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男子ゴルフのトップ選手がオリンピックを辞退する理由

2020 3/17 11:00田村崇仁
ダスティン・ジョンソンⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

ダスティン・ジョンソンが東京五輪見送りで連鎖反応も

新型コロナウイルス感染拡大の猛威が「パンデミック」(世界的大流行)となる中、東京オリンピックの開催が危ぶまれている。延期や中止論も日に日に高まっているが、男子ゴルフでは世界ランキング5位につけるトップ選手、ダスティン・ジョンソン(米国)が早々と東京五輪の参加を見送ると、複数の米メディアが報じた。

35歳のD・ジョンソンはメジャー1勝を含む米ツアー通算20勝で元世界ランク1位。4年前のリオデジャネイロ五輪では蚊を媒介するジカ熱への懸念などを理由に辞退している。今回は新型コロナへの懸念を直接的な理由としていないが、マネジャーは米ツアーでのシーズン総合優勝を争う8月中旬以降のプレーオフ(PO)を優先する考えを明らかにした。

米男子ゴルフツアーは3月12日、開催中だったプレーヤーズ選手権を中止。4月9日から予定されていたメジャー初戦のマスターズ・トーナメントの延期も決まった。日程面で不透明な部分も多い中、五輪参加辞退の連鎖反応が起きる懸念もますます高まっている。

112年ぶり復活のリオ五輪はトップ4が辞退

112年ぶりにゴルフが復帰したリオ五輪はジカ熱への懸念から「健康リスク」を理由に、世界1位のジェーソン・デー(オーストラリア)や2位のD・ジョンソン、3位のジョーダン・スピース(米国)、4位のロリー・マキロイ(英国)ら男子の辞退が相次ぎ、トップ4人が出場しない異例の事態となった。

日本の松山英樹、アダム・スコット(オーストラリア)、北アイルランド出身のロリー・マキロイらもツアーでの戦いを優先。国際ゴルフ連盟(IGF)ドーソン会長は当時「個人的にはジカ熱に選手が過剰反応していると思う」と頭を抱えたが、ゴルフは他競技に比べてメジャー大会の価値が高く、五輪に関心を持つトップ選手の意識に個人差も大きい。根本的な背景に問題もあるのだろう。

4大メジャー最優先、五輪は団体戦要望も

五輪とゴルフの歴史は1900年の第2回パリ大会と1904年の第3回セントルイス大会までさかのぼる。その後は競技から外れ、112年ぶりにリオ大会で復活したが、ゴルフと五輪が結びつくイメージがまだ薄いこともマイナス要因としてある。

ゴルフはやはり歴史と伝統を誇る4大メジャー、マスターズ、全米プロ選手権、全米オープン選手権、全英オープン選手権が何と言っても世界最高峰の位置付け。世界3位のブルックス・ケプカ(米国)は地元メディアに五輪とゴルフ界最高の栄誉とされるメジャーの比較を問われ「四つのメジャーの方が間違いなく自分には重要」として五輪不参加の可能性も示唆した。

マスターズの優勝賞金は200万ドル(約2億円)を超え、選手の幼少期からの憧れでもある。一方で五輪は現在のトップ選手にとって幼少期に存在せず、そこを目指す必然性もない環境下で育っており、賞金もない。

それでもリオ五輪では2013年全米オープン覇者のジャスティン・ローズ(英国)が、全英オープン優勝のヘンリク・ステンソン(スウェーデン)と最終日の17番まで同スコアの熾烈な戦いを制し、盛況の中で歴史的な歓喜の瞬間を迎えた。

ゴルフでは欧州対米国のライダーカップや世界選抜と米国選抜によるプレジデンツ・カップといった伝統の対抗戦があり、異様な盛り上がりを見せる。トップ選手からは通常のツアーと変わらない個人戦で72ホールのストロークプレーという五輪の競技方式の変更を望む意見もあり、ライダーカップのように国を代表して戦うイメージの団体戦を要望する声も一部では出ている。

ウッズは意欲的、東京大会が五輪存続の転換期に

五輪のゴルフは世界15位以内の選手は各国・地域4人までが五輪に出られる。出場は男女各60人。米国勢はケプカを筆頭に9人が15位以内にひしめいており、五輪に意欲的なタイガー・ウッズは11位で同国7番手となっている。

世界1位のロリー・マキロイもアイルランド代表として今回の東京五輪には基本前向きだ。英BBCに「今は新型コロナの対応を待っている状況」と心境を語っている。

日本の女子選手たちも「黄金世代」の畑岡奈紗や渋野日向子、鈴木愛らが東京五輪出場を目指し、火花を散らしている。

東京五輪は将来的な五輪でのゴルフ存続を左右する転換期になる可能性もある。テニスは1988年ソウル五輪からプロの参加を容認して復活し、やはり定着するまで時間もかかったといわれる。日本だけでなく、世界的に新型コロナウイルス感染拡大が懸念されている今、D・ジョンソンが示した「過密日程」を理由にした出場辞退の連鎖反応がどんな形で起こるのか、今後の動向から目が離せない。