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バスケ男子日本代表が見せた短期間での進歩 ドイツ撃破に繋がった二つの「実行力」

バスケ男子日本代表Ⓒマンティー・チダ
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Ⓒマンティー・チダ

ドイツ戦では18,355人が来場

22日から25日に、さいたまスーパーアリーナで「バスケットボール日本代表国際試合 International Basketball Games 2019」が3試合行われた。来年に控える東京オリンピックのバスケットボール会場には、連日多くの観客が訪れ、24日に行われたドイツ戦では18,355人が来場し、大いに沸いた。

試合結果としては、1勝2敗。22日のアルゼンチン戦は93-108で敗れ、24日のドイツ戦は86-83で勝利。25日のチュニジア戦は76-78で敗戦した。

バスケ男子日本代表・篠山竜青選手Ⓒマンティー・チダ

Ⓒマンティー・チダ


負け越したが、ワールドカップを見据えると、FIBAランキングで上位のドイツに勝利したことは大きかった。前半の劣勢な展開から、後半追い上げ、篠山の鮮やかなフローターで逆転に成功。歴史的な1勝を飾ったのだ。

八村のブロックショットがきっかけ 怒涛のアタックから逆転勝利

1Q、ドイツ#10Daniel Theisのダンク、#17Dennis Schroderの3pで5-9と引き離されかけるが、日本は八村がスティールからファストブレイクを成功させて追い上げ体制を作る。ファジーカスがフリースローで1点、八村のシュートやフリースローで12-11と逆転するが、直後ドイツに反撃され、Schroderが3pを2本沈め、Theisにも再びダンクを許すなど、結局日本は16-21の5点ビハインドで1Qを終了した。

2Q、比江島と交代した#12渡邊雄太が、最初の攻撃で速攻からの3pを狙うが外し、さらにオフェンスファウルをコールされるなど厳しい立ち上がりとなる。また、#15竹内譲次のファウルでドイツに献上した3本のフリースローを#12Robin Benzingに全て沈められ、#5Niels Giffeyがダンクを決め、一気に点差を10にされる。

しばらく10点差付近で試合は進んでいたが、残り2分31秒で日本はセカンドチャンスから#22ファジーカス ニックがシュートを決める。その後ドイツ#42Andreas Obstのターンオーバーから比江島がボールを奪い、速攻を仕掛けたところでSchroderがアンスポーツマンファウル。日本に絶好のチャンスが訪れ、比江島がフリースロー沈め29-37に。終盤、馬場のレイアップや八村のシュートが決まるものの、35-42でドイツがリードしたまま、前半を終える。

後半、追いかける展開であった日本は、田中をポイントガードに据えてスタート。ゾーンディフェンスを敷いてドイツに3pを打たせて外したところで、攻撃に転じ渡邊のバスケットカウントが成功。八村のダンクとバスケットカウントと続き、さらに渡邊がフローターを決めて5点差になる。

残り4分23秒、日本は篠山がコートに戻りポイントガードに入る。ドイツに3pなどで8点差になる場面もあるが、日本は田中が速攻からレイアップを入れると、直後の守備ではスティールに成功。さらにファジーカス、渡邊のフリースローと続き3点差まで追い上げたところで3Qが終了する。

4Q、出だしからドイツに得点を許す。7点差に開いた場面もあったが点の取り合いとなって次第に点差が詰まっていき、八村の3p、比江島のドライブイン、馬場の速攻で点差を2まで詰める。しかし、残り4分6秒で#7 Johannes Voigtmannに叩き込まれたダンクで4点差となる。ここで日本はタイムアウトを請求。4点差を追いかける日本。ここから怒涛の反撃を見せる。

バスケ男子日本代表・八村塁選手Ⓒマンティー・チダ

Ⓒマンティー・チダ


Schroderのシュートに対して八村のブロックショットが炸裂。日本ボールとなると、八村のジャンプシュートで2点差に。篠山のファウルで相手にフリースローを2本決められるが、馬場が速攻からリングに向かってアタック。その跳ね返りを渡邊が合わせて、ダンクを決めて点差2まで接近。Schroderにシュートを決められるが、直後の攻撃で渡邊がオフェンスリバウンドでセカンドチャンスを獲得。ファジーカスがコーナーから3pを沈めてドイツのリードは1点になる。さらに渡邊がブロックショットでドイツの得点を止め、馬場がバックコートから一気にリングに向かって走り、ペイントアタックしてフリースローを獲得。2本とも沈めて逆転に成功した。

さらに篠山が自らボールをキープしてからフローターを鮮やかに決めてリードは3点に。この時点で残りは1分4秒。ここからは両チームともタイムアウトを取りながら駆け引きを展開。最後は渡邊がフリースローを2本決め、残り1秒でドイツもシュートを決めるが、リードは日本のままで試合終了。日本がドイツを86-83で下して大金星を挙げた。

「ドイツ戦の勝因は実行力の向上」ラマスヘッドコーチ

ドイツ戦の勝利には大きな意味があった。8月末から始まる「FIBAバスケットボールワールドカップ2019」で日本は1次ラウンドでトルコ、チェコ、アメリカと同じ“POOL E”である。2次ラウンドに進むためには上位2か国に入らないといけない。FIBAランキング1位で“ドリームチーム”と呼ばれているアメリカ、そして国際大会で未勝利のヨーロッパ勢であるトルコ、チェコで争うこととなる。

トルコはFIBAランキング17位、チェコは24位、ドイツは22位で日本は48位。(FIBAランキング 2019年2月26日最終更新)

FIBAランキング上ではあるが、ドイツに勝利したことでトルコやチェコ戦でも勝利への希望が見えそうだ。但し、ドイツは前日の対チュニジアと日本との2連戦で時差ボケの影響がある一方、日本はアルゼンチン戦から中1日。「ドイツが100%の力で向かってきたかどうかは計りきれません」と篠山がコメントする通り未知数の部分もあるが、勝利したことに間違いはない。

ラマスHCは、ドイツ戦を迎えるにあたり「ニュージーランド戦やアルゼンチン戦と戦術面では大きく変えていない」と話す。

「練習の中で何度も繰り返しているプランを、試合になっても同じようにやらないといけない。これが実行力」

ラマスHCは繰り返すことにより、‟実行力”が、大幅に向上してどんな局面でも対応できていたことを勝因とした。その‟実行力”とは二つある。

一つはディフェンス。日本は主に後半からゾーンディフェンスを敷いて、ドイツの3pシュートアテンプトを増やしていた。さらに増やすだけでなくシュート成功率を下げることにも成功していた。結果として3pを39本トライされているが、決められたのは10本。3pを多く打たせたにもかかわらず、相手の得点を抑えることに成功した。

記者会見で渡邊は「相手が外してくれたシュートもたくさんあったが、1on1で崩されたときに自分たちも粘り強くディフェンスし、最後まで諦めずにコンテストに行ったことが改善できた部分」とディフェンス向上を勝因とした。ニュージーランド2戦目、アルゼンチン戦はハイスコアゲームとなったが、ドイツ戦では80点台のゲームで収めた。これだけでも大幅な進歩だと思われる。

もう一つはペイントアタック。この大会を通して、速攻から含めたペイントアタックがきっかけでペースを掴んでいる。アルゼンチン戦では篠山や比江島がペイントアタックから得点に成功し、一時はリードを奪っていた。ドイツ戦でも田中や馬場が積極的に仕掛けて最後の逆転劇となった。リング近くでシュートを打つと決定率も向上する。勇気をもって果敢に攻めていく事ができれば視界は広がる。

バスケ男子日本代表・速攻からレイアップをきめる田中選手写真Ⓒマンティー・チダ

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一方で課題もある。ドイツ戦で勝利したものの、リバウンドではドイツに大きく水を開けられた(日本33、ドイツ43)。特にオフェンスリバウンドではドイツに22本許し、そこから失点に繋がった。八村も「試合に勝ったが、リバウンドはすごく負けている」と記者会見で振り返り、ラマスHCはワールドカップを見据え「トルコやチェコはドイツよりもサイズが大きく、アメリカは身体能力が高い選手の中、リバウンドで対抗できるようにしていかなければ」と語った。

世界との戦いでは、身長差がどうしても生じる。ただ、それをカバーできるだけの材料、‟実行力”は揃ってきた。粘りのディフェンスを実行し、勇気をもってリングへアタックすること。まだまだ伸び代も期待でき、これからも日本バスケの飛躍が期待される。