ソチオリンピックで最高の演技 「パリの散歩道」
2012-2013年、2013-2014年と2シーズンに渡ってショートプログラムで使用したのが、「パリの散歩道」だ。北アイルランドのギタリスト、ゲイリー・ムーア氏が1978年に発表したアルバム「バック・オン・ザ・ストリーツ」に収録されており、後に彼を代表する曲にもなった。
ムーア氏は当時、ロックバンド『シン・リジィ』のギタリスト。「パリの散歩道」は、同バンドのフィル・ライノット氏と共同で作られた。その歌詞は、ライノット氏の幼少時に生き別れた父親を思うメッセージでもある。曲全体が哀愁に包まれ、羽生はこの曲を切なく、それでいてロック的な荒々しさを取り込みながら演じていた。振付はジェフリー・バトル氏が担当。
2014年ソチオリンピックでも、ショートでこの曲を使用。冒頭の4回転トゥーループ、そして3回転ルッツ+3回転トゥーループという高難易度のジャンプを完璧に決め、当時のショート歴代最高点となる101.45点をマークしている。
感情を込めた艶やかな演技 「ロミオとジュリエット」
2013-2014年にフリープログラムで使用した曲が、映画『ロミオとジュリエット』の劇中曲である。ウィリアム・シェイクスピア原作の戯曲として非常に有名であり、過去に何度も映画化されている。
羽生が使用したのは、1968年フランコ・ゼフィレッリ監督によって作品化されたものだ。劇中曲は映画音楽の巨匠、ニーノ・ロータ氏が手がけている。力強く情熱的、しかしどこか切なく、苦しい。さまざまな感情が入り乱れる非常に難しい演目であるが、羽生はこの曲を指先まで艶やかに使いながら表現し、独自の世界観を作り出していた。振付はデビッド・ウィルソン氏が担当している。
『ロミオとジュリエット』は、ソチオリンピックのフリーでも使用された。この時は2度の転倒があって178.64と点数は伸びなかったが、ショートプログラムを完璧に決めていたこともあり、見事金メダルに輝いている。
羽生が見せた力強いファントムの姿 「オペラ座の怪人」
2014-2015年シーズンのフリーで使用された「オペラ座の怪人」も、羽生の演目の中では非常に人気が高い。フランスの作家、ガストン・ルルー氏原作の小説を、2004年にジョエル・シュマッカー監督がミュージカル映画として作品化したものだ。音楽はアンドリュー・ロイド・ウェバー氏が手掛けている。
「オペラ座の怪人」は、羽生以外にも多くのフィギュア選手たちが使用してきた。起承転結がわかりやすく、選手や振付師よってさまざまな形で表現されている。羽生によるオペラ座の怪人は、麗しく力強い、彼なりの主人公・ファントムを表現していたのが印象的であった。振付はシェイリーン・ボーン氏が担当している。
思わず引き込まれる演技に注目「バラード第1番ト単調 作品23」
2014-2015年、2015-2016年と、2シーズンに渡ってショートで使用したのが、フレデリック・ショパン作曲の「バラード第1番ト単調 作品23」。かつて浅田真央がエキシビションにて使用していたこともある。
序盤から中盤までは、落ち着いた雰囲気の中に、何か物語が始まりそうな期待感に包まれている。そして終盤にかけて、一気に盛り上がりを見せていく。羽生自身の伸びやかな滑りも相まって、あっという間にその世界観に引き込まれてしまう演目だ。振付は、「パリの散歩道」と同じジェフリー・バトル氏が担当している。