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【阪神JF】想像以上の急流で覚醒したリバティアイランド 桜花賞を引き寄せる衝撃の走り

2022 12/12 10:31勝木淳
2022年阪神JFのレース結果,ⒸSPAIA

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予想外のハイペース

阪神外回りマイル戦は初角まで距離があり、最後の直線も長いため、滅多にハイペースにならない。前日に行われた古馬OPリゲルSは前後半800m48.0-45.6、1.33.6。上がり600m33.9でシャイニーロックが8番人気ながら逃げ切り。阪神マイル波乱の典型のような競馬だった。阪神JFも2歳牝馬GⅠだけにスローも多く、あってもイーブンペース。ハイペースは19年レシステンシアがレースレコードで逃げ切った年ぐらい。前半600m33.7、前後半800m45.5-47.2、1.32.7だった。

今年も戦前はファンタジーSを逃げ切ったリバーラが控える公算が高く、同じ1400mりんどう賞を逃げ切ったイティネラートルの記録も遅く、最内枠サンティーテソーロのサフラン賞も前後半800m48.1-47.0、1.35.1でスピード任せの競馬ではなかった。あっても平均ペース程度。戦前の読みはそんな雰囲気だった。

しかしゲートが開くと、ダッシュ鋭くサンティーテソーロがハナに行き、イティネラートル、リバーラ、ムーンプローブらが迫り、先行集団はごった返す形。そのプレッシャーからサンティーテソーロはダッシュそのままにスピードを落とせなかった。前半600m33.7はレシステンシアと最速タイ。前半800m12.1-10.5-11.1-11.5、45.2はレシステンシアより速い記録。3ハロン目11.1は先行集団のプレシャーゆえ。後ろの瞬発力勝負を引き出させない形は悪くはないが、お互いに先を行こうとけん制し合った結果、余裕があったわけではなかった。

振り切って逃げるサンティーテソーロは残り400mまで11.8-11.1。3、4コーナーでさらにペースアップ。リバーラなど好位勢はここで脱落。それどころか中団より後ろにいる馬たちも脚が残っていない。ラスト400m12.5-12.5。この25秒で伸びるには底力がなければならなかった。


父ドゥラメンテの底力またも発揮

中団外目を追走、アルテミスSの経験から馬の気分を損ねないように自然な形で進めたリバティアイランドの末脚は強烈だった。坂下から急坂まで、リバティアイランドは周囲とは明らかに異なる脚色で突き抜ける。最後600mの記録は6着ドゥーラに劣るものの、これほど前半から脚を削りとられるハイペースを中団で構え、突き抜けた内容は形容しがたいものがある。

思えば新馬は新潟芝1600mを上がり3ハロン31.4で3馬身差圧勝。10.9-10.2-10.9を突き抜けたインパクトは大きく、瞬発力に特化した適性の持ち主かと思ったが、その認識はこのレースで覆された。

父ドゥラメンテはタイトルホルダー、スターズオンアースに続く3頭目のGⅠ馬を輩出。先輩2頭はいずれも瞬発力で勝負する軽いタイプではなく、スタミナとスピードの持続力に強い底力型。リバティアイランドも必ずやそんな馬になるだろう。

ペースが明暗を分けた人気どころ

2着12番人気シンリョクカもリバティアイランドと同じ位置から奮闘した。1戦1勝、抽選突破の伏兵は枠順を活用し、内に潜み、脚をしっかり溜めて伸びた。前走の新馬ではラスト600m11.6-11.0-11.1を上がり33.4で3馬身半差。確かな力は見せていた。母は現役時代5勝、アイドルが名付け親になり話題を呼んだレイカーラ。最後の勝利になったオープン特別ターコイズSは前後半800m46.0-47.6のハイペース。キングカメハメハ譲りの持続力が武器だった。シンリョクカも母の特性を受け継いだ。今年は若手騎手のGⅠでの活躍が目立つが、木幡初也騎手は16年阪神JFエムオービーナス18着以来2度目の挑戦で大穴提供。これを機に騎乗数を増やしてほしい。

3着は札幌2歳S2着ドゥアイズ。この馬もシンリョクカの背後、インを立ち回ってきた。残り200mでシンリョクカ、アロマデローサに進路を阻まれ、ブレーキをかけ、外に切りかえた。2着とはクビ差だけに痛かった。こちらはルーラーシップ産駒で激流によりスタミナを発揮した。中距離でこそ狙いたい。

リバティアイランドにアルテミスSで勝ったラヴェルは11着。出遅れも確かに痛かったが、アルテミスSとは対照的な流れが向かなかった。もっと溜めをきかせる競馬が合う。半姉ナミュールと同じくこれから体質が強化されれば、また結果は変わるだろう。父キタサンブラックの代表イクイノックスも体の強さ以上に走ってしまうところがあり、体質強化で大輪を咲かせた。この一戦で評価を一気に落とせない。

2番人気モリアーナは12着。コスモス賞ではドゥアイズに先着、前週の石川裕紀人騎手に続き、武藤雅騎手のGⅠ初制覇への期待もあったか、思った以上に人気になった。そのコスモス賞は1000m通過1.01.8のスローペース。負けたドゥアイズがここで好走、勝ったモリアーナが大敗。問われた適性のちがいをここにも感じる。モリアーナももう少しゆったり運べる展開なら巻き返すだろう。

2022年阪神JFのレース展開,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。



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