クラブ史上初の皇后杯ベスト8
1月22日から女子バスケWリーグが再開される。皇后杯7連覇を達成したJX-ENEOSを筆頭に、まずはどのチームもプレーオフ進出を目指す戦いとなる。プレーオフに進出できるのは8チーム。上位チームとしては、如何に良い順位でプレーオフ進出できるかが重要で、8位周辺のチームは進出を懸けて最終盤まで気の抜けない戦いが続く。
先日の皇后杯はJX-ENEOSが7年連続24回目の優勝で幕を閉じ、JX-ENEOSの強さばかりが目立った大会となったが、その陰ではクラブ初の快挙を達成していたチームがあった。山梨県で活動する山梨クィーンビーズ(山梨QB)がクラブ史上初の皇后杯ベスト8を成し遂げていたのだ。
山梨QBは1968年に日立甲府のクラブチームとして創立され、50年以上の歴史を持つ老舗クラブチームだ。これまで旧日本リーグで2部の優勝実績はあるものの、1部ではあまり目立った成績は残せていなかった。しかし、昨年10月に開幕した第21回Wリーグでは、開幕戦でFIBAアジアカップMVP本橋菜子を擁する東京羽田ヴィッキーズを下し、今季の浮上を予感させた。
その開幕戦は、出だしからゾーンディフェンスで相手をかく乱し、本橋に対しては常にダブルチームでマークして動きを止めるなど、ハードなディフェンスで勝利をもぎ取った。
Wリーグには、2012年から2013年、2016年から現在まで参戦しているが、2017年にシーズン3勝あげたのが過去最高で、トップリーグで勝つことさえ難しいチームが、開幕戦で番狂わせを起こしたのだ。
この山梨QBは、指揮する伊與田好彦HC曰く「そこそこできる選手」の集まりである。高校や大学で目立った存在ではなかったからこそ、ここで才能を開花する選手もいるのだ。
「シュート力をしっかりあげる事」若原愛美
皇后杯では、残念ながらデンソーに敗れてベスト8に終わった。昨年末に行われたWリーグでもデンソーと2試合し、いずれも完敗を喫していたが、その時に比べるとスコアとしてもロースコア勝負となり手ごたえを感じていた。
ルーキーの#13若原愛美は、東京医療保健大学で主将を経験するほどの選手で、大学時代は泥臭いディフェンスが持ち味だった。しかし、山梨QBに入ると得点源としてスタート5で出場を重ね、スコアラーとしてチームを引っ張っている。
「すごく大きな体育館でできたので幸せでした。独特な雰囲気を感じる事もなく楽しめました」とさいたまスーパーアリーナでプレーできたことを喜んでいた。年末からデンソーとは対戦し皇后杯でも敗れてしまったが、若原は手応えを掴んでいた。
「イージーシュートを自分たちの方が落としていたので、それが大きかった。デンソーに関しては高さと強さがあるなと感じましたが、この前のリーグ戦よりも抑える事が出来たと思いますし、これからに繋がる試合でした」
昨年末のリーグ戦では、100失点、95失点と2試合続けてディフェンスに課題を残していた。「自分たちが外のシュートを入れる事と、ディフェンスの部分でイージーなバスケットをさせないことが徹底できれば戦える」と当時の若原は話をしていた。そして、皇后杯では49-74と失点を抑える事が出来ていた。
若原は、高さに対するディフェンスにはそれなりの手応えを感じていた。ゾーンディフェンスに関しても「コミュニケーションミスがあった」と反省し練習で補う事が重要だとする。
若原は、山梨中央銀行で働いている為、仕事とバスケを両立する必要がある。「これすぐやってといわれて、ぱっとやらないといけない。他の方も忙しいし、もう1回教えてもらう事が出来ない」と仕事でも試行錯誤しながら適応しているようだ。「仕事できるねと褒められます。自分で言っちゃった」と職場のことも明るく話す。
山梨クィーンビーズは現在2勝12敗の11位。プレーオフ圏内の8位東京羽田ヴィッキーズとは勝ち星3つの差だ。「シュート力をしっかりあげる事」を若原は課題に挙げる。ディフェンスで相手の得点を抑えても、自分たちの得点が伸びないと勝利することは難しい。残り8試合はプレーオフ圏内のチームと直接対決が続く。「後半戦は負けられない戦いが続く」とプレーオフ進出へ待ったなしだ。皇后杯のベスト8に続いて歴史に名を残すためにも、若原の活躍は必須になる。

「やる事を明確にした。それがこれに繋がっているだけ」伊與田好彦HC
今シーズンから指揮をする伊與田HCは、チームにサイズが無い分、あらゆる策を練っていた。ゾーンディフェンスやフロントコートからのプレスなど、守備においても激しさを求めている。
「どうしようもない高さでやられると、ガクッと来てしまいます。選手たちは頑張っていますが」
12月のリーグ戦では、デンソーの高さに対するディフェンスに手を焼いていた。しかし、皇后杯では一気に70点台まで抑えることに成功する。
「ディフェンスの約束はこうです、オフェンスであればこうだよとか、整理をするだけですから。別に大きく変えたつもりはありませんが、やる事を明確にした。それがこれに繋がっているだけ」
今のメンバーで出し切れるよう、戦術を明確にしていた。ディフェンスでは一定の成果を得たものの、得点は40点台。アウトサイドシュートやフリースローの得点が伸び悩んだ結果ではあるが、もう少し伸ばしたいところ。
主将の#18 岡萌乃は、皇后杯準々決勝後に「出だしからもっとアグレッシブに攻めていかないと、空気に飲まれると実感した。いつもは様子見から入ってしまいますが、こういう大舞台だからこそ、思いっきりシュートを打たないといけないというのは経験できた」と大舞台で戦った経験を成果としてあげていた。
そして、これからはプレーオフに向けて負けられない戦いが続く。「これから勝ちにいかないといけないゲームが続くので、そういう時こそ思いっきり出だしからやっていかないと相手に飲まれてしまう。シュートが外れてしまう事は仕方ないことでもあるので、そこをいかにカバーできるか。思いっきりシュートを打つことができているので、外れたとしてもリバウンドを拾っていきたい」
山梨QBはこれからの戦いでより一層「思い切り」が求められる。選手たちは企業チームでない所で、仕事をしながらWリーグの舞台でも戦っている。「仕事をやりながらもWリーグでやっていくというのは素晴らしいこと」と伊與田HCが話す通り、結果を出すことで努力が報われればなお良いし、皇后杯に続いて快挙を達成することになれば、山梨クィーンビーズはバスケットボール選手の受け皿として、より一層の存在感を増すことになるだろう。