パワーと技術を併せ持つ元リオ五輪銅メダリスト
プロボクシングの4団体統一世界スーパーバンタム級王者・井上尚弥(32=大橋)が14日、愛知県名古屋市のIGアリーナでWBA同級暫定王者ムロジョン・アフマダリエフ(30=ウズベキスタン)と対戦する。
WBCとWBOは6度目、WBAとIBFは5度目の防衛戦。来年のフェザー級転向を見据える井上にとって、アフマダリエフはスーパーバンタム級に残された最後の強敵と言っていい。
身長166センチ、リーチ173センチとサイズ的には身長165センチの井上とほとんど変わらない。ただ、分厚い胸板、太い腕っぷし、筋骨隆々の肉体を見ただけでもそのパワーは容易に想像がつく。
アマチュア時代に2015年の世界選手権バンタム級銀メダル、2016年リオデジャネイロオリンピックのバンタム級銅メダルなど輝かしい実績を残しており、決して力任せのボクシングではない。
プロ転向後は14勝(11KO)1敗。2020年1月にダニエル・ローマン(アメリカ)を判定で下してWBA・IBFスーパーバンタム級王座を獲得し、3度防衛した。
しかし、2023年4月、マーロン・タパレス(フィリピン)に12回判定負けして王座陥落。そのタパレスを井上が倒して4団体のベルトを統一した経緯がある。
タパレス戦の黒星がアフマダリエフの評価を落としている側面もあるが、井上が「キャリア最大の強敵」と警戒するのは決してオーバーではない。アフマダリエフに勝ったタパレスを井上が倒したから、井上はアフマダリエフより強いという三段論法はボクシングでは成立しないのだ。
右フックのカウンターには警戒必要
井上はサウスポーを苦にしないが、アフマダリエフはガードが堅い上に的が小さく、得意のボディブローを打ちにくい。さらに防御勘が良く、フットワークも使えるため、井上とて簡単にはクリーンヒットできないだろう。
攻撃はフックが中心だが、攻め込んだ時の回転力、パワーは一級品。右構えの相手に右フックを合わせるタイミングも抜群だ。
そこでどうしても気になるのが、井上がルイス・ネリ戦(メキシコ)とラモン・カルデナス戦(アメリカ)で喫したダウン。人生で倒れたことのなかったモンスターが1年の間に2回もダウンし、決して無敵ではない印象を与えた。30歳を過ぎて「衰え」を指摘する声もあった。
ネリ戦は東京ドームの大舞台、カルデナス戦は相手の力量不足による油断によるものと考えれば修正は可能なはずだが、パワーのあるアフマダリエフにダウンさせられた場合、立ち上がれる保証はない。
だからこそ記者会見ではKO宣言を封印し、「判定決着でもいいと思っている。しっかり勝ち星を取りにいく」と控えめなコメントを口にしたのだ。
打ち合いは避けてスピード活かす展開に
井上が確実に勝っているのはスピード。距離を測りながら速い左ジャブと右ストレートで機先を制したい。前半は深追いせずにポイントを取り、自分のペースに持ち込んでアフマダリエフを焦らせる展開が理想だろう。
常にファンの視線を意識する井上は、これまでKO勝ちを狙って倒しにいくことが多かった。実際、そのパワーに恐れおののいてポール・バトラー(イギリス)やテレンス・ジョン・ドヘニー(アイルランド)は攻め込んでこなかった。
しかし、アフマダリエフに対して不用意な攻めは禁物。本来はファイタータイプではなく、フットワークを使ったアウトボクシングもうまい井上が、今回はテクニシャンとしての新たな一面を見せてくれるのではないか。打ち合いは避け、スピードを活かす展開になれば終盤のTKO勝ちも十分にある。
井上陣営はアフマダリエフと対戦経験があり、同じサウスポーのタパレスをスパーリングパートナーとして招聘。入念に対策を練ってきた。
今回の一戦がハイレベルで見応えのある好ファイトになることは間違いない。一瞬たりとも目が離せない、手に汗握る名勝負を期待したい。
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