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【東京新聞杯】秀逸なラップ構成で逃げ切りV! ウインカーネリアン、いざベストマイラーへ

2023 2/6 10:37勝木淳
2023年東京新聞杯杯のレース結果,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

前後半がほぼ同じラップ構成

ウインカーネリアンが東京新聞杯を逃げ切り、重賞2勝目をあげた。初重賞だった関屋記念は前後半800m48.4-44.9と新潟マイルらしいスローの上がり勝負となり、位置取りの優位さを活かした勝利だった。

同じ左回りでも東京マイルの逃げ切りはニュアンスが異なる部分がある。そもそもスピードとそれを持続する力が問われる東京マイルは逃げ切りが決まりにくい。東京新聞杯の逃げ切りは最近では16年スマートレイアー(前後半800m48.4-45.7、1:34.1)、17年ブラックスピネル(前後半49.8-45.1、1:34.9)の2例。いずれも前半のペースが極端に遅く、後ろは物理的に厳しかった。全体時計も遅く、マイル戦としては凡戦に近い。東京新聞杯で逃げが決まるときはこういったパターンが多く、正直、控えた馬たちが手も足も出せず、恵まれた形でしか決まらない。

しかし、今年の東京新聞杯は1.31.8で19年インディチャンプの1.31.9を更新するレースレコードで決着。ウインカーネリアンの逃げ切りはこれまでのものとはまったく違う。前後半800m45.8-46.0で前後半のラップ差がない力勝負だった。マイルCSで枠内駐立不良のため発走調教再審査明けというハンデを乗り越え、スタートを決めてハナへ立った。マイル戦ならウインカーネリアンのダッシュ力は一枚上だった。有力勢は差し脚質であり、ペースを落として先行する作戦もあったが、ファルコニアが積極的に来たこともありあえて強気に進んだ。

前半が流れたことでナミュール、プレサージュリフト、ジャスティンカフェら差し馬勢はウインカーネリアンをとらえるチャンスは十分あった。それを振り切ったわけで価値は高い。東京マイルは気がついたら射程圏外だったという場合でないと逃げ切れない。

後半800mは11.3-11.0-11.6-12.1。どこかでペースを落として息を入れるとこのラップは作れない。4コーナーまでスピードを保ち、最後に踏ん張る。競馬のマイル戦は無酸素運動の限界といわれる陸上の400mに近い。今回のようなラップ構成で逃げ切るのは真のマイラーでないとできない。ウインカーネリアンはマイラーとしてのレベルの高さを改めて示した。蹄葉炎で1年休養しており、まだキャリア21戦。晩成のスクリーンヒーロー産駒が6歳にして本格化した一戦だった。

ナミュールとプレサージュリフトの進化

2着ナミュールはマイルで出直しの一戦であると同時に、賞金加算も目論んだ。以前はゲートで遅れる場面や体質面の弱さがあり、後方から末脚勝負の競馬が多かったが、今回はスタートを決め、5番手でウインカーネリアンが作る厳しい流れに対応、着実に成長してきた。中盤で前を深追いせず上手く息も入っており、競馬ぶりは大人になった。結果はウインカーネリアンに頭差及ばなかったが、マイル戦での経験値の差が出たとみたい。ナミュールも走りに安定感が出ており、経験を積めばマイル重賞を勝てる。ウインカーネリアンが演出した厳しい流れを5番手から2着に残れたのはその証だ。

3着プレサージュリフトはデビュー2戦目で重賞を勝った舞台で切れを見せた。イーガン騎手が前走京都金杯で先行させた効果もあったようで、ナミュールの後ろで流れに乗れた。同じハービンジャー産駒で似た成長曲線のように感じる。以前の他力本願なレース内容から脱出できたので、次は結果を求めてもいい。

4着1番人気ジャスティンカフェは上がり最速33.3を記録するも届かなかった。真冬のDコース使用の東京新聞杯は上がり最速が及ばないことが多かったが、ジャスティンカフェもそのパターン。直線に向いてスペースを探しながら追走し、若干踏み遅れてしまった。追い出してからの脚は鋭かっただけにもったいなかった。

3番人気ピンハイは8着。ナミュールやプレサージュリフトと同じような位置にいたが、思ったほど弾けなかった。追走で脚を使わされると辛そうで、オークス好走などからマイルは少し距離が短い可能性も感じた。最後の直線はインダストリアと進路を巡って接触する場面もあり、小さな馬なのでそれも痛かった。


2023年東京新聞杯のレース展開,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。

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