好調のはずのフェラーリはなぜ勝てないのか
開幕前のテストから他を圧倒し、今シーズンはフェラーリが選手権をリードするというのが大方の予想だった。しかし、ふたを開けてみるとメルセデスが開幕4連勝、しかも全てワンツーフィニッシュという完璧なスタートを切ったのだ。フェラーリのマシンのポテンシャルは決して悪くない、むしろ良い方だ。しかし勝てないのはなぜなのだろうか。
フェラーリは1950年から参戦する唯一のチームで、F1界の絶対的な存在であるが、ビッグチームが故に問題も多く抱えている。その多くが「お家事情」だ。フェラーリチームの特徴は保守的であることと、No.1ドライバーとNo.2ドライバーをはっきり決めることである。
F1は日進月歩、常に進化し続ける世界である。だが、フェラーリは過去の栄光から抜け出せず、今までうまくいっていたやり方を続け、停滞してしまう傾向がある。それはマシンのコンセプトやレース運びについても同様だ。
そして、フェラーリには徹底したチームオーダーが存在する。エースドライバーを勝たせるために、セカンドドライバーはエースドライバーのアシストに回らなければならないのだ。
ミハエル・シューマッハがフェラーリで5度のチャンピオンに輝いた時も同じ状況だった。チームメイトだったルーベンス・バリチェロは優勝目前でシューマッハに優勝を譲らなければいけないことが何度もあった。F1で優勝することはドライバーにとって最高の名誉である。しかし人生で最高の瞬間をチームメイトに明け渡さなければならない、チームオーダーに従うことを徹底しているのがフェラーリというチームだ。バリチェロの場合、契約書にセカンドドライバーとしての仕事について記載されていたため、従うしかなかったのだ。
ただし、チームオーダーは悪いことではない。チャンピオンを争うにはチームがまとまる必要があり、無駄な争いを避け、エースドライバーに確実にポイント、優勝を与えるのにこれ以上の作戦はないからだ。
シューマッハ時代はバリチェロというセカンドドライバーがいたからこそ、スムーズに作戦を進めることができた。しかし、今年の場合は違う。4度の世界王者、セバスチャン・ベッテルのチームメイトに選ばれたのは、若く才能に溢れたシャルル・ルクレールである。ベッテルと互角か、それ以上のポテンシャルを持つルクレールに過度なチームオーダーを発令することはむしろマイナスに作用してしまうことが多い。
フェラーリがエースドライバーを勝たせるというルールを使い、円滑に優勝をもぎ取っていくためには、「才能溢れる若いドライバー」ではなく、「都合のいいNo.2ドライバー」を獲得しなければならなかった。これまでの戦い方に固執するのであれば、ルクレールを獲得するべきではなかったのだ。ベッテルとルクレールという布陣であれば、シーズン後半まで自由に戦わせ、シーズン最終盤でチャンピオンに近いドライバーを優先させるというやり方がベストだろう。
現在のフェラーリは、実力差のないドライバー2人を抱えたにも関わらず、チームオーダーに固執し、作戦面の自由度が少なくなっている。さらに過度なチームオーダーにより、ドライバー同士に遺恨が残ってしまう可能性も十分に考えられる。他チームとの争いに集中できない状態に陥っているフェラーリ、抱える問題はマシンの性能だけではないのだ。