最後の全日本選手権12位
世界一と呼ばれる華麗なステップは、ジャンプでミスが出た「ラストダンス」でも健在だった。
フィギュアスケート男子の一時代を切り開き、2020年からアイスダンスに転向する33歳の高橋大輔(関大KFSC)は12月22日、東京都渋谷区の国立代々木競技場で行われた全日本選手権でシングル最後の演技を終え、合計204.31点の12位で14度目の舞台を締めくくった。
2010年バンクーバー冬季五輪で日本男子初の表彰台となる銅メダル、世界選手権制覇と日本男子初の偉業を次々と成し遂げた第一人者。右膝痛を抱える中、14年前に初の日本一に輝いた思い出の会場で、自己ワーストの14位と出遅れたショートプログラム(SP)に続いてフリーでもジャンプが乱れて10位の138.36点にとどまったが、演技後は総立ちのファンから温かい拍手と「大ちゃん」コールが降り注いだ。約20年間指導を受けた長光歌子コーチに花束を手渡し、笑顔と涙が入り交じった感動的な幕切れとなった。
表現力示す演技構成点3位
万全の状態でなくても、少年時代のようにフィギュアを楽しんでいる表情だった。観客の視線をくぎ付けにする緩急自在の滑りは、最後まで唯一無二の存在感。SPは最初で最後のアップテンポな新曲「ザ・フェニックス(不死鳥)」で革新的な演技に挑んだ。フリーは2季連続の「ペール・グリーン・ゴースツ」。トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)でバランスを崩し、3回転フリップで転倒した。
それでも「体が曲を奏でている」とも言われるように情感をたっぷり込め、最高難度のレベル4を出す渾身のステップを刻んだ。表現力を示す演技構成点では8点台中盤を並べて85.28点と好スコアをマークし、羽生結弦(ANA)、宇野昌磨(トヨタ自動車)に次いで3位だった。
日本のエースとして臨んだ2014年ソチ冬季五輪は6位に終わり、不完全燃焼のままで同年に一度は引退。しかし4年ぶりに現役復帰した昨季は全日本で2位とベテランの存在感を示した。今季は左足首負傷や右膝痛などに苦しんで調整が大幅に遅れ、日本一を争う今大会の舞台がぶっつけ本番の初戦でもあった。
男子時代の先駆者
2006年トリノ冬季五輪金メダルの荒川静香や2010年バンクーバー五輪銀メダルの浅田真央らの活躍で空前の女子フィギュアブームが起きた時代から、男子のフィギュア界を支えてきた先駆者でもある。日本一は過去5度。そして高橋の背中を追うように、五輪2連覇中のエース羽生や2018年平昌冬季五輪銀メダルの宇野ら後輩が育ち、今大会3位と躍進した全日本ジュニア王者の鍵山優真(神奈川・星槎国際高横浜)ら若手も続々と台頭してきた。高橋の存在が日本フィギュア界の男子レベルを引き上げてきたのは間違いない。
不死鳥のごとくアイスダンス転向で北京五輪へ
2020年からは「氷上の社交ダンス」と呼ばれ、未経験種目だったアイスダンスに転向し、2018年平昌五輪代表の村元哉中(木下グループ)と新たな道を突き進んでいく。音楽に合わせたターンやステップ、リフトで表現力や同調性などを競うため、高橋の技術を生かせる可能性は高い。同じく男女が組むペア種目と違って、豪快なジャンプなどの要素もない。
全日本のシングルから一夜明け、エキシビションでは今季のSP「ザ・フェニックス(不死鳥)」を再演した。まさに不死鳥のごとく、アップテンポの曲に乗って3回転フリップを決めるなど、ジャンプもエンジン全開だった。3年後の北京冬季五輪へ、再びフィギュア界の新たな歴史を紡ぎだせるか-。夢の続きの「ラストダンス」はまだ終わっていない。
フィギュアスケート関連記事一覧