W杯5回目の出場で初めて1勝もできず
自力出場では21年ぶりだった、バスケットボール日本代表男子のワールドカップ(W杯)の全日程が終了した。元NBAプレーヤーで帰化選手のニック・ファジーカス、昨季にメンフィス・グリズリーズで15試合に出場した渡辺雄太、ワシントン・ウィザーズからドラフト一巡目指名を受けた八村塁のいわゆる“ビッグ3”を擁し、「史上最強のバスケ日本代表」と謳われていたが、結果は5戦全敗だった。
世界王者のアメリカには為す術もなくダブルスコアで敗れ(45-98)、八村が離脱した順位決定ラウンドのニュージーランド戦では81-111と歴史的大量失点を喫するなど、通算5回目の出場で1勝もあげられなかったのは初めてだ。
しかし、日本の男子バスケは統一プロリーグであるBリーグが2016年にスタートしたばかりで、いわば黎明期。ラグビーとサッカーは今やW杯出場の常連国となったが、どちらも世界への挑戦を始めた時期には惨敗の歴史が残る。
ラグビーはニュージーランドに145失点で惨敗
ラグビー日本代表はアジア最強を誇り、1987年の第1回からすべてのW杯に出場。第2回大会でジンバブエからW杯初勝利をあげたが、1995年の第3回大会では「ブルームフォンテーンの悪夢」と呼ばれる悲劇が待っていた。世界最強国のひとつであるオールブラックスことニュージーランド代表に、17-145と屈辱の大敗を喫したのだ。しかもこの試合、ニュージーランドは若手主体のいわば2軍で臨んでいた。
これが影響してか、大学ラグビーで国立競技場に6万人もの観客を集めていた日本国内のラグビー人気は一気に下落。その後の代表のW杯での成績も低迷を続け、2011年の第7回大会までの通算成績は1勝21敗2分と惨憺たるものだった。
しかし、2019年のW杯を日本で開催することが2009年に決まると、本格的な強化に着手。それまでほぼ日本人に限られていたヘッドコーチ(HC)に、積極的に外国人を起用した。
前回2015年の第8回大会はエディー・ジョーンズが徹底的に鍛えたジャパンを率い、南アフリカからの歴史的大金星など3勝をあげ、決勝トーナメント進出まであと一歩に迫った。
自国開催となる9月からのW杯はジェイミー・ジョセフがHCを務め、初の決勝トーナメント進出も現実的な目標として期待を集めている。
サッカーも王者ブラジルに世界の壁を見せつけられた
サッカー男子日本代表は、1998年のフランス大会でW杯に初出場した。だが結果は3戦全敗でグループリーグ敗退。得点も最後のジャマイカ戦の1点のみにとどまり、世界との距離を思い知らされた。
これに続く苦い思い出は、2006年ドイツ大会。わずかに決勝トーナメント進出の可能性を残したグループリーグ第3戦で、世界王者ブラジルと対戦した。前半に玉田圭司のゴールで先制するも、前半終了間際に追いつかれ、後半に入ってからはブラジルの怒濤の逆襲に耐えきれず1-4で敗戦。世界王者との力の差を見せつけられたばかりか、1勝もあげられずに大会を去った。
しかし、初出場の1998年フランス大会から6大会連続でW杯に出場している日本は、2002年日韓大会、2010年南アフリカ大会、2018年ロシア大会で決勝トーナメントに進出。今の日本サッカーは、世界と勝負できる舞台に立っていると言えるだろう。
まず改善すべきはパターンが少ない守備
バスケットボール男子日本代表が次の目標とする東京オリンピックまで、残り1年を切った。今回のW杯で見せ場なく5連敗に終わった事実に表れるように、課題は山積している。フィジカルや身長の問題はすぐに解決できるものではないので、攻守それぞれのポイントを限定して、改善点をあげる。
まず修正すべきはディフェンス。今大会ではニュージーランド戦の111失点を筆頭にすべての試合で80失点以上を喫し、1試合平均失点はなんと92.8。一方で1試合平均得点は出場32ヶ国中、30位の66.8にとどまる。
世界を相手にした場合に日本の得点力は、フリオ・ラマスHCが試合後に「限界に近い」と語ったように、チェコ戦であげた76点あたりが現実的な上限だろう。
日本は過去にW杯(前身の世界選手権を含む)に4回出場し、強豪国とは言えない相手ばかりだが通算5勝をあげている。そのうちの4勝は60点台以下の失点。強豪を相手に60点台に抑えることは現実的でないが、日本の得点力を考えると、せめて70点台のゲームに持ち込まないと勝利は遠い。
ⒸSPAIA
今大会で日本はほぼ同じシステムのマンツーマンのほかに、ゾーンディフェンスが1種類と、守備パターンの少なさを露呈した。それゆえ相手に守備の隙をつかれて流れをつかまれると、それを止めることができず、同じパターンで連続失点してしまう場面が目立った。
改善のためには今のスタイルでのディフェンス強度を上げながら、守備システムのバリエーションを広げることが必要。また劣勢の展開で受け身になるのではなく、自らゲームの流れをたぐり寄せられるような、積極的に仕掛けるディフェンスも持っておきたい。
オフェンスは3Pシュートの少なさを改善
オフェンスは前述の通り高い得点力を求められないのはともかく、3Pシュートが少ない。
今大会での1試合平均の3P試投数は18.8本で、20本を切るのは日本を含めて数チームしかない。成功率も28.7%で27位と低調。現在の日本代表は3Pを多く打つチームではないが、これほど3Pを打たない、入らないでは、相手はペイントエリアのディフェンスに集中できる。体格に優る相手にゴール付近を固められ、シュートを打つことすらできなかったシーンは大会中に幾度もあった。
相手のディフェンスを広げるためにも、外からの攻撃を増やす必要がある。試投数は20~25本程度、その上で成功率は最低でも33%以上あれば中と外の攻撃のバランスが整い、相手にとって守り辛さも出るはずだ。
この点については、メンバー構成を再考する必要もあるだろう。今回の代表から漏れてしまったが、代表経験が豊富な金丸晃輔(シーホース三河)はその候補のひとり。金丸は3P成功率が、Bリーグの3シーズン通算で40%を超えるピュア・シューター。2016-17シーズンには成功率42.6%でベスト3P成功率賞を受賞し、昨季は受賞こそ逃したが43.7%と、30歳を迎えた今も高水準を維持している。
また、昨季に金丸を抑えて成功率45.2%でベスト3P成功率賞を手にした石井講祐(サンロッカーズ渋谷)も、一考の価値ありだ。
さらにBリーガーに限らず、隠し球も用意されている。昨年のウインターカップの6試合で239得点をマークし、得点王に輝いた富永啓生だ。現在はアメリカのレンジャー短大に留学中で、3Pシュートを得意とする18歳。日本協会は来春の代表候補合宿に、招集する意向があるという。
2020東京、そしてその先へ、成長を止めてはならない
今大会で唯一、日本らしさに光明が見られたのは、リングにアタックする姿勢を崩さなかったこと。それによって1試合平均で約20回フリースローのチャンスを得ていて、成功率74.3%と、なんとか及第点といえる数字を残した。積極的にリングにアタックする姿勢は当然、今後も持ち続けるべきだ。
その上で3Pが機能すれば、攻撃のバリエーションは確実に増える。リングにアタックして、相手ディフェンスをゴール下付近に収縮させたところで、アウトサイドにパスを捌いて3Pシュート。これが、日本の新たな得点パターンに加えられる。
ラグビーやサッカーも、自分たちの特徴を把握して世界と勝負できるまでに時間を要した。バスケもそうなるまでには、まだまだ時間が必要だ。
高さとフィジカル勝負では、分が悪い。スピードを生かして平面で速いバスケを展開することこそ、日本バスケの行く道ではないだろうか。2020年の東京オリンピックは大きな目標だが、そこがゴールではない。まだ世界への扉を開いたばかり。その後も続く日本バスケの歴史のため、成長の歩みを止めてはならない。