好走例が少ない5歳
今年これまで古馬のGⅠで牝馬は牡馬相手に6勝。ダートや障害、長距離戦以外はことごとく牝馬が勝っている。牝馬の時代は現代競馬のトレンドであり、今年はじまったわけではないが、それを強く意識せざるを得ない結果が続く。
牡馬混合の芝GⅠでは天皇賞(春)以外は牝馬を1着にしないと馬券が取れないわけで、もはや性別で能力を評価する時代ではない。馬の世界は人間の世界のかなり先を行くようだ。
牝馬が牡馬相手にGⅠを勝つ時流によって牝馬限定GⅠエリザベス女王杯はかえって大混戦になった。アーモンドアイ、クロノジェネシスが出走しないために序列はつけにくく、まして今年は阪神芝2200mが舞台、宝塚記念ほどではないもののスタミナやパワー寄りの適性が問われる。
そういった舞台適性の違いを意識しつつ、過去10年間のデータを用いてエリザベス女王杯の傾向を探る。
アーモンドアイは5歳秋でも独自のローテによって活力を維持しているが、一般的に5歳秋は3、4歳馬と成長曲線が交差するタイミング。
エリザベス女王杯の傾向はそれをストレートに反映。5歳は【1-2-1-48】勝率1.9%、複勝率7.7%と振るわない。重馬場になった12年レインボーダリア1着、3年連続このレース連対のクロコスミアの2年目など好走馬は限られている印象。
一方で3歳【3-4-3-29】、4歳は【6-3-6-45】。この2世代中心と考えるべきで、6歳以上は【0-1-0-21】。それこそクロコスミアの3年目(6歳)以外は好走がない。
牝馬限定重賞のなかには前走条件戦出走馬の激走というパターンはあるが、春秋合わせて2レースのみの牝馬限定GⅠだけに各馬ここを大目標に調整するため、前走条件戦組は苦戦傾向。格は重視したい。
前走GⅠ【4-3-5-24】勝率11.1%、複勝率33.3%、前走GⅡ【6-6-4-62】勝率7.7%、複勝率20.5%。このふたつで10勝2着9回3着9回と大半を占める。ここはしっかり掘り下げたい。
好走パターンが限られる秋華賞組
まずは前走GⅠ組を具体的にレース別成績から探る。
前走GⅠ組の優勝、古馬勢は10、11年連覇したスノーフェアリーのみ。さすがにこれは例外と考えると、前走GⅠ組の好走、その大半は秋華賞、つまり3歳馬になる。
秋華賞組【2-3-2-20】でこことスノーフェアリーを除くと、残りは3着3頭のみ。内訳はオークスから直行1頭(19年ラヴズオンリーユー)、宝塚記念1頭(17年ミッキークイーン)、ヴィクトリアマイル1頭(16年ミッキークイーン)である。
今年の登録馬にこういったイレギュラーローテの馬は不在、秋華賞組を掘り下げればよさそうだ。
秋華賞経由の馬でどんな馬が好走しているのかというと、簡潔にいえば秋華賞3着以内だった馬となる。4着以下から巻き返したのは、15年3着タッチングスピーチ(秋華賞6着)のみ。同馬はローズS1着からの再浮上。登録馬からは秋華賞3着ソフトフルートとせいぜいローズS1着、秋華賞13着リアアメリアぐらいか。
後者の前走敗因は、デアリングタクトを意識した早めに動く競馬が合わなかったからでありスローペースの先行であればとは思う。だが、阪神芝2200mは早めにスパートがはじまる4ハロン型競馬(後半800mラップが平均的に早い)であり、阪神競馬場で結果が出ていない(阪神JF6着、桜花賞10着)戦績も気になる。夕月特別のラップ構成が優秀だったソフトフルートを3歳筆頭に評価する方が妥当か。
警戒すべきは前走牡馬相手に好走した馬だが
次は古馬のデータになる前走GⅡ組をさらに突っ込んでいこう。
こちらも同じようにレース別成績から具体的にみる。ステップレースの府中牝馬S【4-4-3-45】は数が多く確率は出ていないが、主要レースとして分析はしっかりしておきたい。
秋華賞のようなはっきりした傾向は着順から出ない。もちろん、1着【1-1-1-5】、2着【1-0-0-6】、3着【1-0-0-3】、4着【1-0-0-3】と上位好走馬から勝ち馬は出ているものの、5着【0-2-0-3】、6着以下【0-1-2-25】と巻き返して馬券圏内に突入する馬もいる。
サラキア、シャドウディーヴァ、サムシングジャストは当然評価するが、5着ラヴズオンリーユーの巻き返しには要注意だろう。まして、今年の府中牝馬Sは道悪競馬(終日降雨のため重馬場)。当日の馬場次第だが、ラヴズオンリーユーが上位3頭を逆転する可能性は十分ある。
最後に、気になる前走オールカマー組【2-1-0-3】のような前走牡馬混合GⅡに出走した馬。オールカマー1着センテリュオ、札幌記念1着ノームコア、同3着ラッキーライラックと上位人気勢はこのカテゴリーに該当する。いずれも5歳馬であることは引っかかるもの。
牡馬相手にGⅡに出走した馬がどんな着順だったのか。秋華賞と同パターンで、6着以下は【0-0-0-8】で消しといっていい。牡馬相手に掲示板以上の競馬をした馬をしっかり評価するという意味では先述3頭はいずれもデータ上は当てはまる。
ただし、前走牡馬相手にGⅡを勝った馬は【0-1-0-2】。これは注意したい。単純に牡馬相手の勝負で消耗したともいえるが、なかには牡馬相手に好走するものの牝馬限定戦だと着順を落とすという馬がまれにいる。これは牝馬限定戦特有の切れ味勝負より牡馬相手に持続力を削り合うような競馬が合うという適性を示す。
センテリュオあたりはそんな雰囲気を戦績から感じなくもない。しかしながら、今年は持続力が問われる阪神芝2200mが舞台。オールカマーを勝った反動さえなければ、センテリュオには適した条件だ。アーモンドアイに続き5歳馬が強さを見せつけるシーンはあるだろうか。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。