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【大阪杯】駆け引き巡る大阪杯 中山最終レースと比べて分かる競馬の醍醐味とは? 

2020 4/6 11:56勝木淳
大阪杯位置取りインフォグラフィック
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ⒸSPAIA

レースを支配した横山典弘騎手とダノンキングリー

1000m通過  1分0秒4  1分1秒0

前者がGⅠ大阪杯(芝2000m)、後者はその直後に中山で行われた最終レース(2勝クラス、ダ1800)の1000m通過タイムである。かたや3連単7,810円、一方は6,137,610円。競馬がギャンブルであることを物語る数字だが、それは配当金額だけではない。これら数字が表すものこそ、競馬の奥深さがわかる数字である。

GⅠ大阪杯は1番人気ダノンキングリーが馬なりで先手を奪った。スタート直後にダノンキングリーが来るのを待っていたミルコ・デムーロ騎手はその直後という奪いたいポジションをとってみせた。ここにポイントがひとつ。ブラストワンピースはスタート直後でスムーズさを欠き、位置が下がった。

雄大なフットワークゆえに包まれて走りのバランスを崩すのを嫌ったのか、ブラストワンピース騎乗の川田将雅騎手は初角から外を選択した。この対照的な挙動が結果を左右した。しかし川田騎手は先行させるプランが消えた以上、スムーズな競馬を選択するのは自然なこと。騎手はレース中になにを優先させるかという選択を瞬時にせねばならない。他馬とオープンコースで競う競技である以上は常にベストな選択肢が取れるとは限らない。人間社会と同じで、わがままは通用しない。

1番人気で先手を奪ったダノンキングリーの横山典弘騎手は自身のらしさ全開の大胆な手だった。外から競りかけてきたジナンボーに譲らないあたりがいい意味で憎らしい。

1角で流れは横山典弘騎手に支配された。インサイドワーク巧みなベテランが作る流れは我慢できないほどのスローではない遅いペース。1000m通過1分0秒4は絶妙すぎるラップだった。

12.9 - 11.7 - 12.3 - 11.9 - 11.6 - 12.1 - 11.7 - 11.3 - 11.2 - 11.7

ジナンボーに3角で外から来られてペースアップした(ジナンボーとて早めに動かねば勝てないゆえの仕掛けだった)部分がわずかだが動きだしが早くなり、最後に1、2着に捕らえられた。ベストは1800mの馬なだけに4角で外から有力勢が押し上げて来るまで待ちたかったところだろう。

ダノンキングリーの背後を奪ったラッキーライラック

勝ったラッキーライラックはスタート直後からダノンキングリーの背後でじっとしていた。ダノンキングリーは最後まで必ず伸びるという確信があったと推察する。早々にバテる馬でないなら、背後にいれば必ず進路は生まれる。外からブラストワンピースら有力勢が仕掛けてきたところで一旦待てたのもダノンキングリーの後ろなら必ず進路ができる、それまで脚を十分に溜められる、そんなデムーロ騎手の戦略だった。

ただ、ダノンキングリーとジナンボーの間に進路を作れるかどうかは賭けだった。ブラスワンピースやワグネリアンら外から来る組にもっと脚があれば内側は押圧されジナンボーとの間の進路もなくなっていた。多少狭くなってもこじ開ける意志はデムーロ騎手にもあっただろうが、エリザベス女王杯でスミヨン騎手がラッキーライラックに教えたことが馬を逞しくさせた。躊躇なく間を割ってきた場面に父オルフェーヴル譲りの跳ねのけるような根性がみえた。

GⅠだからこそ一発ギャンブルに出る、1、3着の好走要因の一端だろう。今年の大阪杯は横山典弘騎手にレース全体を支配され、その支配を巧みに利用したミルコ・デムーロ騎手に凱歌があがったといえる。

2着クロノジェネシスはラッキーライラックと同じ位置にいたが、内外の関係でいえば外にいたことが敗因だろう。馬群に潜って勝負所でひと息仕掛けを待ったラッキーライラックとは対照的に外から来る牡馬勢に対応すべく先に仕掛けたのがクロノジェネシスだった。

では外を回さなければよかったとも思えるが、そこは考えたい。クロノジェネシスはパドックでは大きく見せるタイプも馬体重450キロ台の牝馬らしい体躯。520キロの牡馬顔負けの逞しいラッキーライラックとは違う。牡馬相手に同じように内で揉まれることがベストとはいえない。外からなんの不利もなく力を出し切り、牡馬を完封。胸を張っていい。

似ているようでかけ離れている二つの数字

3連単600万オーバーの中山最終レースは大阪杯とはクラスもあらゆる条件がまったく異なる競馬。片や絶妙なペースで、こちらは初角4頭雁行の無茶苦茶な超ハイペース。先週火曜にスライドされたマーチSより1秒速い流れ、最後の坂で先行勢がすべて止まり、前半行けなかった人気薄3頭が殺到した。配当もびっくりだが、競馬とは予測不能な生き物のようなものであることを物語る。

どちらも同じ国の競馬。日本の競馬は懐が深く面白い。さあ来週も大いに参加しようじゃないか。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて「築地と競馬と」でグランプリ受賞。中山競馬場のパドックに出没。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌「優駿」にて記事を執筆。

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