5月下旬期限、関節炎など健常者と差がない選手も出場?
東京パラリンピック開幕まで半年に迫る中、まさに衝撃的なニュースだった。国際パラリンピック委員会(IPC)は1月31日、国際車いすバスケットボール連盟(IWBF)の障害クラス分けがIPCの定めた国際基準を順守していないと問題視し、東京パラリンピックの実施種目から除外する可能性があると警告したと発表した。
5月29日を期限に緊急の対応を要求しているが、一部の選手がIPCの基準に沿ったクラス分けの再認定を受ける必要があり、2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロ大会を基に算出すると、対象は50~75人程度に及ぶ見通し。IPCのクレイグ・スペンス広報部長は「IWBFの基準では障害の軽いクラスで関節炎や膝が悪いといった健常者と差がない選手も出場を認められている可能性がある。どんなスポーツでもルールの公平性が生命線だ」と問題点を指摘した。
過去には知的障害を装った不正も発覚
パラリンピックの歴史を振り返ると、2000年シドニー大会でバスケットボール男子金メダルのスペイン代表に知的障害を装った健常者が含まれる不正が発覚し、2008年北京大会まで知的障害者のクラスが廃止された過去もある。
2016年リオ大会前には、パラリンピック発祥の地、英国の陸上選手で障害区分を偽る不正が数年前から横行していた疑惑が表面化した。障害の公平なクラス分けは五輪と違い、パラリンピックを守る上で最も重要なテーマでもある。
バスケは5人構成、障害の程度で「持ち点」
健常者のバスケと同じ広さのコート、同じ高さのゴールを使って行われる車いすバスケはチームのレベルを同一に保つため、選手の障害の程度により1.0~4.5点の「持ち点」が定められている。コートに入る選手5人の合計の持ち点が14.0点以下になるようにチームを編成する必要があり、今回問題視されているのは比較的軽い4.0と4.5の選手。

競技規則では障害の程度や運動能力に応じて0.5刻みで「持ち点」が与えられ、パラで最も人気があるといわれる競技の醍醐味ともなっているが、IWBFの独自基準では限りなく健常者に近い選手がプレーできている現状をかねてから指摘され、今回のIPCによる異例の「警告」につながった。
チケット販売好調、選手の強化に影響?
IPCは選手資格の要件となる運動まひや手足の欠損、視覚障害、低身長など10種類の障害を「選手クラス分け基準」で定めている。今回、車いすバスケはこの基準に含まれない選手の出場容認を問題視された形だ。IWBFは「非常に残念で悲しい結果だが、現状は理解している。東京大会と将来に向けて、パラで最も人気ある競技の存続を守るためにあらゆる手段を講じる。全ての選手、チーム、各国の連盟に協力と理解を求める」との声明を出した。
車いすバスケは日本でも漫画の作品になったり、テレビドラマやCMでも紹介されたり、最も人気ある競技の一つ。東京大会は8月26日から9月6日まで男女2種目を実施し、チケット販売も好調という。
ただ今回の対象となる障がいが比較的軽いクラスには、得点源となる選手や花形プレーヤーが少なくない。クラス分けの見直しによって参加資格を失う選手が出てくることも予想され、各国とも今後の強化に影響を及ぼす可能性も出ている。
日本代表は男子が12大会連続、女子は3大会ぶりに出場予定。期限は5月29日に迫るが、専門家によるクラス分けの再認定は作業も複雑で簡単ではない。IPCのスペンス氏は「明るい兆候も見えている。対象の80%の選手が再クラス分けをクリアすれば、東京大会は原則認められるだろう。ただゼロならIPC理事会が東京への対応を再検討することになる」との見方を示した。問題の解決策を探るIPCはこの基準にIWBFが従えば、2024年パリ大会から除外の可能性も取り消すとしている。