきたタスティエーラもまたしかりだ。
大人な流れになったトライアル
皐月賞直前に行われる同舞台のトライアルらしく、静かな立ち上がりで幕をあけた。横山典弘騎手が乗るトップナイフが行く馬がいなければ行くといった雰囲気を醸し、武豊騎手のゴッドファーザーがそれを制してハナへ。序盤600m35.9、前半1000m通過1:01.0の落ち着いた流れになり、目立って動く馬もいない淡々とした大人なレースになった。
後半1000mは59.4、最後600m35.0。そのラップ構成は12.3-12.1-11.6-11.5-11.9。急坂までじわじわとペースを上げる形は実に理にかなった形だった。こうなれば力がモノを言う競馬。好位から抜け出したタスティエーラは文句なし。共同通信杯では勝負所での反応が悪かったが、今回はそれを見せなかった。前走の経験が活きたといえる。まだ上がりが速い競馬だと不安もありそうだが、経験を重ねることで解消されるのではないか。
2着トップナイフは前走ホープフルSで逃げを打ち、前半600m36.1、前後半1000m1:01.5-1:00.0、最後600m35.0、2:01.5を記録した。今回はゴッドファーザーが逃げる意思を見せるや、控えてインの3番手で我慢し、内を抜けてきた。記録した上がり600m34.9はホープフルSと変わらず、道中のペースもほぼ同じ。控える競馬を試みるにはちょうどいい流れになり、ある程度手応えをつかめたのではないか。やれることはやれたレースで陣営にとって収穫はあった。本番でもインに潜るような競馬で一発かます場面もあるだろう。
3着ワンダイレクトは1、2着馬とは位置取りと通ったコースの差もあった。正攻法できっちり皐月賞出走の切符をつかんだので、最低限の目標はクリアした。ルメール騎手は距離がギリギリだとジャッジしたようだが、中山も経験したので本番は流れ次第でもう少し積極的な競馬をするのではないか。この結果で改めて若駒Sで負けたマイネルラウレアの強さも確認できた。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。
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