「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

ボビーとの出会い、輝いた記憶 今江敏晃は更なる未来へ

2019 12/6 11:00浜田哲男
今季限りで引退した楽天・今江敏晃ⒸYoshihiro KOIKE
このエントリーをはてなブックマークに追加

ⒸYoshihiro KOIKE

大舞台で光った勝負強さ

今季限りで18年間の現役生活に終止符を打った今江敏晃(現役引退後、楽天の育成コーチ就任に伴い、登録名を年晶から敏晃に変更)。昨季は127試合に出場し、楽天入団後初の規定打席に到達。打率.276、10本塁打と復調の兆しを見せていたが、今季は右眼球中心性漿液性脈絡網膜症という目の病気を患った影響が大きく、わずか26試合の出場にとどまった。体が元気なこともあり、ある意味では無念の引退となったが、今後は後進の育成にあたる。

今江といえば、大舞台での勝負強さが印象的なプレーヤーだった。ロッテ時代、三塁でレギュラーに定着したプロ入り4年目の2005年。同年8月に月間打率4割以上をマークすると、一時は打率でリーグトップに躍り出るなど打撃が開花。プロ入り後初めて規定打席にも到達し、打率.310をマークするなどチームのリーグ優勝と日本一に大きく貢献した。特に日本シリーズでは開幕戦初打席で本塁打を放つと8打席連続安打を達成し打率は.667。日本シリーズでの新記録をマークし、同シリーズのMVPにも輝いた。

リーグ3位からの下克上日本一を達成した2010年もシーズンを通じて活躍。打率.331のハイアベレージを残すと、日本シリーズでも打率.444をマークするなど勝負強さを発揮し、2度目の同シリーズMVPを獲得した。当時今江は「ロッテは勢いのチーム」と語っていたが、まさにその象徴が今江と言っても過言ではなかった。

通算打率は.283。1682本の安打を放った。度重なる怪我に泣かされ、特に楽天移籍以降はファンの期待に応えられるような成績を残せなかったかもしれないが、18年間を通して考えれば、十分に胸を張っていい記録と記憶を残した。

転機となったバレンタイン監督との出会い

自身と合う指導者との出会いがプレーヤーの転機になることは多い。2004年にロッテの監督に再就任したボビー・バレンタイン監督は、2軍にいた今江の才能を一目で見抜いた。当時初めて目にした今江の姿が、メジャー通算609本塁打を放ったサミー・ソーサの若い頃を見ているようだったといい、「2人は同じ輝きを放っていた」とも語っている。

バレンタイン監督は2004年シーズンの中盤から今江を1軍に引き上げ、三塁で起用。同年は故障により41試合の出場にとどまったものの、プロ入り初本塁打をマークするなど、同じ三塁の初芝清やマット・フランコらと一時はレギュラーを争う活躍も見せた。だが、打率も上がらずチャンスで凡退を繰り返すシーンも多く、1軍に上げたのは時期尚早との声も周囲から囁かれた。それでもバレンタイン監督は今江に「2軍に戻る心配をしなくていい。お前はずっとここにいるんだ」と声をかけ続け、翌2005年のブレイクにつながった。バレンタイン監督は、今江が大きく飛躍した理由についてこう語っていた。

「若い選手は自分の才能を信じることが大切。(結果が出ないと)2軍に落とされるのではないかと心配させてはいけない。今江が飛躍できたのは、自分は1軍に定着する選手なんだと心から信じることができたからだ」

バレンタイン監督との出会いが、今江のその後の野球人生を大きく変える転機となったことは間違いない。

積極的な打撃でチームを上昇気流に

勝負強く、打ち出すと止まらない。そんなイメージの強い今江の大きな魅力が積極的な打撃だった。現役18年間を振り返ると、トータルの四球数は280個。単純計算で1シーズン平均16個という少なさだ。最も四球が多かったのは2018年の32個。ボール球を見極めて四球を増やせば、出塁率をより高められる可能性もあったのかもしれないが、少々のボール球でも強引に打ちにいくのも今江の魅力。積極的な打撃が、マリンガン打線と呼ばれた当時のロッテ打線に火をつける要因のひとつだったともいえる。

また、右打ちの上手さにも定評があった。特にライナー性の打球を右方向に飛ばす打撃を幾度となく見せてもらった。打率.325をマークし、ロッテのクライマックスシリーズ(CS)進出に貢献した2013年シーズンは、右方向の打率が.443と打球方向別打率で最も高い。4年ぶりに規定打席に到達した2018年も右方向の打率は.352とハイアベレージをマークしており、晩年まで右打ちの上手さは健在だったことがわかる。

今江が打つと打線に火がつき、チームが上昇気流に乗っていく。そんなプレーヤーだった。実際、今江がロッテ在籍時、特に活躍したシーズンである2005年(リーグ優勝・日本一)、2010年(日本一)、2013年(CSファイナルステージ進出)は、チームも好成績を残している。

第二の今江の発掘と育成に期待

ミスタータイガースこと掛布雅之氏は、かつて今江について「打席の中で今江ワールドというものがある」と今江の魅力を評している。確かな実績も残しているが、大舞台での勝負強さ、積極的な打撃、打席の中での独特な雰囲気といったものは、多くのファンの記憶に残るものだった。

グラウンドで躍動する今江をもう見ることはできないが、今は後進の育成に向けて意欲を見せている。かつて自身がバレンタイン監督に見出されて成長を遂げたように、第二の今江を発掘し育成してほしい。