ロシア勢を抑えユース五輪金メダル
滞空時間が長く、流れるような3回転ジャンプとスピード感あふれるスケーティング。そして15歳のあどけない表情に情感をたっぷり込め、完成度の高いスピンとステップで演じる表現力。フィギュアスケート女子で冬季ユース五輪(ローザンヌ・スイス)の金メダルに輝き、彗星のごとく登場した韓国のニューヒロイン、劉永(ユ・ヨン)は自身も憧れる母国の国民的スター、金姸児(キム・ヨナ)との共通点が多い。
今季は4回転ジャンプなどを武器に「ロシア三人娘」と称されるアンナ・シェルバコワ、アレクサンドラ・トルソワ、アリョーナ・コストルナヤが表彰台を独占し、世代交代が進むフィギュア新時代。「金姸児二世」と呼ばれる劉永は原則15~18歳が対象のユース五輪でも演技の完成度でロシア勢の3連覇を阻止し、2022年北京冬季五輪の金メダルへ母国の期待を一身に背負う存在に急成長した。
金姸児の演技に憧れて競技を開始
映画「007」シリーズのメドレーに乗り、冒頭で3回転ルッツ―3回転トーループの連続ジャンプを決めると、最後は両手でピストル形を作って観客の心を射抜くように撃つ。2010年バンクーバー冬季五輪のショートプログラム(SP)。鋭い視線を投げ掛け、ボンドガールをあでやかに演じた金姸児の演技は今も伝説となっている。
フリーでも3回転をはじめ流れるようなジャンプを次々に決め、驚異的な合計228.56点で自身の当時世界最高を更新。2位の浅田真央に23.06点の差をつけて韓国史上初の金メダルを獲得した。
その演技に子どもながらに心を奪われ、フィギュアを始めたのが劉永だ。冬季ユース五輪では冒頭で武器のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を決めると、その後も高難度のステップやスピン、金姸児を彷彿とさせる情感を込めた大人びた演技力で滑りきった。ジャンプだけでなく、エッジワークから指先の表現まで全ての要素の完成度を高めているのが2人の似た点でもあるだろう。
平昌五輪は最初と最後の聖火ランナー
2018年2月の平昌冬季五輪で「大会の顔」として広報大使を務めた金姸児は「国民の妹」と呼ばれているだけあり、開会式のハイライトになる大役である聖火リレーの最終走者を務めた。当時13歳だったホープ劉永は年齢制限で平昌五輪には出場できなかったが、こちらも名誉ある最初の聖火ランナーに抜てきされ、母国の期待の大きさをうかがわせた。
金姸児は2003年韓国選手権で当時史上最年少の12歳で初優勝し「神童」と呼ばれ、4連覇の偉業を達成。この記録を破ったのも劉永だ。2016年にわずか11歳で最年少優勝を果たし「天才少女」の名をほしいままにした経験もある。
外国人コーチの指導で才能開花
五輪のフィギュアで韓国初のメダリストになった女王、金姸児はカナダのトロントを練習拠点として名伯楽ブライアン・オーサー氏に師事。五輪アイスダンス銅メダリストのトレーシー・ウィルソンさんがエッジワーク、振付師のデービッド・ウィルソン氏が表現面を担当し、「三本の矢」によるチームで指導されたことで才能が開花した。
一方、劉永も紀平梨花(関大KFSC)や宮原知子(関大)を教える日本の浜田美栄コーチの指導を受け、日本のライバルと切磋琢磨しながら4回転ジャンプの挑戦も視野に入れて技術を磨く日々だ。
今季はシニアのグランプリ(GP)シリーズ第2戦、スケートカナダでもアレクサンドラ・トルソワ(ロシア)、紀平に次いで3位と表彰台に立った。今季に入り、滑りの質やジャンプの安定感で顕著な進歩を遂げている。
北京五輪で金姸児に続く金メダルなるか
父の仕事の関係でシンガポール育ちとあって流ちょうな英語を話し、競技を離れれば人気歌手アリアナ・グランデの大ファンという明るい女の子。「金姸児の後継者」と呼ばれる重圧は当然あるだろうが、2年後の北京五輪で「ぜひとも金メダルを取りたい。ファンの応援がエネルギーを与えてくれる」と五輪チャンネルに宣言した。
2014年ソチ冬季五輪で銀メダルを獲得した金姸児の引退から約6年。「ロシア旋風」が吹くフィギュア女子界に日本、米国、そして韓国勢が新たに参戦し、激しい覇権争いの勢力図はますます目が離せない展開が続きそうだ。
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