内が有利な馬場と直線の向かい風
デビュー16年目丸田恭介騎手と開業30年目の宗像義忠調教師がついにGⅠを手にした。高松宮記念のゴール後、中京競馬場のスタンドから送られた拍手は温かい。大波乱ながら幸せな時間だった。
昨年の春秋スプリントGⅠ・3着以内馬6頭のうち、いずれも2着だったレシステンシアしか出走しない、高松宮記念は例年以上に超がつく大混戦だった。そのレシステンシアを中心に復活メイケイエールや短距離に矛先を変えてきたグレナディアガーズ、サリオス、ロータスランドが上位人気評価を受けた。どの馬が勝っても新王者誕生。適性など比較のつきにくい一戦だ。
おまけに前日土曜日、列島は春の嵐に見舞われ、中京競馬場も3R前から降雨、午後は荒天のなかレースが行われた。その影響を受け、当日の芝は重馬場。朝、JRAから発表されるクッション値は7.0と、滅多にお目にかかれない数値を叩き出し、かなり軟らかい馬場。朝からすっきり晴れ、北西風が強く吹いたため、馬場の乾きは進み、高松宮記念は内側の状態が非常にいいという設定で行われた。
瞬き厳禁のスプリント戦では、内側を通りたくても外枠から内に潜るスキがない。5着メイケイエールは内で揉まれたくない自身にとって好都合の外枠がかえってアダになってしまった。伸びない外目を最後、唯一伸びてきただけに、こうなると運としか言いようがない。何度も書くが、スプリントGⅠを勝つ力は十分ある。
レシステンシアの敗因は
騎手が口々に「内に入れたかった」と嘆いた馬場状態。そのインから先手を奪って、きれいに自分の競馬を表現したレシステンシアは、直線に向くと早々に手応えを失った。敗因はデビュー以来最高の馬体重なのか、よくわからないが、前後半600m33.4-34.9という重馬場の中京としてはハイペースだったことが響いたかもしれない。ハイペースに強いのは1400、1600mまでで、スプリント戦のハイペースが堪えたのではないか。
2着だった昨年の高松宮記念は重で34.1-35.1、同じく2着だった秋のスプリンターズSは33.3-33.8。レシステンシアは時計の速い遅いは関係なく、ある程度バランスのとれた、前後半ほぼ同じぐらいの脚を使う競馬に強い。自ら逃げて前半に偏ったペースを刻んだことで、苦しくなったのではないか。近年はスプリント戦でも頂上決戦となれば、均衡のとれたラップになりやすい。そういった意味では重馬場、最後の直線向かい風という状況がちょっとひと昔前のスプリントGⅠ的な流れを演出したのではないか。
コンビ21回目、苦楽の先の栄光
強い向かい風、イン有利といった状況をすべて味方につけたのがナランフレグ。内枠から後方イン。勝負所もずっとイン。丸田恭介騎手の腹をくくった大胆な騎乗だった。とはいえ、ナランフレグとのコンビは21走目。この馬のことは誰よりもよく知っている。
以前はムラ駆けのイメージがあったが、昨秋からはオープン・重賞で安定。追い込みタイプとしては珍しく、ずっと鋭い末脚を使い続けた。体調が充実してきた証だろう。最後の直線はレシステンシアの真後ろに入ったが、そのレシステンシアが想定以上に伸びず、進路を失った。同馬とトゥラヴェスーラとの間にスペースはない。そこをぶち破ってきたわけだから、馬の根性をほめたい。
丸田騎手はずっとコンビを組んできたなかで、ナランフレグにあらゆることを教えてきた。暮れのタンザナイトSで内枠から馬群を割る競馬で勝利。きっとその経験があったからこそ、イン強襲を選択できたわけで、だからナランフレグもあのスペースに頭を突っ込むことができた。近年は同じ騎手がずっと乗り続けることが難しく、競馬を教えながら育てるという風景は失われつつある。競馬の原風景がナランフレグの勝利に見えた。
2着ロータスランドは惜しかった。この馬で初重賞制覇を遂げた岩田望来騎手、立て続けにGⅠまで手中に収める絶好機だった。1200m初出走という難しい状況だったが、置かれることなく、中団でうまく運んだ。マイルだとペースの調整がしにくいところがあるので、スプリント戦挑戦は吉と出た印象。最後の最後にないはずのスペースをナランフレグに破られての2着、勝ち運に見放されてしまったが、これで選択肢は広がった。
3着17番人気キルロードは驚いた。上記の通り、前後半600mのペース差が大きく、先行馬にとって非常に苦しい展開のなか、GⅠ初騎乗の菊沢一樹騎手らしい超強気な3番手からの積極策。レシステンシアやジャンダルムを自力で捕まえ、一旦先頭の場面まで作った。きっと夢を見ただろう。決して流れに恵まれたわけではない。7歳にして初めての重賞挑戦がGⅠという個性派。今後も時計を要し、ハイペースになる組み合わせなら重賞でも戦える。
4着トゥラヴェスーラは昨年に続きまたも4着。左回りの消耗戦は大歓迎。阪急杯2着など7歳でも充実している。
最後に、1~4着までの騎手がいずれもJRAGⅠ未勝利というのは珍しい記録だ。ドバイ遠征、中山マーチSなどジョッキーが分散する傾向にあったことは確かだが、若い騎手たちがGⅠで存分に暴れまくる姿は見ていて頼もしい。レシステンシアやジャンダルムが伸びを欠いた残り200mから4頭横一線、どの馬が勝つのかゴール板までわからない競り合いは熱く、GⅠにふさわしい名勝負だった。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。
《関連記事》
・【大阪杯】エフフォーリア、ジャックドールをデータで検証! 対抗するのは阪神重賞実績馬4頭!
・【ダービー卿CT】リフレイム、インテンスライト激走だ 東風S敗退組2頭も侮れない!
・【大阪杯】コースデータに完璧に符合するレイパパレ 東大HCが阪神芝2000mを徹底検証