格の違いとは余裕の走りでみせるもの
ダービー馬の京都記念優勝は1948年マツミドリ以来75年ぶりだった。昭和23年といえば、戦後まもなくの混乱期であり、帝銀事件、美空ひばりデビュー、太宰治死去といった出来事があった年だ。片山哲内閣と芦田均内閣が相次いで総辞職、秋には吉田茂が2度目の内閣総理大臣に就き、ここから戦後が加速していく。もはや現代史の講義の世界だ。
これほど珍しい記録なのはダービー馬と京都記念の相性があまりよくないことにある。近年でもキズナ、ワンアンドオンリー、マカヒキ、レイデオロ、ワグネリアンといった馬たちが京都記念で負けた。17年マカヒキ、18年レイデオロは4歳初戦にここを選び、敗れた。ドバイ遠征前の叩きといったニュアンスも強いレースで、過去10年でGⅠ馬が京都記念を制したのは17年サトノクラウン、20年クロノジェネシス、21年ラヴズオンリーユーの3回しかなく、昨年のような波乱もしばしばある。
ドウデュースも境遇的には似たものがあった。目標は次走ドバイターフであり、戦前は状態面で休み明けっぽいところがあるという声も聞こえた。しかし、ドウデュースは勝ちたかった。阪神競馬場がGⅠ並みの盛り上がりを見せたのもドウデュース出走効果だ。ダービー馬は競馬会の看板であり、出走するだけで価値がある。まして凱旋門賞再挑戦もちらつく馬で、目の前で見られるのは残り何回あるか分からない。
ドウデュースはそれほどの馬にもかかわらず、昨年のJRA賞は無冠に終わった。日本ダービーで負かしたイクイノックスが国内でGⅠ・2連勝、一気に年度代表馬まで駆けあがった。フランスへ飛んだドウデュースは一歩引いた形になってしまった。当然、こんなもんじゃない。世代最強は自分だ。ドウデュース陣営にその気持ちがあったにちがいない。
ドウデュースには証明すべきことがあった。それを休み明けで果たす。これが今回のテーマだ。そういった意味では前半はじっくり進め、4コーナー、リズム乱れずひとまくりで決着をつけるレース内容は完璧だった。格の違いとは余裕の走りで見せるもの。直線は観衆の全視線を釘づけにし、2着マテンロウレオに3馬身半の圧倒劇、まさに独壇場だった。イクイノックスだけじゃない、ドウデュースもいるぞ。そんな競馬だった。この2頭が再び同じ舞台に立つ日はいつ来るのか。いまからゾクゾクする思いだ。
2、3着も4歳勢
このレースは昨年逃げ切ったアフリカンゴールドにユニコーンライオン、同厩キングオブドラゴンがいて、先行勢も賑やかだった。序盤600m34.6は阪神で行われた2年前34.9より速く、入りとしてはやや先行勢に辛い流れだった。中盤はユニコーンライオンがペースを落とし、中盤1000m1.01.8、最後の600m11.6-11.3-11.6、34.5で確実な末脚を要求された。
ドウデュースのまくりに対し、2着マテンロウレオは終始インを通り、勝負所で動けるポジションを作りながら、最内を立ち回って抜けてきた。ドウデュースに対抗する最善策は見事で、その力差を策でもって埋めてみせた。自在な立ち回りは横山典弘騎手がすっかり手のうちに入れてのもの。今後も期待できる人馬だ。
3着プラダリアもドウデュースを意識した早めの仕掛けで対抗心がみえた。ドウデュースのまくりが予想外に鮮やかで屈した形だが、力がなければ最後まで残せる仕掛けではなく、積極策で3着は価値がある。2、3着はともにドウデュースと同じ4歳、今年は国内もこの世代が中心になりそうだ。
4着キングオブドラゴンはこのメンバーで入りが厳しい序盤を乗り切っての結果だけに評価できる。好位で立ち回る競馬が板についてきており、もう少し緩い流れであれば、まだまだやれる。
3番人気キラーアビリティは5着。序盤から積極的な運びで、やや入りがきつかったかもしれない。最近は急かすような競馬が合わないようで、今回はドウデュースの動きもあり、全体的に息が入らない流れでなし崩し的に脚を使ってしまったか。
2番人気エフフォーリアは心房細動で競走を中止した。昨春は行きっぷりが悪くスランプに陥ったが、有馬記念から徐々に前に行けるようになり、この日は2番手がとれるほどに復調していた。陣営は栗東入厩からの当日輸送など打てる手は打っており、その苦心を考えると、残念だ。だが、こればかりはどうにもならないアクシデントであり、無事だったのは不幸中の幸い。あとのことは陣営の判断を待ちたい。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。
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