「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

【F1】前評判の高かったフェラーリがなぜ勝てない? メルセデスとの明暗を分けた開幕4戦

2019 5/5 15:00河村大志
フェラーリ陣営Ⓒmotorsports Photographer/Shutterstock.com
このエントリーをはてなブックマークに追加

好調のはずのフェラーリはなぜ勝てないのか

開幕前のテストから他を圧倒し、今シーズンはフェラーリが選手権をリードするというのが大方の予想だった。しかし、ふたを開けてみるとメルセデスが開幕4連勝、しかも全てワンツーフィニッシュという完璧なスタートを切ったのだ。フェラーリのマシンのポテンシャルは決して悪くない、むしろ良い方だ。しかし勝てないのはなぜなのだろうか。

フェラーリは1950年から参戦する唯一のチームで、F1界の絶対的な存在であるが、ビッグチームが故に問題も多く抱えている。その多くが「お家事情」だ。フェラーリチームの特徴は保守的であることと、No.1ドライバーとNo.2ドライバーをはっきり決めることである。

F1は日進月歩、常に進化し続ける世界である。だが、フェラーリは過去の栄光から抜け出せず、今までうまくいっていたやり方を続け、停滞してしまう傾向がある。それはマシンのコンセプトやレース運びについても同様だ。

そして、フェラーリには徹底したチームオーダーが存在する。エースドライバーを勝たせるために、セカンドドライバーはエースドライバーのアシストに回らなければならないのだ。

ミハエル・シューマッハがフェラーリで5度のチャンピオンに輝いた時も同じ状況だった。チームメイトだったルーベンス・バリチェロは優勝目前でシューマッハに優勝を譲らなければいけないことが何度もあった。F1で優勝することはドライバーにとって最高の名誉である。しかし人生で最高の瞬間をチームメイトに明け渡さなければならない、チームオーダーに従うことを徹底しているのがフェラーリというチームだ。バリチェロの場合、契約書にセカンドドライバーとしての仕事について記載されていたため、従うしかなかったのだ。

ただし、チームオーダーは悪いことではない。チャンピオンを争うにはチームがまとまる必要があり、無駄な争いを避け、エースドライバーに確実にポイント、優勝を与えるのにこれ以上の作戦はないからだ。

シューマッハ時代はバリチェロというセカンドドライバーがいたからこそ、スムーズに作戦を進めることができた。しかし、今年の場合は違う。4度の世界王者、セバスチャン・ベッテルのチームメイトに選ばれたのは、若く才能に溢れたシャルル・ルクレールである。ベッテルと互角か、それ以上のポテンシャルを持つルクレールに過度なチームオーダーを発令することはむしろマイナスに作用してしまうことが多い。

フェラーリがエースドライバーを勝たせるというルールを使い、円滑に優勝をもぎ取っていくためには、「才能溢れる若いドライバー」ではなく、「都合のいいNo.2ドライバー」を獲得しなければならなかった。これまでの戦い方に固執するのであれば、ルクレールを獲得するべきではなかったのだ。ベッテルとルクレールという布陣であれば、シーズン後半まで自由に戦わせ、シーズン最終盤でチャンピオンに近いドライバーを優先させるというやり方がベストだろう。

現在のフェラーリは、実力差のないドライバー2人を抱えたにも関わらず、チームオーダーに固執し、作戦面の自由度が少なくなっている。さらに過度なチームオーダーにより、ドライバー同士に遺恨が残ってしまう可能性も十分に考えられる。他チームとの争いに集中できない状態に陥っているフェラーリ、抱える問題はマシンの性能だけではないのだ。

第3戦、中国GPで見えた総合力の差

上記ではフェラーリの敗因の大きな要因であるチームオーダーを巡るチーム内事情について触れたが、第3戦の中国GPでもそれについて見ることができた。

フェラーリは予選でメルセデスに敗れ、決勝ではルクレールが先行。しかし、ここでもチームオーダーが発令され、ルクレールはベッテルを先に行かせることに。ところがそのベッテルもタイムが上がらず、後ろに下がったルクレールはベッテルにふさがれタイヤを消耗し、タイムも失ってしまった。

ベッテルを先行させたルクレールは、ピットインのタイミングが必然的に後ろにずれていく。ペースが上がらないルクレールは最終的に早めにピットインを行なっていたマックス・フェルスタッペンに先行を許すことになってしまったのだ。

2回目のピットストップもフェルスタッペンが早めに動いたことにより、各チームがこれに反応。ベッテルはフェルスタッペンにアンダーカットされないように早めにピットに入り、そのベッテルにアンダーカットされないようにボッタスも反応する。しかしボッタスが早めに入るとハミルトンの前に出てしまう恐れがあったため、あのダブルストップとなった。

ハミルトンとボッタスとの差が5秒だったため、1台につき2秒あまりで作業をこなせばダブルピットストップは可能だが、1つでもミスをすると大幅にタイムをロスしてしまう。しかし、メルセデスは完璧なピット作業でダブルピットストップを決めた。

このレースで難しかったところは路面温度が上がらず、ハードタイヤが機能しなかったこと。事前にミディアムタイヤとハードタイヤの1周のタイム差が0.7秒程度と考えられていたが、予想以上にタイム差があり、本来長く引っ張りたいハードタイヤのスティントを短くする事態が起きたのだ。

ハードタイヤで長く引っ張り、1ストップで走り切る戦略がセオリーとされていたが、ハードタイヤが機能しないことにいち早く気づき、作戦を変更させたのがレッドブルとフェルスタッペンだった。メルセデスもフレキシブルに作戦を変更し、ダブルピットストップを完璧にこなし、後続に隙を与えなかった。

このようにメルセデス、レッドブルは柔軟にレース全体を読み、的確な判断を下せている。しかしフェラーリは自らチャンスをふいにしてしまったのだ。今年からチーム代表を務めるマッティア・ビノットは去年までチームの技術部門のトップだった。

今年はビノットが技術部門とチーム代表を兼務しており、1つのことに集中できない体制ということも原因かもしれないが、一番の問題は2人の速いドライバーを抱えているということである。このままの状態でシーズンが進んでいけば、ドライバー同士の確執など手に負えない状態になってしまうかもしれない。