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ドイツの英雄ミハエル・シューマッハを振り返る

2019 7/28 11:00河村大志
シューマッハⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

歴代最多優勝記録を持つ赤き皇帝

F1ドイツGPが今週末に行われるが、F1でドイツといえばやはりミハエル・シューマッハを思い浮かべる方が多いだろう。歴代最多の91勝、7度の世界王者獲得と、数字上、最もF1で成功したドライバーだ。

デビューは91年のベルギーGPでジョーダンチームから参戦。戦闘力が劣るマシンで、チームのシーズン最高順位タイの予選7番手を獲得し、いきなり大器の片鱗をみせた。翌年のベルギーGPで初優勝を果たし、シューマッハは徐々に力をつけていった。

ナイジェル・マンセル、アラン・プロストが引退し、94年はアイルトン・セナとチャンピオン争いを繰り広げることになるが、第3戦イモラでセナが事故により他界。目指す目標、倒すべき相手を急に失ったシューマッハだが、それと同時にいきなりF1を背負って立つ立場となった。しかし、シューマッハは圧倒的な強さでF1を引っ張っていった。94年、95年と連続でチャンピオンを獲得し、翌96年にフェラーリに移籍した。

この時のフェラーリは低迷しており、シューマッハでも、活躍することができなかった。まずは勝つ環境を整えるためにチーム作り、マシン作りに専念。天才的なドライビングテクニックで限界までマシンを操り、トライアンドエラーを繰り返していった。チームに欠けている部分を洗い出していく作業を続けていき、シューマッハは5年をかけてフェラーリを常勝軍団へと生まれ変わらせた。

純粋な速さを比べることはできないが、シューマッハはチームをつくる才能に長けていたように思える。それはセナやプロストをもってしても敵わない才能なのかもしれない。自分の才能を発揮できる最強のチームをつくり、勝利を積み重ねていく。それは次第に自分たちがF1のトレンドになり、F1界の頂点に君臨するまでになった。

圧倒的な速さを持つシューマッハだが、それだけではこれほどの成績を残すことができなかっただろう。「ミハエルの為に頑張ろう」とチーム全員が思える環境を才能と努力でつくりあげたこと、これがシューマッハにとって、最高の成績を残せた理由だろう。

表舞台から姿を消すきっかけになったスキー事故

その後2006年に引退し、2010年に復帰、2012年に2度目の引退をしたミハエルだが、2013年の12月に休暇中に訪れていたスキー場でスキーを楽しんでいた際、転倒して岩に頭を強打、重大なけがを負ってしまった。

ニュースでは脳死とも報道されるほどの大事故だったが、2014年にミハエルの意識が回復したと家族から正式にアナウンスされた。大きな事故だった為、体は麻痺し車椅子での生活、言語障害も残っていると報道されているが、いまだにその全容は明らかになっていない。

一方でシューマッハの友人が事故後のベットで横たわるシューマッハの写真を持ち出し、欧州メディアに約100万ドルで売ったという事件も起きた。そんな事件もあり、シューマッハの自宅には手厚い警備が敷かれているという。

現在は自宅での療養を続けているシューマッハだが、コリーナ夫人によれば少しずつだが、容体はよくなっているとコメントしている。若い頃からF1の世界を駆け抜けてきたシューマッハ、今はゆっくりと休ませてあげてほしいと思う。そしていつかF1界のスーパースターが再び元気な姿で我々の前に現れることを願っている。

最強のDNAがF1を目指す

6歳年下の弟、ラルフ・シューマッハもF1で活躍し、シューマッハ兄弟はF1のアイコンでもあった。そして現在、F1を目指す、もう一人のシューマッハがF1直下のF2選手権で戦っている。

そう、ミハエルの息子、ミック・シューマッハだ。F1において最も成功したドライバーの息子であるミックは父親と比べられるプレッシャーや過度な期待にも負けず、結果を残してきた。

F3では初年度こそ結果を残せなかったが、2年目の2018年は第5戦レース3で初優勝を果たした。そこから怒涛の勢いで勝ちまくり、見事チャンピオンに輝いた。飛び級でF1にも行けたが、着実なステップアップを選び、今年はF2のプレマから参戦している。これまでと全く違うマシンでのレースにミックはまだ表彰台に上がれていない。しかし、F3時代のようにマシンを理解してからの速さ、強さは父親をほうふつとさせるものがある。

今年は父親が所属したフェラーリの育成プログラムにも選ばれ、将来への期待がさらに高まっている。今年のドイツGPではミハエルが乗っていたマシン、フェラーリF2004をミックが乗るイベントが行われる予定だ。この先再びシューマッハの名前がF1を席巻するのかにも注目したい。最強のDNAは受け継がれている。