内角投球をはじき返した瞬間に本領発揮
破竹のポストシーズン10連勝で日本シリーズ3連覇を果たしたソフトバンク。その日本シリーズで3本塁打の大活躍を見せ、MVPに輝いたのが来日2年目のグラシアルだ。夏場にキューバ代表の国際試合に参加した影響などで規定打席にこそ届かなかったものの、打率.319、28本塁打と獅子奮迅の働きを見せた。この助っ人の打撃には、どのような特徴があるのだろうか。
ゾーンを横に3分割して長打率を算出すると、グラシアルのストロングポイントは明らかだ。内角の長打率は、甘いコースといえる真ん中を2年連続で上回っている。内角の投球をはじき返した瞬間こそ、グラシアルの本領が最も発揮されたときといえるだろう。
芸術的なスイング
出場機会が限定的な中で長打力を見せた2018年と比較して、本塁打のペースを2019年でさらに上げた原因もこの内角にありそうだ。内角の本塁打は12本を数え、中でも低めでは7本塁打を記録していた。インローの投球に対して強い打球を放つためには、「右肘を抜く」といった表現の独特なスイングが求められるが、グラシアルはその模範のようなスイングで内角をさばく。
6月13日の試合では阪神・高橋遥が投じた内角低めに食い込んでいくカットボールに反応。工藤監督をして「フェアグラウンドに飛ばすのも難しい」と言わしめたボールを芸術的なスイングでレフトスタンドへ運んだ。この一発は、グラシアルという打者を象徴するものだろう。
内角に驚異的な強さを発揮
グラシアルのインローの強さは近年稀に見るもので、このコースで記録した長打率1.061は過去10年のNPBで堂々のトップに位置している。リーグ2冠に輝いた年の筒香やシーズン60本塁打の日本記録を樹立した2013年のバレンティンの数字をさらに上回る、といえば、そのすごさが伝わるのではないだろうか。柳田や中村晃ら主力を故障で欠き、例年のような得点力を発揮できなかったソフトバンク。内角に驚異的な強さを発揮したこの男がいなければ、日本シリーズ3連覇には届いていなかったかもしれない。
キューバ政府との交渉が必要なため、同胞のデスパイネ同様にグラシアルもソフトバンク残留が確定したわけではない。とはいえ、百戦錬磨の両打者が日本シリーズ4連覇とリーグ奪還を狙うチームの一員として2020年もプレーしてくれることを球団もファンも望んでいるはずだ。円熟の内角さばきを見せるグラシアル。捕手がバッターボックスに寄って構えたとき、その打席にはぜひ注目してほしい。
※文章、表中の数字はすべて2019年レギュラーシーズン終了時点
企画・監修:データスタジアム
執筆者:大島 甲子郎
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