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【バスケ天皇杯】サンロッカーズ渋谷が壮絶な戦いを制して5年ぶり2度目の優勝達成

第95回天皇杯全日本バスケットボール選手権大会で優勝したサンロッカーズ渋谷Ⓒマンティー・チダ
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Ⓒマンティー・チダ

魂と魂のぶつかり合いを制したサンロッカーズ渋谷

第95回天皇杯全日本バスケットボール選手権大会ファイナルラウンドは12日に決勝が行われ、サンロッカーズ渋谷が川崎ブレイブサンダースを78-73で下し、5年ぶり2度目の優勝。トーナメントの優勝を決める決勝のコートは壮絶だった。28m×15mの広さを持つこの空間は、激しい魂と魂のぶつかり合いとなった。

出だしから互いに緊張感が漂う。川崎#22ニック・ファジーカス、渋谷#2セバスチャン・サイズの得点でスタートしたこの試合は、両者一歩も譲らない展開に。川崎がセカンドチャンスからファジーカスが得点すれば、SR渋谷も#24広瀬健太が3pを決めて抜き返していく。川崎#4青木保憲にカットインを許して3点ビハインドとされたSR渋谷だったが、1Q終盤に#9ベンドラメ礼生のスティールからパスを受けたサイズがダンクを叩き込んで11-11と同点にする。川崎・ファジーカスに5得点を許すも、SR渋谷はサイズのジャンパーと#16渡辺竜之佑がコーナーから3pを沈めて16-16の同点で1Qを終了する。

2Qの立ち上がり、SR渋谷はベンドラメがレイアップを入れてリードすると、残り8分を切って#27石井講祐がスティールから速攻を決める。直後のディフェンスでは#1関野剛平と石井がボールに飛び込んで攻撃権を獲得すると、サイズが得点し、22-16とSR渋谷が突き放し川崎にタイムアウトをコールさせた。

サンロッカーズ渋谷のベンドラメ礼生Ⓒマンティー・チダ

Ⓒマンティー・チダ

タイムアウトを終えても流れはSR渋谷のままだった。川崎#14辻直人に3pを沈められるが、#34ライアン・ケリーがファストブレイクとなるダンクを決めるなど、SR渋谷が6点を稼ぎリードを9点とする。しかし、川崎もヒースが3pなどで5点を加え、辻も3pを決めて1点差まで接近。ここからは取られたら取り返すという展開となり、前半を終えて35-35の同点でハーフタイムを迎える。

後半に入ると関野が3pを決めて、SR渋谷が優位に試合を進める。ファウルを重ねる展開となったが、#23野口大介とサイズの得点でリードを6点とした。その後も#14杉浦佑成が3p、#32山内盛久がフローターを決めてリードを8点とするが、川崎も粘りを見せる。ヒースとファジーカスが得点し点差を詰めると、さらにゾーンディフェンスを敷いていく。しかし、SR渋谷は山内がコーナーからの3p、サイズがジャンパー、ベンドラメも3pを入れて引き離しにかかる。結局SR渋谷が59-55で4点リードして最終Qへ向かう。

4Q、川崎・ファジーカスの得点などで、早々に追いつかれたSR渋谷だったが、ベンドラメの3pや#44盛實海翔の得点で3点リードをキープする。しかし、辻とヒースの3pで遂に川崎が68-69と逆転し、ここから両チーム一歩も譲らない展開となる。SR渋谷は山内が3pを決めると、サイズとのピック&ロールからサイズが得点し引き離そうとするが、川崎もヒースのバスケットカウントで追いすがり、73-72とSR渋谷のリードはわずか1点となった。

終盤に入り、川崎ヒースのアンスポーツマンライクファウルから、ケリーがフリースロー1本を決める。残り16.2秒以降、川崎のファウルで獲得したフリースローを石井と広瀬が2本ずつしっかり入れて勝負あり。78-73でSR渋谷が川崎を下した。

「野口行くぞ」と呼ばれても、すぐに入れるように準備をしていました

SR渋谷がBリーグレギュラーシーズン同様、タイムシェアを施しながら頂点に立った。ただ、川崎も負傷離脱中の#21マティアス・カルファニや#7篠山竜青に加えて、インフルエンザで#18鎌田裕也と#0藤井祐眞が欠場したこともSR渋谷にとっては追い風となった。

追い風となる材料があったとはいえ、決勝は1発勝負だ。準決勝の試合後、SR渋谷・伊佐勉HCは「決勝の試合に勝つ為に、これから行動をして欲しい」とチームミーティングで呼びかけていた。チームとしても5年ぶりの決勝戦であり、個人でもこういう大舞台を踏んでいる経験者は数名という状況だったのだ。

「初めて見る光景でした」

そう語るのは、プロ入り13シーズン目の野口だ。「僕らも戦っていましたけど、ファンの方も戦ってくれていて、どちらも負けていない感じでした」

両チームから起こる大声援は、コートで厳しい戦いをしていた選手にも届いていた。

ただ、チームは昨年12月に連敗を喫し、ここにきてようやく調子を取り戻していた段階だった。「連敗が続いてチームの雰囲気が悪い時に、選手同士でミーティングを開き、そこから慢心というか、どこかで勘違いしている部分もあったので、まず排除していこうと話しました」

負けているときは、やはりチーム内の雰囲気も悪くなっていくが、選手同士でコミュニケーションを図り、悪い雰囲気を断ち切ろうとチーム一丸で取り組んでいた。そして昨年末の名古屋D戦からリーグ戦4連勝で天皇杯を迎えていた。

「前日の夜から、決勝の風景を想像しながらずっと生活をしていました。人生でも初めての経験だったので」と野口は決勝進出が決まってからこのように過ごす。野口にとっても初めての日本一をかけた試合だった。ただ「僕としては気持ちを上げたりとか変に力が入ったりとかはありませんでしたが、気持ちを全面に出し過ぎることや出過ぎてしまう部分というのはあると思いますので、そういう部分は気を付けるようにはしていました」と話す通り、野口はいつも通りの役割に徹する。

実際に試合では、ケリーとサイズのつなぎ役としてチームを支えた。「チャンスが来た時にしっかり発揮できるように、ずっとベンチでも気持ちを作っていましたし、体もずっと準備をしていました。伊佐HCから「野口行くぞ」と呼ばれてもすぐにコートへ入れるようにしていました」と準備に抜かりはなかった。

「気持ちが全面に出ている試合でもありましたし、こうしてクロスゲームがずっと続いて最後に僅差で勝ちを手繰り寄せたのはチームにとっては良かったですし、ベストゲームだったと思います」

野口は試合内容にも納得していた。こうして縁の下の力持ちがチームを支えていることを忘れてはいけない。

大舞台の経験を生かしてチームメートへの声掛けを意識していた石井講祐

昨シーズンまで千葉で天皇杯3連覇を経験済みの石井は、これまでの経験を存分にチームへ還元していた。

スティールで流れを作る役割も果たした。そして終盤になると、試合が止まるごとに選手を集めてハドルを組み、周りの選手へも積極的に声をかけていた。

「まあ4回目なので経験はもちろんあると思います。決勝だから何かを変えるというのは無いですし、いつもの1試合として捉え、同じルーティンをして試合に入るようにしていました」

サンロッカーズ渋谷の石井講祐Ⓒマンティー・チダ

Ⓒマンティー・チダ

石井は冷静に緊張感のある試合を振り返った。チームメートへの声掛けも「そこは意識した」と即答する。「何でも良いからハドルを組むことでみんなの意識を統一できると思うので、今日は特に意識をしてみんなを集めて話しかけるようにしていました。決勝は1回きりですから」

大舞台で喜びと悔しさを知る石井だからこそできたことだ。昨年はケガで離脱していたが、ここからが石井の本領発揮といきたいところだろう。表彰式においても選手を誘導する場面が見受けられた。

「表彰式も4回目なので、順序はだいたいわかっていました」と最後は笑顔を見せた。これからは石井自身もまだ達成していないリーグの頂へ臨むところだろう。

選手起用で悩み眠れない夜を過ごしていた伊佐勉HC

「決勝で勝つ為にこれからを過ごしてくれ」と呼びかけた張本人である伊佐HCは、決勝戦までをどのように過ごしていたのだろうか。

「準決勝の川崎と宇都宮の試合を生で観戦しビデオでも撮っていたので、宿舎で一回ビデオを見ていました。その中でこれまでの川崎とは少し違っていたことが分かったので、レギュラーシーズンで対戦した2試合をもう一度見て色々考えていました。一番悩んでいた事は外国籍選手を誰で行くのかでした。目を閉じてあまり眠れなかったのですが、起きた瞬間にまたどっちにしようと、どちらも良い選手なので、そこが外れればチャンピオンになれない。ずっとこの事を考えていました」

指揮官は決勝までの時間、選手起用でかなり悩んでいた様だ。サイズと#10チャールズ・ジャクソンのどちらをベンチに登録させるのか。レギュレーションとしては、Bリーグと同様に外国籍選手の登録は2人まで。今シーズンのSR渋谷は、ライアン・ケリーと3人でローテーションをしながらタイムシェアを行っていた。長いシーズンとなれば、体調も考慮してとなるのだろうが、こうして短期決戦や1発勝負となると訳が違う。

「ライアンは起用となれば3試合連続ということでしたが、幸い準決勝の滋賀戦で29分に抑えられたので、ライアンの3試合目もあるなと思いました。川崎の外国籍選手であるニックやヒースは外を打てる。そのため、ライアンの方がオフェンスとディフェンスも機能するのではないかと。そこはアシスタントコーチ3人も意見が一緒だったので、ライアンで行こうとまず決めました。セバスチャンかタイプの違うCJ(チャールズ・ジャクソン)で行くのか、この部分も迷っていて、セバスチャンも幸い準決勝では23分で収まっていたので、彼のアクティブを選びました」

サンロッカーズ渋谷集合写真Ⓒマンティー・チダ

Ⓒマンティー・チダ

そしてガードのローテーションにおいても「ちょっと波長が合わない事もありました。いつもはもうちょっと粘りますけど、ワンポゼッションごとで変わってくるトーナメントゲームなので、一旦駄目であれば早めに見切ったというのは今日実際にあります」

選手のローテーションにおいても、伊佐HCはいつも以上に厳しい状況でタクトを振るっていた。そんな厳しい状況を乗り越えて、SR渋谷は天皇杯を制し、伊佐HCは涙をぬぐっていた。

「選手が40分間サンロッカーズディフェンスをやってくれた」

決勝で勝つ為の行動を選手やスタッフに求めた指揮官、そしてその思いを受けてしっかり行動した選手。まさに一つのチームとして成熟した瞬間だったのではないだろうか。これからBリーグも再開する。これからは天皇杯覇者としてマークされる側に立つが、まだまだ伸び代が期待できる天皇杯王者誕生の瞬間だった。