生涯無敗のレジェンド【リカルド・ロペス】
リカルド・ロペスを形容する言葉はたくさんある。無敗の王者、小さな巨人。ミニマム級、ライトフライ級の世界で、アマ・プロを通じ一度も負けることのなかったロペス選手は、多彩なコンビネーションパンチを自在に操るメキシカンボクシングのお手本のようなボクサーだった。
ロペス選手のアッパーで印象的なのは、やはり左下から斜め右上にうなるように飛んでくる豪腕左アッパー。ワンツーのコンビネーションで相手に右ストレートを打ち込んだ瞬間、すでにロペス選手の体勢は大きく左斜めに傾いている。左下に移動させた重心を強靭な体幹の力で左腕にのせ、強烈なアッパーを生み出すのだ。
セオリー無視、変幻自在の天才【ナジーム・ハメド】
ボクシングはただの格闘技ではなく「ショー」の要素が大きいスポーツだ。その点、ナジーム・ハメドのような異色のボクサーは、ライブでもテレビ画面でも、観客を決して飽きさせることがなく、ボクシングのショー的要素を十分に満たせるスター選手といえる。
もちろん実力でも折り紙つき。生涯戦績37戦36勝31KO、IBF・WBO・WBC世界フェザー級王者として旋風を巻き起こした。彼のスタイルはきわめて独特で、ガードや体軸のバランスを犠牲にしてでも相手のタイミングを外し、すきをついて強烈な一撃をくらわすという変則スタイル。
アッパーも、フックとアッパーを混ぜて割ったような彼にしか打てないパンチ。相手のパンチをノーガードでかいくぐりながら、死角から猛獣が獲物に襲いかかるようなアッパーを連発した。
「現役最強」の呼び声高い【ローマン・ゴンサレス】
「パウンド・フォー・パウンド」という言葉がある。体重別に分かれるボクシングの世界で、もしすべての選手が同じ体重・同じ条件で戦ったら誰が最強かを示す言葉だ。すでに引退した選手ではマイク・タイソンやフロイド・メイウェザー・ジュニアらの名が挙がるが、「現役ボクサーのパウンド・フォー・パウンド」で必ず挙がるのがローマン・ゴンサレスだ。
87年生まれで29歳のゴンサレスの戦績は、プロデビューから現在まで46戦無敗・36KO・4階級制覇と圧倒的だ。超絶的な攻撃力はもちろん、柔らかい骨格を駆使したディフェンスも極上。そんなゴンサレスはアッパーももちろん超一流。ただ万能タイプのボクサーだからか、決して派手なアッパーは打たず、要所で効かせるパンチとして使う。それでも、アッパーに至るまでのコンビネーションが絶妙であるため、相手がアッパーをくらう確率が高く、結果としてKOにつながるというのが彼の強さの理由だろう。
異色のボクサー【ルシアン・ブーテ】
ルーマニア生まれで、今はカナダで活躍するルシアン・ブーテは、アマチュアボクシングで活躍した後プロに転向。デビューから15戦連続KO勝を収め、IBF世界スーパーミドル級王者として9度の防衛を果たした実力者だ。
彼はなんといっても「アッパー大好き」なボクサーとして有名だ。相手の顔面とボディを巧みに打ち分けるアッパーは、重さとスピードを兼ね備えた破壊力抜群の一発。アッパーがフィニッシュパンチとなった試合がとても多いことから、「ブーテ選手といえばアッパー」と連想するファンも多いようだ。
くらった相手が宙に浮く超ド級のアッパー【マイク・タイソン】
マイク・タイソンの強さは今さら書きたてるまでもないだろう。ヘビー級としてはとても小柄だったタイソンだが、それを補って余りあるハイスピード・パンチでKOの山を築いた。右のボディフックと右アッパーのコンビネーションは特に有名で、これをくらった対戦相手がその威力のあまり宙に浮いてしまうという衝撃の場面がよくあった。
全盛期の彼は、モハメド・アリをしのぐと言われたスピードと鉄壁のガード、そして相手の急所を正確に打ち抜くパンチという、ボクサーに必要なすべての条件を最高レベルで有していた。ヘビー級だけでなく、歴史上の全階級全選手の中で、「絶好調のときのタイソン」に勝てる者は一人もいないとさえ言われた絶対王者タイソン。体重100kgを超えるヘビー級ボクサーを宙に浮かせるアッパーは、その人間離れした強さの象徴だったと言えるだろう。
まとめ
「アッパーの名手」を5人紹介したが、日本人選手を選ばなかったのには理由がある。
日本人ボクサーのスタイルは、打ち合いになると背中や腰の重心移動が単調になり、どうしてもストレートやフック主体になる。強烈なアッパーを打つには上半身をしなやかに動かして爆発させる強靭な体幹が不可欠なのだ。
未来の日本人ボクサーの中に、世界に通用するアッパーの名手が現れることを期待したい。