「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

もし井上尚弥がドネアに負けるとしたら…WBSSバンタム級最強決戦

井上vsドネアⒸゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

パウンド・フォー・パウンド4位vs5階級王者

WBA・IBF世界バンタム級王者の井上尚弥(26=大橋)がWBA世界バンタム級スーパー王者のノニト・ドネア(36=フィリピン)と戦うワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)バンタム級決勝が11月7日、さいたまスーパーアリーナで行われる。

井上は米国で最も権威のあるボクシング専門誌「リング」が選定するパウンド・フォー・パウンド(全階級を通じたランキング)で4位にランクされている、日本ボクシング史上最強ボクサー。1位は世界ライト級王者・ロマチェンコ、2位は世界ウェルター級王者・クロフォード、3位にミドル級からライトヘビー級まで3階級同時制覇したアルバレスというビッグネームが並んでおり、日本でも有名なゴルフキンは7位、パッキャオが10位だから、いかに凄いことか分かるだろう。

ただ、対戦相手のドネアも全盛期を過ぎたとはいえ、実績では井上より上だ。2007年に奪取したIBFフライ級王座を皮切りに、2009年にスーパーフライ級を制覇、2011年には、日本の誇る名王者・長谷川穂積を倒したモンティエルを2回TKOで破ってバンタム級王座も獲得した。

さらに翌2012年にWBOスーパーバンタム級王座を獲得すると、2度目の防衛戦では、当時WBC王座を7度防衛していた西岡利晃を9回TKOで一蹴。2014年にはフェザー級も制して5階級制覇を果たした。フィリピンでは6階級制覇のパッキャオに次ぐ、国民的英雄だ。

獲得王座ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

ナルバエス戦前にアドバイスもらった相手

WBSSについても改めて振り返っておきたい。世界のボクシング界はWBA、WBC、IBF、WBOの主要4団体が統括しており、同じ階級でもそれぞれがチャンピオンを認定している。そこで同階級で最も強いのは誰かを決めるトーナメントがWBSSだ。2度目の開催となる今回はバンタム級(53.52kg)以外にスーパーライト級(63.5kg)とクルーザー級(90.72kg)でも行われている。

井上は2018年10月に行われた1回戦でパヤノ(ドミニカ)をわずか70秒でノックアウト。2019年5月に英国で行われた準決勝では、ロドリゲス(プエルトリコ)を2回1分19秒TKOで破り、決勝にコマを進めた。

WBSS勝ち上がりⒸSPAIA

ⒸSPAIA

一方のドネアは1回戦でバーネット(英国)を4回TKO、準決勝ではヤング(米国)に6回KO勝ちし、健在ぶりを見せつけている。

2人には縁があり、井上が難攻不落と言われたWBOスーパーフライ級王者・ナルバエス(アルゼンチン)に挑戦する直前、ナルバエスと対戦経験(判定勝ち)のあったドネアが来日して井上にアドバイスを送った。当時はまだプロ8戦目だった井上が、すでに5階級制覇していたドネアから教えを乞う形で、井上は見事にナルバエスを2回KOして2階級制覇を達成した。

その後、井上はバンタム級王座も獲得して3階級制覇。18戦全勝(16KO)に戦績を伸ばし、パウンド・フォー・パウンド4位にまで評価を高めた。

負けるならワンパンチKO?

さて、注目の大一番はどんな展開になるだろうか。戦前の予想ではスピードに勝る井上のKO勝利とする見方が圧倒的に多い。

ただ、強烈な左フックが武器のドネアは45戦のキャリアを誇り、当然ながら楽に勝てる相手ではない。井上のバンタム級に上げてからの3試合(1回TKO、1回KO、2回KO)の印象があまりに強烈なため、どうしても予想は偏ってしまうが、ドネアの左フックをタイミングよく顎に浴びれば、井上とて立っていられるか分からない。

仮に井上が敗れるとすれば、どんなパターンがあり得るだろうか。まずひとつは、ドネアの強打を受けてワンパンチで形勢逆転されるような展開。ディフェンス技術にも長けている井上はこれまで乱打戦をほとんど経験しておらず、打たれ強さを試されていない。強打を受けてそのままダウン、もしくはダメージを回復できずにあれよ、あれよのストップ負け…という試合展開がないとは言い切れない。

もうひとつは井上が調整に失敗するか、拳を痛めるなどのアクシデントに見舞われ、実力をフルに発揮できないままペースを握られてズルズルと判定負けするパターン。「世紀の一戦」と謳われた辰吉vs薬師寺の世界バンタム級王座統一戦(1994年)では、圧倒的有利と見られた辰吉が1回に左拳を痛めたためジャブを打てず、薬師寺に判定負けを喫した。

ボクシングが何が起こるか分からないスポーツであることは、これまでに何度も起きてきた番狂わせが証明している。

井上の優位は不動

とはいえ、井上陣営の「判定勝ちを狙う」とのコメントから油断や慢心は感じられない。12回フルに戦えるスタミナにも自信があり、長丁場でも心配ないことをアピールしたいのだろう。

全盛期を過ぎているドネアと、今がピークとも言える井上。スピードの差は歴然で、順当なら井上がノックアウトで軽量級スターの「新旧交代」を世界に発信するだろう。

井上尚弥インフォグラフィックⒸSPAIA

ⒸSPAIA