苦しい台所事情の先発陣で孤軍奮闘
2019年シーズン、リーグ5位と低迷した日本ハム。開幕投手を務め、ローテーションの柱として期待されていた上沢直之が、6月18日のDeNA戦でソトの放ったライナーを左膝に受けて戦線離脱。昨季10勝をマークしたニック・マルティネスは、相次ぐ故障で今季未登板に終わるなど、先発の柱が揃わなかったことが最後まで響いた。
そんな苦しい台所事情の中で孤軍奮闘。自身初となる最多勝(15勝8敗)に輝くなど本格的に覚醒したのが有原航平だ。元々潜在能力は高く、ドラフトでは日本ハムのほかDeNA、広島、阪神と4球団が競合した。プロ入り1年目に8勝6敗で新人王に輝き、以降もローテーションの一角で、チームに欠かせない戦力として存在感を示してきたが、今季は大きく飛躍した。
それでは、有原の一体何が変わったのだろうか。
チェンジアップが機能
今季、有原はチェンジアップを多投した。球種配分をみると、昨季は同球種の割合は約9%だったが、今季は約19%に増加。被打率は昨季も.214と良い数字を残していたが、今季は.144で被本塁打は0。また、シーズンを通じて161個も三振を奪っているが、そのうちの44個は同球種によるものだ。
昨季までは主にフォークをウイニングショットとしていたが、チェンジアップを巧みに操れるようになったことで投球の幅が格段に広がった。特に左打者を2ストライクと追い込んでからチェンジアップを投じる場面が多く、同球種による空振り率は約20%と高い数字を残した。
今季オリックスから、多彩な変化球を高精度で操る金子弌大が加入したが、そのチェンジアップは一級品。生きた教材を間近で見て、アドバイスを受けられる環境であったことが、有原のチェンジアップに磨きをかけた形だ。
変幻自在のコンビネーション
もうひとつ大きく変わった点がツーシーム。昨季は全く投じていなかったツーシームを今季は巧みに操り(割合は約9%)、効果的に織り交ぜた。特に右打者には140km台中盤の高速ツーシームで内角を突いた後、外角のスライダーやカットボールで打ち取るケースが多々見られた。
元々多彩な変化球を持っていた有原だが、今季ツーシームを加えたことで持ち球は直球を含めて7種類に。直球の約31%をはじめ、決め球として機能したチェンジアップが約19%、スライダー約14%、フォーク約10%、カットボールとツーシームが各約9%、カーブ約6%とバランスよく投げ分けている。150キロ台の直球を柱としながら、縦横の変化に奥行きも加えた、7色の持ち球を操る変幻自在のコンビネーションで打者を翻ろうした。
真価が問われる来季
今季、パ・リーグで規定投球回数に到達した投手は6人しかいなかった。また、日本ハムはシーズンを通じてわずか1完投だったが、これは史上最少記録。規定投球回をクリアする先発投手が激減し、これまで以上に貴重な存在となっている。楽天からフリーエージェント(FA)宣言し、ロッテへの移籍が発表された美馬学は移籍市場で高い評価を得ていたが、最近5年間で規定投球回数に3回到達していることも高評価の一因だった。
有原も同様にプロ通算5年で規定投球回数に3回到達。1年目から計算できる先発投手として安定した数字を残してきた。今季は覚醒したシーズンとなったが、来季からが真の勝負だ。ハイレベルな数字を残したことで相手チームからのマークも当然厳しくなるだろうし、今季と同様の投球で通じるほど甘くはない。
今季はマウンドでエースの風格をも漂わせていた有原。来季はどのような進化を見せてくれるのか注目だ。
※数字は2019年シーズン終了時点