先発の柱として期待
楽天からフリーエージェント(FA)宣言をした美馬学は、新天地にロッテを選んだ。昨季は14試合の登板で2勝にとどまり、右肘のクリーニング手術を受けるなど不本意なシーズンに終わったが、今季は開幕からローテーションを守り続けて規定投球回に到達。8勝(5敗)をマークするなど復調した。今季のロッテは規定投球回に達した投手が不在だったこともあり、先発ローテーションの柱としての活躍が期待される。
美馬が最近5年間で規定投球回に到達したのは3回。シーズンを通してローテを守れる先発投手として計算が立つ一方で、高校時代から右肘の手術を経験し、不安を抱えている。ロッテはこれまでチームドクターを置かずにトレーナー主導で選手を支えてきたが、2020年度より、順天堂大学医学部附属順天堂医院及び順天堂大学医学部附属浦安病院から、医療面、栄養面、コンディショニング面で全面的なサポートを受けることになっており、それも美馬は魅力に感じたはずだ。
若手のお手本、同世代には刺激
今季パ・リーグで規定投球回に到達した投手は、美馬を含め史上最少の6人。ロッテの先発投手陣においても、本来、規定投球回に到達し、それなりの勝ち星を挙げるべき投手たちが軒並み不振に終わった。涌井秀章はここ数年負けが先行(今季3勝7敗)、石川歩も期待していた活躍には程遠く(今季8勝5敗)、昨季13勝を挙げたボルシンガーもわずか4勝にとどまった。
その一方で、若手投手の台頭が目立つシーズンでもあった。高卒3年目の種市篤暉はプロ初勝利を挙げると順調に勝ち星を積み上げ、8勝(2敗)をマーク。投球回は昨季の38.1回から116.2回に増加した。高卒5年目の岩下大輝は5勝(3敗)を挙げ、投球回は昨季の25.2回から96.1回とこちらも大幅に増えた。
今季は涌井や石川ら経験のある投手たちより、若手が引っ張った形だ。種市、岩下のほか、二木康太、佐々木千隼、小島和哉、土肥星也ら若手の投手たちには来季さらなる飛躍が期待される。ただし、まだ計算が立つところまではいっていない。経験豊富かつここ数年安定してイニングを稼いでいる美馬は、若手先発陣にとっては良きお手本となり、涌井や石川ら同世代の投手らには良い刺激となるだろう。
優れた制球力と多彩な変化球
美馬の長所のひとつが制球力。9イニングあたりの与四球数を示すBB/9(与四球率)をみると、美馬の数値は規定投球回に到達した投手の中でリーグトップの1.50だった。いかに制球力に優れているかがこの数字からもわかる。
その上、多彩な変化球を持っており、球種配分をみても直球が約30%、スライダー約25%、フォーク約14%、シュート約10%、カーブ約9%、チェンジアップ約5%と極端な偏りはない。また、今季の奪三振数は112個だが、フォークで39個、スライダーで30個、直球で18個、カーブで17個と、どの球種でも三振が奪えている。三振をとれる球種は1つか2つという投手が多い中、様々な球種で勝負できるのは強みといえる。
そして、内角を強気に攻めるのも持ち味。変化球を生かすための配球や熟練の投球術は、若手にとって生きた教材となるだろう。
ソフトバンクキラー
美馬はソフトバンクキラーでもある。今季のシーズン防御率は4.01だったが、ソフトバンク戦では7試合に登板し防御率1.97、3勝(1敗)と相性が良かった。6月2日の対戦では6回1死まで一人の走者も出さない好投を見せたほか、7月19日の対戦では、8回まで無安打無四球の完全投球。9回に2安打1失点を喫したものの、抜群の制球とコンビネーションで相手打線を見事なまでに手玉にとった。
ロッテは今季、ソフトバンクに17勝8敗と大きく勝ち越した。ソフトバンク側からすると、美馬が加わることでロッテはさらにやっかいな相手になったといえる。来季の開幕はソフトバンク戦に決まっており、開幕3連戦での登板も十分に考えられるだろう。
美馬は、種市や岩下ら若手投手にとって良きお手本であり兄貴分、同世代の涌井や石川らにとっては起爆剤となりうる。美馬の加入が、投手陣にどのような化学反応をもたらすか注目だ。