将来のエースたる姿を予感
今季、プロ入り初勝利を含む8勝(2敗)を挙げて飛躍のシーズンとなったロッテの種市篤暉。開幕当初はリリーフでのスタートだったが、4月末に先発に配置転換されると順調に白星を積み重ね、投球回は昨季の38回1/3を大きく上回る116回2/3。さらに、リーグ4位となる135奪三振もマークした。
シーズン前の合同自主トレで共に過ごしたソフトバンクの千賀滉大から、「貫通力がすごい」と評された直球と落差のあるフォークを武器に打者を封じ込め、シーズンを通して比較的安定感のある投球を見せた。特に楽天との3位争いが続いていたシーズン終盤の投球内容は、将来のエースを予感させてくれるものだった。
8月25日のソフトバンク戦では8回4安打2失点8奪三振、9月22日の日本ハム戦では8回5安打無失点9奪三振の快投。「ピンチに粘れたのがすごい良かったです」「今日もピンチが多かったですが、なんとか抑えられました」といった試合後の談話が、種市の投球の真髄を物語っている。
走者をためてピンチを迎えても、すぐに気持ちを入れ直し、次の打者から狙って空振り三振を奪う。ピンチになるとギアを入れ力でねじ伏せる様は、かつて楽天に在籍した田中将大(現ヤンキース)や千賀、巨人の菅野智之らエースと呼ばれる投手たちと似通った素質を感じさせた。
フォークは一級品
種市の投球の中心となっているのが、全球種中約60%を占める直球(今季最速153km)と約22%のフォーク、約18%のスライダーだ。
中でも目を引くのがフォークで奪う空振率。昨季は約18%だった奪空振率が今季は約26%に増加。お化けフォークが代名詞の千賀ですらフォークの奪空振率は約24%、150km近い高速フォークを操るオリックスの山本由伸でも同球種の奪空振率は約23%。この事実からも、種市のフォークが一級品であることがわかる。

また、ゾーン別データをみると、右打者・左打者ともに、外角低めで最も多くの三振を奪っている(左打者から23個、右打者から29個)。カウントで追い込むと外角低めの直球で見逃し三振を奪い、同じく外角低めのスライダーで空振り三振を奪うシーンを今季は幾度となく目にした。特に調子が良い時の種市は、直球にしろフォークにしろスライダーにしろ、決め球がバットに当てられる気配がないほどに、変化の大きさとキレ味が抜群だった。
100イニング以上の投手を対象とした奪三振率についても、種市はリーグ2位につけている。先発投手として10.41(昨季は6.57)という奪三振率は見事というしかない。

国際大会でも粘りの投球を披露
種市の潜在能力は、侍ジャパンの首脳陣も以前から高く評価していた。2018年10月にコロンビアで開催された「第2回WBSC U-23ワールドカップ」に招集されていた種市は、台湾戦とベネズエラ戦で先発して2勝をマーク。U-23日本代表の準優勝に大きく貢献している。
特にオープニングラウンド全勝対決となったベネズエラ戦では、初回に3点本塁打を浴びながらも以降は8回まで無失点。8回8安打3失点8奪三振と粘りの投球を見せ、日本の逆転勝利を呼び込んだ。同試合では毎回のように走者を許したが、ピンチの場面ではギアを入れ、強力ベネズエラ打線に真っ向勝負で打ち取った。
建山義紀コーチは種市について「長いイニングを投げ、最少失点に抑えられる力がある」と称賛。稲葉篤紀監督も「ピンチは多かったが、とても粘り強く投げてくれた」と評価していた。今季見せたような粘りの投球は、国際大会の舞台でも既に披露していた。
全ての面で進化した姿を
種市は今オフ、多数のメジャー選手らも利用する米・シアトルのトレーニング施設「ドライブライン・ベースボール」に派遣された。動作分析の専門家をはじめ、トレーナーや医師らのもとで科学的な知見に基づいた指導を受けた。研究熱心な種市にとって、その全てが大きな刺激と財産になったはずだ。
ドラフト1位ルーキー佐々木朗希も入ってくる。青森県三沢市出身の種市にとっては東北の後輩にもあたり、必然的にモチベーションは高まるだろう。「(ロッテは)入団して3年から5年の若い投手が活躍されている」と話す佐々木にとっても、種市らの存在は大きな刺激となる。
石川歩やフリーエージェント(FA)権を行使して移籍してきた美馬学ら経験のある中堅投手の奮起は期待したいところだが、Aクラス入り、そして優勝争いをするためには、種市をはじめとした若手先発投手陣の活躍が大きな鍵を握っている。2018年シーズン、初めての1軍の試合で7回登板。未勝利ながらも確かな課題と一定の手応えをもとに今季の飛躍につなげた種市。今年得た様々な経験を糧に、来季は全ての面で進化した姿を見せてくれるはずだ。