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ボクシング連盟告発、山根会長と前会長の確執も原因か 村田諒太SNS発言の真意とは

2018 8/3 13:04藤井一
ボクシング
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騒ぐTVのワイドショー

民放各局のいわゆる「ワイドショー的切り口」に惑わされてはいけない。テーマは「金と判定」。表層的な発言に終始し、ボクシング連盟の問題を山根明会長だけに集約しがちな点には注意が必要だ。シンプルで分かりやすいが、連盟の問題は山根会長以前からも存在していた。今回の告発状も純粋な正義感だけから始まったとは言い難い部分がある。

金の問題

山根会長自身が認めたように、助成金の流用は事実だったのだろう。これは断じて許されることではない。しかし、金の問題はそれだけにとどまらない。2017年度から集めているという「オリンピック基金」にも疑惑がある。

この基金は「世界のボクシング情報を収集し、分析を図り、世界連盟との連絡と調整に努めるため」と謳っている。山根会長はAIBA(国際ボクシング協会)の常務理事を8年も務め、日本人では国際的に最も顔の知られた人物である。歴代会長の中では一番世界で勝つことにこだわっており、AIBAの国際試合では判定の基準がどんどん変わるのを理解していないと戦えないこともわかっていた。

2012年、ロンドン五輪での村田諒太の「金」と清水聡の「銅」という結果は、当時、山根会長が国際大会での判定基準に明るかったことも大きいといわれている。2016年のリオデジャネイロ五輪では結果を残せなかったから2020年の東京五輪こそは、ということで必要と考えたのならこの発想自体は間違っていない。だが、「オリンピック基金」は収支決算報告に記載がないことが告発された。大義名分の陰で不正使用したのだとしたら許されることではない。

「奈良判定」以前の判定も告発されるべき

一方で「奈良判定」の告発には気になる点がある。

山根会長は2016年の岩手国体で審判に圧力をかけ、2度のダウンを奪われたのにも関わらず、奈良県の選手に勝たせたと告発状にある。

あまり知られていないが、「奈良判定」の前には「日大判定」が存在していた。ネット上で以前WBC王者の木村悠が語っている記事を目にした読者もいるだろう。勇気ある発言だ。

「日大判定」の時期のボクシング連盟会長は故川島五郎氏である。日大OBであり日大ボクシング部の監督も長く務めた川島氏は会長就任のはるか前から実権を握っていた。

「日大判定」は1993年~2003年の日大11連覇の時代に明らかであった。関東大学リーグ戦も大学王座決定戦も試合を見れば「日大判定」があったことは素人目にも分かったことだ。今回、取り沙汰されている審判に対する不当な圧力もこの時代に始まっている。これが10年以上にわたって繰り返されたが、マイナー競技であったことと、当時の会長の権力が強すぎたことから、ほとんど報道されなかったため一般には知られることがなかった。

元々、プロと違ってダウンも選手のダメージも関係なく、クリーンヒットの数で優った選手が勝つのがAIBAのボクシングである。

古い話で恐縮だが、1968年のメキシコオリンピック、日本のバンタム級代表森岡栄治は準決勝でダウンを奪いながら判定で敗れ3位となった。これはクリーンヒットの数で劣ったからである。

2013年、AIBAからアマチュアの文字がなくなり、現在は選手のダメージが採点で考慮されるようになっているが、「奈良判定」を擁護するわけではないが、岩手国体の審判が古い感覚だったとしたら「クリーンヒットの数で奈良県の選手が優ったため勝利」と判断した可能性はあり得る。

何が言いたいかというと、岩手国体の試合が告発されるなら、前会長による少なく見積もっても数十試合に及ぶ露骨な「日大判定」が、今まで全く告発されなかったことのほうがはるかに問題だということだ。

山根会長の功績と川島派の反発

川島前会長は就任の5年前、96年のアトランタ五輪で監督を務め、2000年のシドニー五輪では代表直前合宿を仕切るなど事実上の会長だった。

シドニー五輪の監督は人事のバランスも踏まえ、現会長の山根氏に任せたのだが、直前になってセコンドを日大の後輩である梅下新介コーチに変更させ、山根氏の存在をほとんどなきものとしている。当時の山根氏の怒りは凄いものがあった。長い間、山根氏は川島会長からこのような扱いを受けていたのだ。

山根氏は川島氏が亡くなり11年に会長に就任すると、ボクシング連盟を世界に勝つための組織に変え、すぐに五輪でメダル2個という快挙を達成した。この点はすばらしいのだが、それまでのうっ憤を晴らしているとでもいうのか、それまで東京にあった連盟の本部を大阪に移すなど、独裁色は川島会長時代よりむしろ強くなった。これでは当然、旧川島派からの反発は起きる。

村田諒太の発言

村田諒太は7月28日に更新したフェイスブックで「そろそろ潔く辞めましょう。悪しき古き人間達……」と、ここに至るまでのボクシング連盟の陰惨な体質を端的に表現している。

告発状333人には旧川島派が多く含まれているが、川島前会長の庇護の下、おいしい思いをしてきた人達には山根会長を批判する資格などないということも村田は言いたいのではないか。

「日本ボクシングを再興する」という理念は素晴らしいが、その中にいる旧川島派の古い人達を一掃しなければ元の木阿弥になる可能性もある。そのような実態を踏まえながら今後の成り行きを見守るべきだろう。