オークスから直行で三冠達成はアーモンドアイのみ
「ベガはベガでもホクトベガ」という、アナウンサーの名調子をご存知だろうか?これは1993年に二冠馬ベガが、オークスから直行で三冠目(当時は、三冠目が3歳限定のエリザベス女王杯)に挑んで3着に敗れ、伏兵のホクトベガが優勝したことで生まれたもの。
1996年に創設された第1回の秋華賞では、のちに「女傑」と呼ばれたあのエアグルーヴも、オークス優勝から直行し、10着と馬群に沈んだ。他にも第4回秋華賞では、オークス馬のウメノファイバーがこのレースに直行して4着に敗れている。それらは昔のことと感じるかもしれないが、その後は積極的にトライアルを使われるようになっただけで、決してそうではない。
過去に牝馬三冠を達成した馬は、メジロラモーヌ、スティルインラブ、アパパネ、ジェンティルドンナ、アーモンドアイと5頭いるが、オークスからの直行で三冠馬となったのは、一昨年のアーモンドアイのみ。
2006年に無敗のオークス馬カワカミプリンセスが、オークスからの直行で二冠を達成しているが、それ以上にオークス上位馬がここに直行して敗れている。「デアリングタクトは、アーモンドアイやカワカミプリンセスのように稀有な馬か?」今年の秋華賞はそこが焦点となるだろう。
能力値1位はデアリングタクト
オークスから直行のデアリングタクトが能力値1位であることを意味するものは、この夏に急成長の強烈な上がり馬が出現しなかったということ。実際にローズS、紫苑Sともに春の実績馬が優勝している。またその両トライアルの決着指数も春を凌駕するようなものではなかった。
そのうえ、阪神JFでデアリングタクトの最高値「-20」の桜花賞と同等の指数を記録し、桜花賞のレース内容も良かったレシステンシアは出走せず、それに準じる強さだったスマイルカナも不在。そういう意味でも、デアリングタクトは運があるのかもしれない。
しかし今回は相手関係が問題なのではなく、デアリングタクト自身が能力を出せるコンディションなのかが最大の焦点となる。カワカミプリンセスやアーモンドアイが秋華賞に出走し、勝利したときと、その次走のエリザベス女王杯1着降着やジャパンC1着時の指数をを比較すると、いずれも秋華賞のほうが低い指数だったことからも、休養明けは少なからずとも減点材料と言える。
そしてもう一つの焦点は、7枠13番を引いたこと。8枠に入った先行馬のウインマリリンやアブレイズが内に切り込んで行くことから、外から2頭目くらいの競馬になることが予想される。今回は何が何でも逃げたい馬が不在で、平均よりも遅いペースが予想される中、外から勝ちに行くのか、それとも控えるのかが注目される。
2枠4番だったオークスでは、五分のスタートを切って前半は好位の内目を狙ったが、1コーナーで少し狭くなって掛かり気味。それをコントロールしながら中団に下げて内目で我慢の競馬に徹した。3〜4コーナーで外に出したが、直線では前の馬が下がって進路を失い、仕掛けを待たされたことも、最後の抜群の末脚に繋がった部分も大きい。
このような瞬発力の持ち主は、勝ちに行く競馬をすると最後に伸びないことも多々ある。焦って外から位置を取りに行けば、これまでにない苦しい競馬を強いられて、最後が伸びない危険性も考えられる。また、思い切って位置取りを下げ過ぎた場合には前を捕らえきれず、2着、3着と善戦止まりで終わる危険性もある。
能力値2〜5位は?
【能力値2位 リアアメリア】
トライアルのローズSでは、これまでにない先行策から抜け出して完勝。この馬は前回のコラムでも綴ったように、エンジンの掛かりの遅いステイヤー。前に行ってしぶとさを生かすことで指数を上昇させると見ていたが、案の定、この馬の最高値を記録した。
しかし、二の脚が速くないこの馬が2番手につけていて、驚いたのも事実。坂の上りスタートの中京芝2000mで、他馬が出負けしたことが功を奏したようだ。今回は前走時と同じ1枠2番だが、内枠にミヤマザクラやマルターズディオサなどの先行馬がいるので、それらよりも後ろの位置になる可能性が高いだろう。
加えて、休養明けの前走で目一杯に走った直後の一戦となると、どうしても反動が懸念される。春から直行でローズSを優勝した馬の指数を見ると、昨年のダノンファンタジーをはじめ、本番では着順も指数も落としてしまう馬が大半。近年、このパターンで本番も勝利したのはジェンティルドンナ、ダイワスカーレット、エアメサイア、ファレノプシスなど、いずれも春のGⅠで好走していような名牝ばかり。リアアメリアがそのクラスの馬なのかが問われるだろう。
【能力値3位 ソフトフルート】
ローズSと同距離コースで行われた前走の夕月特別では、直線の最内を突いて4馬身差の快勝。この馬が前走で記録した指数は、ローズSと同等の指数「-19」。これは2勝クラスとしては破格だ。坂の上りスタートの中京芝2000m戦らしく、前半5F61秒8とローズS以上の超絶スローペースになったが、9頭立ての後方3番手から一頭だけ全く違う脚色で伸びて来た。今回で前走くらい走れれば、十分にチャンスがあるだろう。
しかし、休養明けであれだけ走った後に、さらなる上昇を求めることはなかなか難しい。将来有望で後々は牝馬GⅠクラスで活躍できる素質馬である可能性は高いが、今回はちょっと苦しいのではないかと考える。
【能力値4位 ウインマリリン】
強風吹き荒れたフローラSは、前半5F58秒6の3歳牝馬としてはかなり先行馬が厳しい流れの中、4番手追走から直線早め先頭に立ち、粘り切って優勝。その次走のオークスでも2着と好走した。キャリア5戦目のオークスの舞台で、正攻法で2着と好走したのは潜在能力が高ければこそ。今回のメンバーでも当然チャンスが大きい。
ただ、やはり休養明けの一戦となると、能力全開とまではいかないだろう。本命にはしづらいが、ここ2戦よりも楽に先行できる可能性が高い今回は、押さえてはおきたい一頭だ。
【能力値5位 ウインマイティー】
2月のエルフィンSでは、やや出負けから最内枠を利して挽回を図ったものの、前がそれなりに飛ばしていたこともあり、最後までジリジリのまま終わった。しかし、距離が延びて先行することで一転。デイジー賞と忘れな草賞を連勝、オークスでは3着となり、指数を上昇させた。
オークスでは、5番手からレースを運ぶ。3コーナーでは、外から動いたクラヴァシュドールの直後からじわっと動いて2列目まで位置を押し上げ、ラスト2F目で堂々の先頭。最後は内のウインマリリン、外のデアリングタクトに差されはしたが、しぶとく食らいついての0.2秒差は立派だった。この内容から、ウインマイティーはやや鈍足ではあるが、トップスピードを長く持続できる持久力型の馬ということがわかる。
そういうタイプなだけに前走の紫苑Sでは、8枠17番から出遅れて終始外々から追い上げる競馬になったのは痛恨だったはずだ。4コーナーで前にいた馬が大外を回した影響で、この馬も外に張られた中、バテた馬を交わしての6着。結果的に能力を出し切ることができなかったので疲れも残らず、今回は順当に体調面が上向いてくる可能性が高い。
また前走で出遅れた経験から、今回はしっかりと先行策を取ってくる可能性が高い。3枠5番と内目の枠にも恵まれたうえ、先行型が少なく、展開の後押しもありそうなので今回の本命候補である。
【能力値5位 マルターズディオサ】
休養明けの前走、紫苑Sではスローペースの好位で流れに乗り、見事に優勝した。オークスでは待機策で結果が出なかったように、やはりこの馬も先行してこそ持ち味が生きるタイプだ。それだけに、この馬も2枠3番と内枠は恵まれたと言える。
ただ、休養明けでチューリップ賞を優勝した後の桜花賞で8着と凡走したように、今回もまた休養明け好走の反動も懸念される。桜花賞は超絶ハイペースで、先行馬にとても厳しい流れだっただけに、先行したこの馬は負けて当たり前とも言えるが、休養明けで紫苑Sを制した2016年のビッシュも秋華賞ではドボンしている。
紫苑Sのグレードレース昇格したことで、近年は同レース上位馬の秋華賞好走馬が目立つようになっているが、それらは夏場も順調に使われ、体調面の乱高下が少なかった馬が多い。成長は認めるが、本命にはしづらい。展開面を考慮しても押さえまでだろう。
今回の穴馬は?
【サンクテュエール】
デビュー3戦目のシンザン記念では、好位から伸びて快勝した。シンザン記念で大きく引き離した4着馬が、後のローズS3着馬オーマイダーリンだったことからも、その強さが窺い知れる。桜花賞、オークスでは行きっぷりが悪く、この馬本来の能力を出し切れていないが、体調が戻れば一変の可能性がある。
【オーマイダーリン】
前走のローズSは、出遅れて最内から中団の内まで押し上げるロスがあった。3〜4コーナーでは3列目の内まで押し上げ、4コーナーでは2列目の内のスペースを拾って直線へ。リアアメリアが独走するところを早めに2番手に上がり、最後はムジカに差されたが、そのレース内容で3着なら悪くない。ここにきての勢いは軽視できない存在。
【フィオリキアリ】
春の時点ではアネモネS2着、桜花賞7着とトップクラスには届かない存在だったが、この夏に大きく成長した。前々走の西海賞では、正攻法の競馬で古馬2勝クラスを撃破。前走のローズSでは休養明けで好走した疲れもあったのか、本体の能力を出し切れなかったが、過去の歴史から古馬2勝クラスを勝てるような馬ならば、十分にチャンスはあるのが秋華賞。1998年のナリタルナパークのような激走があるかもしれない。
※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)デアリングタクトの前走指数「-18」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも1.8秒速い
●指数欄の背景色の緑は芝、茶色はダート
●能力値= (前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補
ライタープロフィール
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる女性予想家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。