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艇王・植木通彦氏が語るボートレースの魅力 第1マークでは終わらない、シーズン通した人間ドラマ【ボートレースアンバサダーに聞く・下】

2020 9/6 11:00四家秀治
BOAT RACE振興会ボートレースアンバサダー:植木通彦氏
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『ボートレース』は1952年から開催。元々は、造船関係の産業の振興と地方財源の改善等を目的として始まったとされている。競馬、競輪、オートレースと並ぶ公営競技で、直線300mのコースを6艇が3周回して競う。

今回、お話を伺ったのは、現役時代「不死鳥」とも呼ばれたボートレース界のレジェンドで、現在はBOAT RACE振興会のボートレースアンバサダーを務める植木通彦氏。ボートレース界に飛び込んだ経緯や、ボートレース界ついての様々な思いを語っていただいた。全2回。(聞き手:四家秀治)

※コロナウイルスの感染対策のためインタビューはオンラインで行いました

ボートレーサーには整備技術も必要

―ここからは、私のようなボートレース初心者だと知らないようなお話をうかがえればと思います。まず、ボートに使われるモーターは、皆、同じ性能なんですか?

植木氏:基本的に同じ性能です。全国24のボートレース場で、それぞれ新しいモーターに付け替えたら、そこから1年間使います。モーターの更新時期はレース場ごとに違いますので、例えばAレース場での開催では新しいモーターでレースが行われていて、1週間後、Bレース場での開催では半年間使用されたモーターでレースが行われているというようなことになります。

性能は同じでも、使っていくうちに変形したり、摩擦や水をかぶることで、個性が出てきます。ですから新しいモーターの時にはあまり性能差はありませんが、1年近く経っていた場合、かなりの差が出ます。そして、レーサーは抽選で開催ごとにボートとモーターが割り当てられるので、抽選による運不運はあります。

―でも、抽選による運、不運はあっても基本的にレーサーの技術で勝負が決まるのがボートレースという解釈でいいわけですね。

植木氏:そうです。よくF1のレーサーと比較されますが、チームで勝負するF1レーサーと異なり、ボートレーサー自身が抽選で与えられたモーターをどう整備し、どう使いこなすかということが重要です。

ボートレースは内枠有利、でも避けたい時も

―ボートレースは1開催が6日間の場合、最初の4日間が、1日の全12レースすべて予選です。常に6艇で争われるわけですが、その枠順はどのように決まるのですか?

植木氏:主催のレース場に番組(※)編成委員がいまして、全出場レーサーが4日間で1枠から6枠までだいたい均等になるように振り分けます。抽選ではありません。例えば初日の第1レースは、参加全選手がモーター等のコンディション、特に、最も内側で有利な1枠(1号艇)がどんな走りになるのかを知りたいですから、1号艇で出場したくないレーサーが多いわけです。でも、第1レースの1枠を主催側から割り当てられたら出なければならないということになります。

そういった予選を4日間戦ってトータルポイント上位18人が5日目の準優勝戦に進出できます。ボートレースは内枠有利なので、準優勝戦は18人の中でも上位から順に1枠から6枠まで割り当てられます。(準優勝戦は3レース)

※番組・・・各レースの出場レーサーの組み合わせ

―気の抜けない日程ですね。

植木氏:ボートレーサーは、自分のピークをどこに持っていくのかが難しいのです。開催6日間の6日目にピークを持っていっても、予選で下位ばかりでは優勝戦はもちろん、準優勝戦にも進めず、最終日、一般戦に出ることになってしまいます。3日目、4日目あたりにテンションを上げないといけません。そして、そのテンションをそこからさらに高めなければ、最終日の優勝戦には勝てないので、メンタルの強さ、保ち方は他のスポーツより重要なのではないかと思います。

「競艇」から「ボートレース」へ

─2010年にそれまでの「競艇」から「ボートレース」と名称が変わりました。数年前、私がボートレース界の方に「競艇」と申し上げたら「今はボートレース(BOAT RACE)と言います」と訂正されました。恥ずかしながら、知らなかったのです。ボートレースと改称した理由はなんですか?

植木氏:「競艇」より「ボートレース」のほうがわかりやすいというのが一番の理由ですね。
それに「競馬」「競輪」が「けいば」「けいりん」なんだから「競艇」は「きょうてい」ではなく「けいてい」とも読めるわけです。また、ボートレース界も結構、運営上、大変な時期があって、施策の一環としてボートレースをより多くの方に知ってもらうために、名称も「競艇」から「ボートレース」に変えたんです。これにより、イメージは大きく変わったと思いますし、ボートレーサーのイメージ自体も変わったと思います。

―たまたまかもしれませんが、ちょうど「競艇」が「ボートレース」に変わった頃から、女子レーサーがフューチャーされるようになってきたような気がします。もちろん、それ以前にも女子レーサーはたくさん活躍されていました。最近の傾向をどう思われますか?

植木氏:それは、今のご時世の…現象ですよね(笑)。ただ、実際、女子レーサーは、非常に、がんばっています。これは男子トップレーサーからも聞くことです。開催中、休むことなく、男子レーサーに追いつけ、追い越せと努力していますから、女子の技術の進歩は右肩上がり、すごいです。スペシャルグレードレース(SG)にも女子選手が必ず出場するようになりました。こんなことは昔では考えられなかったですから。

すでに一部の一流女子レーサーが、様々なところで、レースの魅力を語ったりする講演会を開催するようになっていますが、5年もすればそれがもっと増えているかも知れません。

―女子の活躍によって、ボートレースが広く一般に知れ渡り、メジャーな競技になればいいというお考えですね。

植木氏:今の社会は、どこも女性ががんばっていますから、ボートレース界の女子レーサーがその先陣を切ってくれればいいなと思います。それと男子レーサーも、今、とてもカッコいいですよ。

―植木さんも、現役時代も今もカッコいいです。

植木氏:いえいえ、私は…(笑)。

女子ががんばっていることで、男子が危機感を持って「自分たちも!」という気持ちになっています。だから、今、ボートレース界は、そのような切磋琢磨するいい状態にあると思います。それから、さらに最近のいい傾向は、レース後、いろいろなレーサーのコメントが大事にされるようになってきたことです。昔は勝った人のコメントばかりでした。今は敗者が勝者を讃えるコメントも普通に紹介されます。つまり、“スポーツ”になってきたなあということも感じます。

OAT RACE振興会ボートレースアンバサダー:植木通彦氏

第1マークだけでは終わらない、シーズンを通した人間ドラマも魅力

―先ほど、女子レーサーの技術が上がることで、どんどんレベルが上がっているというお話をうかがいました。ボートレースの競技技術の進化、変化についてうかがいたいのですが。

植木氏:まず、今は年間を通しての人間ドラマがあるということですね。以前は、6日間なら6日間の開催の中での戦いという印象が強かったのですが、全体で約1600人のレーサーが年末のSGグランプリを目標にします。女子に限っていえば、クイーンズクライマックスという女子№1を決める年末の大きなイベントもあり、そこを目指して1月から戦っていきます。そこにストーリー性があって見ごたえがあるわけです。その戦いは、次年度には全く違うものになったりしますから。

―舟券を通して見るだけではないということですか?

植木氏:単に舟券が当たった、外れたということではなく、レース後、感動される方が多くなってきています。それは、ボートレースの新しい魅力だと思います。

―ボートレースは、第1マークでほとんど決まってしまうという見方をされている方がたぶん多いと思います。私もそうですが、そのあたりはどうなんでしょう。

植木氏:はい。今も昔も第1マークまでの勝負は大きいです。スタート技術の進化は目を見張るものがあります。ボートレースは、レース場中央のスリットラインからスタートします。全速力で、しかもフライングをしないでスタートしなければなりません。そのスタートタイミングの技術の向上がすばらしいです。コンマ何秒の争いは、私の現役の頃と比べたら格段に速くなっています。その迫力を堪能していただきたいです。

それから、舟券ということでいえば、今は1着2着3着を当てる3連単が最も人気があるのですが、少なくとも、3番目に第1マークをターンしたボートがそのまま3着でゴールというケースは、決して多くないです。

―えっ?それはどういうことですか?

植木氏:ボートレースは、1コースからそのまま突っ走って勝つ「逃げ」、2~6コースから出て、第1マークを外から豪快に抜き去ってトップに立つ「まくり」、2~6コースから第1マークをターンするときに内に切れ込んでトップに立つ「差し」が主な3つの決まり手と言われてきました。その他にも「まくり差し」「ツケマイ」等あり、それは今もあるのですが、最近は「追い上げ」が多く見られるようになってきました。第1マークは、4、5、6番手でも、その後3着くらいまで順位を上げてくるのが「追い上げ」です。舟券上は立派に役目を果たすわけで、3周目の最終マークまで、ハラハラドキドキのレース展開になっているんです。

近年は、「追い上げ」を得意としているレーサーもいます。こういった、新しい技術をレーサーは次々に編み出していますので、「競艇」の時代しか知らない人は、舟券を買わなくてもいいですから「ボートレース」をぜひ、楽しんでいただきたいですね。

植木通彦氏プロフィール
福岡県北九州市出身。1986年に福岡競艇場(現ボートレース福岡)でデビュー。1989年、レース中の事故で重傷を負うも、同年、レースに復帰。1996年、公営競技初の年間獲得賞金2億円を達成。2007年7月引退。通算成績はSG優勝10回、GI/PGI優勝23回、GII優勝3回、GIII優勝7回、一般戦優勝31回、通算勝利数1562勝、出走4500回。引退後は2008年より一般財団法人日本モーターボート競走会の理事職に就任。2012年4月にボートレーサー養成所やまと学校の学校校長に就任。2018年6月からBOAT RACE振興会のボートレースアンバサダーを務める。

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