一団で進んだ緩めの流れ
中山ダート1800m唯一の重賞マーチSはハンデ戦でもあり、毎年難解。この舞台は基本先行優位ながら、上級条件では流れが厳しくなる場合があり、急坂をあがって逆転が起こることもある。展開を予想するのは難しく、馬券的中のカギを握る。
今年のマーチSはまさにそんなレースだった。先手は前走東海Sで逃げたアイオライト。追いかける馬が読みにくく、アイオライトがどの程度マイペースを刻めるかがポイントだった。そのアイオライトも正面スタンド前でさほど主張せず、ワイドファラオ、アナザートゥルース、ケンシンコウらと横並び。ややけん制するような形になった。
1、2コーナーを利用して結局アイオライトがハナに立ったものの、入りがそれほど早くならなかったので、後ろも離されることなく、ほぼ一団のままレースは進んだ。前半1000m通過1.00.9は早そうにみえるが、12.5-11.3-12.1-12.7-12.3と緩急があり、余裕はあった。なにしろ前日の雨で重馬場まで悪化しており、基本的に時計が1~2秒速い。これは今後の検討材料に役立てるためにも覚えておきたい。
ムラ駆けのケンシンコウ
ほぼ一団で進んだレースは一旦3コーナー付近で12.1とペースアップしたが、最後の600~400mで12.5とまたもペースダウン。どの馬も十分息を入れることができた。そうなると、ダートでも上がり勝負。4コーナーから急坂にかけて残り400~200mは12.0。ケンシンコウが外から一気に抜け出した地点だった。軽い馬場も手伝ったとはいえ、コーナーが鋭い中山ダートで12.0は速く、一団の馬群のなかで、揉まれてしまい、ダノンスプレンダーのようにこのペースアップに対応できなかった馬も多く、一方でアイオライト以下先行勢はここで一気に手応えが悪くなり、ケンシンコウが後ろを離す形になった。
完全に抜け出したケンシンコウ。序盤から中盤はさほど早くなかったので、残せる手応えはあっただろう。だが、12.0を外からまくった代償は大きく、急坂をあがった残り100m足らずで脚があがってしまい、メイショウハリオに差されてしまった。
どう考えても強い競馬をしたのはケンシンコウだが、いかんせん好走するタイミングが読みにくい。ダートの道悪巧者かと思うと、走らなかったりする。外目の枠から強引に仕掛けていける競馬が合うタイプだが、それを事前に察知するのは難しい。好走は7、11、7、5、12番人気と妙味たっぷりのムラ駆けタイプ。手ごろな相手関係であれば、買っておいて損はない。
序盤のペースがマッチしたメイショウハリオ
勝ったメイショウハリオは昨夏福島ジュライSでケンシンコウの2着。同じパイロ産駒だからなのか、好走パターンが似ている。同一レース出走時に狙うなら、セットで買いたい。こちらは後方から外目を進出。ポイントになった12.0でエンジン全開にならず、仕掛けのタイミングもハマった。
中山ダート1800mでは直線を向いてエンジン全開だと届かないことも多いが、勝負所まで一団で進んだことで、遅れ気味の仕掛けでもうまく前との差を詰められた。最後にケンシンコウを捕らえたのは地力の証明。昨年はGⅠでテーオーケインズに1.4差7着だったが、今度はもう少し詰められるのではないか。まだ5歳。ダート界ではまだまだこれから強くなる年齢だ。
3着同着はブルベアイリーデとヒストリーメイカー。4コーナーではほぼ同位置。馬群を抜けたブルベアイリーデと外を回ったヒストリーメイカー。立ち回りを考えれば、ヒストリーメイカーはよく同着に持ち込んだ。昨年2着馬、時計が出る状態の中山ダートは合う。ブルベアイリーデは重賞4、3着と力をつけ、はじめての中山で上手に立ち回った。左回り専用と見られていただけに右回りの重賞好走は収穫だった。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。
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